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第1章:全てを司りし時計の行く末

1章15話 リービル大森林

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「くそっ、見つからねえか」

リービル大森林に到着し、ミミを捜索して1時間程度が経った。一向にミミは見つかる気配がなく、ただ時間だけが過ぎていく。

「マーニャ、なんかミミの魔法の使用痕とかないの?」

「いや、水魔法の使用痕はないにゃる。ただ、さっきから変な痕跡があるのじゃ」

「変な痕跡?」

「そう。これはミミの痕跡じゃない感じにゃる。また別の火属性魔法かにゃ……」

マーニャは湊にある木を指差した。その木を見ると、表面が薄く焦げており、何やら火で炙られたような痕跡が存在していた。

「もしかして、邪精霊の仕業とか?」

「勿論その可能性もあり得る。魔法使用可能な邪精霊も多いから、何かしら縄張り争いでこのような痕跡が見られることもある。しかし、これを見よ湊」

「これは、足跡か!」

マーニャが指し示したそれは人間の足跡であった。つまりそれが意味することは――

「これはミミの足跡……いや、この木の焦げ具合といい、火属性魔法を使用できる人間がここを通ったということか?」

「よくは分からないが、その可能性があるのじゃ」

何故かこの人気のないリービル大森林に、木の焦げ跡、さらには人間の足跡が存在していることが不気味で仕方なかった。
さらに、何かに気づいたようにマーニャがその場で顕現し、湊の口を押さえつけた。

「しっ!静かにするにゃる。よく見るのじゃ、この方角を」

マーニャが湊の口を押さえつけたまま、ある方角に光のようなものが見えた。

「これは恐らく火属性魔法から漏れる光にゃる。誰かがあそこで戦闘している感じなのじゃ」

湊は状況を理解したと口から手をどかすように合図した。

「誰かがあそこで戦闘している?」

「その可能性がある。何か怪しいのにゃ!バレないように、ゆっくりそっち方面に向かってみるにゃる」

そう言って、湊と顕現したマーニャはゆっくりとその何かしらの光の見える方角へと歩いていった。
そしてだんだんとその姿が見えてきたと同時、そのあり得ない状況を見て絶句する。

「あれはミミじゃないか!」

「マジかにゃる……!あの娘、まさか魔法属性も変化するにゃるか!」

光の見える方向にゆっくりと向かった湊とマーニャは、その光がミミの魔法より発せられたものと気づいた。そこには真っ赤に染まった髪を有するミミが何かと戦闘しており、炎魔法を使用しているのが見て感じ取れた。

「ようはあれか。身体に変化が現れると、普段は水魔法を使用するミミの主魔法が炎属性に変わると」

「どうやらそうみたいにゃるね」

両性の呪いを掛けられたとされるミミは状況により身体に変化が現れて、髪が赤くなり、性格と口調、さらには身体の特徴も変化することは魔法女学院の一幕で理解されていた。しかし、まさか髪色が変化すると、魔法属性の魔法が使用可能になることは想定外であった。

「湊、今はどうやらそんなこと考えている場合ではないようだにゃる」

「どういうこと?」

「よく見るにゃる!ミミは現在戦闘中。最初は邪精霊と戦っていると思ったが、相手は人間だにゃる!!」

「はあ!?」

火属性魔法がほとばしり、ミミは何か戦闘していると悟っていた。ここは邪精霊が多く棲息するリービル大森林であるため、マーニャはそれと戦っているのではと一瞬考えた。しかし、どうやら相手は邪精霊ではなく人間であったようで、その事に気づくや否や、すぐさま湊とマーニャはミミの元へと走り出した。

「助けなきゃ!行くぞマーニャ!!」

「分かったにゃるお兄さん!」

マーニャは魔法安定化のためにすぐさま顕現した姿を消失させ、湊の左目の魔眼へと収まる。湊は全速力でミミの元へと走り、状況の把握に努める。

「ミミ、大丈夫か!!何があった!?」

「お……お兄さん、なんでこんな所に!来ちゃだめ!早く逃げなさい!」

湊はミミが魔法を行使する相手を見つめる。黒いローブで顔はよく把握できない。しかし相手も魔法を使用できるようで、何やら雷のような電