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明治維新編12 成功の報酬
成功の報酬(1)
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日朝修好条規を締結して、凱旋帰国を果たした馨を待っていたのは、木戸からの「卿・参議の分離」を進めたいので、手伝ってほしいという文だった。大久保にはすすめる気がないことは分かっていたので、馨は木戸に対してどう対応した良いか苦慮していた。
そんな時馨は、福沢諭吉と会う機会があった。馨は福沢の行っている塾に視察も兼ねていくことにした。
「これは、福澤さん、お招きありがとうございます」
「政府の中の開明派で民権にも興味をお持ちと、ぜひお会いしたいく、このようなむさ苦しいところですが」
「お噂は福地源一郎などからもお聞きしとります」
「井上さんも、なかなかなお人とお伺いしてます」
「私の方はどうせろくな話ではないでしょう。そこの新聞にも『朝鮮に行って商売をしてきた』などと」
馨は笑いながら、応接室に置かれていた新聞を指さしていた。
「大阪会議での立憲政体の話、とても興味深いものでした」
福沢はちらと目を落した後、馨を見て笑った。馨はいいきっかけをもらえたと、木戸の話をしてみた。
「それは嬉しいことですが、木戸さんは失敗だったと言い出されて。お体の具合といい、心配で」
「そろそろ潮時ではとお思いですか」
「いや、引退をというのもなかったわけではないですが、安定について考えると難しく。なにか良いご意見でもいただきたいくらいじゃ」
「さようですか。では私からもなにか良い考えがありましたらお伝えしましょう」
「それは、誠にありがたいの」
「そういえば、洋行なさるとか」
「あぁ、欧米といってもイギリスにて3年間、40の手習いと申すか、エコノミーなどをしっかり学ぶつもりです」
「ほう、それはなかなか良いことですな。そういえば、イギリスには当塾の書生も留学中ですな。向こうでお会いできるよう、連絡をつけておきましょう」
「それはありがたいことじゃ。ぜひお願いしたい」
「良い成果が得られるようお祈りいたします」
「ありがとうございます」
さすが当代きっての学者だ。福沢からの文なら木戸さんもなにか変わるかもしれない。あまり深く考えず、一緒に洋行してくれれば一番良いのだが。
俊輔が慰労の宴を持ってくれた。馨はまず第一にと欧米遊学の件で、俊輔と条件を詰めていくことにした。馨にはいくつかの不安材料もあった。
「聞多、お疲れじゃったね」
「あぁ、黒田は酒飲まんとええんじゃ。冷静に事を進めとったよ。でもなぁ」
「なんかあったのか」
「男ばっかりのむさ苦しい船で、つまらんかった。帰りの船じゃ、新橋や柳橋できれいどころ集めた夢ばっかりみとったよ」
「それで、居続けして、武さんに怒られたんか」
うむっ、俊輔は武子の愚痴を梅さん経由で聞いたのかと笑っていた。
「そうじゃ。あぁ話したいはこれじゃない。洋行のことじゃ。木戸さんも行けるということで間違いないの」
「聞多、木戸さんも洋行することには問題はない」
「それは大久保さんや岩倉さんも、了承しているということでええんじゃな」
「そうじゃ」
「いや、木戸さんからはまともな回答を、得られておらんとあっての、わしとしては心配なんじゃ」
「それは聞多の心配しいなだけじゃ」
「そうか。わしの待遇はどうなる。武さんやお末も連れて行くんじゃ。東京と同じくらいの生活ができんと」
「きちんと給金がでるし、向こうでも受け取れる」
「他にも日下義雄や書生を連れて行って学ばせるつもりじゃ。日下の待遇もしっかり頼む」
「わかった。それに聞多には30日の賜暇も認められとる。一応洋行前の墓参のためということになっとるが」
「そりゃええ。ところで木戸さんのことだが、参議の辞任の希望を出しておるとか。大久保さんとの関係は実のところどうなんじゃ」
「僕は聞多の心配を増やさないため、大久保さんと木戸さんの間を走り回っちょる」
博文が大笑いをしながら言った。
「そうか、木戸さんは卿・参議の分離を諦めとらん。大久保さんも考えてくれているはずだと。わしにはそうおもえん。無理だと言いたいところなんだが」
反対に馨は落ち込んでいた。一仕事をしたとは言っても、状況はあまり変わっていなかった。
「僕と話は詰めいているとするしか、無いのかもしれんの」
「ただ、参議を辞任されては、大久保さんはやり辛いだろう。なにか役職を考えてついてもらわんと」
「大久保さんも考えているはずだ」
「後は前原さんの動きはどうなんじゃ。政府に不満のある士族を集めとるという話を聞くが」
「台湾・朝鮮も片付き外征として活動する可能性も、無うなったからな。破裂することが無いようしていく必要がある」
「そうじゃの。わかった。それではまた」
「もう帰るのか」
「すまん。家のこととか色々あっての」
そう言って馨は、俊輔との宴席から立ち去っていった。
帰宅した馨を待っていたのは、三井の三野村利左衛門だった。
「三野村、よう来たの。実はそろそろ来るんじゃないかと待っとった」
「さすが井上様、よくご存知でそれでは率直に」
「実は先日大蔵省によばれまして、本格的に外国との取引をする会社が必要だと言われました。大隈様に詳しく話をお聞きしましたところ、絹糸のようなものだけでなく、将来は石炭のようなものまで取引をすることになると。そうなると今の三井では難しいことになりますが、ただお断りするのももったいないことで。井上様にまずご相談をと思い参りました」
馨は千収社の整理のときに思い立ったことが、実現できそうなことが嬉しかった。
「おう、そうか。絶好の人物がおるぞ」
「井上様がされていたのは、商事会社でございましたね」
「そうじゃ。実際イギリスに米を売ったり、銃を輸入したりしとったし、他にも色々やったぞ。そんな連中が今暇じゃ」
「確かにそうでございますね。ぜひ一度お会いしてみとうございます」
「よしわかった。中心人物の益田孝を紹介しよう。ここで、3日後でどうか」
「よろしゅうございます」
「それで、わしはしばらく洋行することになった」
「どれくらいでございますか」
「3年じゃ。伊藤も大隈もおる。悪いようにはせんだろ」
「はいわかりました。それではこのへんで失礼します」
「では3日後じゃな」
三野村利左衛門が帰っていった。
これで、益田に義理が立つ、うまくいくことは間違いないと思った。
そんな時馨は、福沢諭吉と会う機会があった。馨は福沢の行っている塾に視察も兼ねていくことにした。
「これは、福澤さん、お招きありがとうございます」
「政府の中の開明派で民権にも興味をお持ちと、ぜひお会いしたいく、このようなむさ苦しいところですが」
「お噂は福地源一郎などからもお聞きしとります」
「井上さんも、なかなかなお人とお伺いしてます」
「私の方はどうせろくな話ではないでしょう。そこの新聞にも『朝鮮に行って商売をしてきた』などと」
馨は笑いながら、応接室に置かれていた新聞を指さしていた。
「大阪会議での立憲政体の話、とても興味深いものでした」
福沢はちらと目を落した後、馨を見て笑った。馨はいいきっかけをもらえたと、木戸の話をしてみた。
「それは嬉しいことですが、木戸さんは失敗だったと言い出されて。お体の具合といい、心配で」
「そろそろ潮時ではとお思いですか」
「いや、引退をというのもなかったわけではないですが、安定について考えると難しく。なにか良いご意見でもいただきたいくらいじゃ」
「さようですか。では私からもなにか良い考えがありましたらお伝えしましょう」
「それは、誠にありがたいの」
「そういえば、洋行なさるとか」
「あぁ、欧米といってもイギリスにて3年間、40の手習いと申すか、エコノミーなどをしっかり学ぶつもりです」
「ほう、それはなかなか良いことですな。そういえば、イギリスには当塾の書生も留学中ですな。向こうでお会いできるよう、連絡をつけておきましょう」
「それはありがたいことじゃ。ぜひお願いしたい」
「良い成果が得られるようお祈りいたします」
「ありがとうございます」
さすが当代きっての学者だ。福沢からの文なら木戸さんもなにか変わるかもしれない。あまり深く考えず、一緒に洋行してくれれば一番良いのだが。
俊輔が慰労の宴を持ってくれた。馨はまず第一にと欧米遊学の件で、俊輔と条件を詰めていくことにした。馨にはいくつかの不安材料もあった。
「聞多、お疲れじゃったね」
「あぁ、黒田は酒飲まんとええんじゃ。冷静に事を進めとったよ。でもなぁ」
「なんかあったのか」
「男ばっかりのむさ苦しい船で、つまらんかった。帰りの船じゃ、新橋や柳橋できれいどころ集めた夢ばっかりみとったよ」
「それで、居続けして、武さんに怒られたんか」
うむっ、俊輔は武子の愚痴を梅さん経由で聞いたのかと笑っていた。
「そうじゃ。あぁ話したいはこれじゃない。洋行のことじゃ。木戸さんも行けるということで間違いないの」
「聞多、木戸さんも洋行することには問題はない」
「それは大久保さんや岩倉さんも、了承しているということでええんじゃな」
「そうじゃ」
「いや、木戸さんからはまともな回答を、得られておらんとあっての、わしとしては心配なんじゃ」
「それは聞多の心配しいなだけじゃ」
「そうか。わしの待遇はどうなる。武さんやお末も連れて行くんじゃ。東京と同じくらいの生活ができんと」
「きちんと給金がでるし、向こうでも受け取れる」
「他にも日下義雄や書生を連れて行って学ばせるつもりじゃ。日下の待遇もしっかり頼む」
「わかった。それに聞多には30日の賜暇も認められとる。一応洋行前の墓参のためということになっとるが」
「そりゃええ。ところで木戸さんのことだが、参議の辞任の希望を出しておるとか。大久保さんとの関係は実のところどうなんじゃ」
「僕は聞多の心配を増やさないため、大久保さんと木戸さんの間を走り回っちょる」
博文が大笑いをしながら言った。
「そうか、木戸さんは卿・参議の分離を諦めとらん。大久保さんも考えてくれているはずだと。わしにはそうおもえん。無理だと言いたいところなんだが」
反対に馨は落ち込んでいた。一仕事をしたとは言っても、状況はあまり変わっていなかった。
「僕と話は詰めいているとするしか、無いのかもしれんの」
「ただ、参議を辞任されては、大久保さんはやり辛いだろう。なにか役職を考えてついてもらわんと」
「大久保さんも考えているはずだ」
「後は前原さんの動きはどうなんじゃ。政府に不満のある士族を集めとるという話を聞くが」
「台湾・朝鮮も片付き外征として活動する可能性も、無うなったからな。破裂することが無いようしていく必要がある」
「そうじゃの。わかった。それではまた」
「もう帰るのか」
「すまん。家のこととか色々あっての」
そう言って馨は、俊輔との宴席から立ち去っていった。
帰宅した馨を待っていたのは、三井の三野村利左衛門だった。
「三野村、よう来たの。実はそろそろ来るんじゃないかと待っとった」
「さすが井上様、よくご存知でそれでは率直に」
「実は先日大蔵省によばれまして、本格的に外国との取引をする会社が必要だと言われました。大隈様に詳しく話をお聞きしましたところ、絹糸のようなものだけでなく、将来は石炭のようなものまで取引をすることになると。そうなると今の三井では難しいことになりますが、ただお断りするのももったいないことで。井上様にまずご相談をと思い参りました」
馨は千収社の整理のときに思い立ったことが、実現できそうなことが嬉しかった。
「おう、そうか。絶好の人物がおるぞ」
「井上様がされていたのは、商事会社でございましたね」
「そうじゃ。実際イギリスに米を売ったり、銃を輸入したりしとったし、他にも色々やったぞ。そんな連中が今暇じゃ」
「確かにそうでございますね。ぜひ一度お会いしてみとうございます」
「よしわかった。中心人物の益田孝を紹介しよう。ここで、3日後でどうか」
「よろしゅうございます」
「それで、わしはしばらく洋行することになった」
「どれくらいでございますか」
「3年じゃ。伊藤も大隈もおる。悪いようにはせんだろ」
「はいわかりました。それではこのへんで失礼します」
「では3日後じゃな」
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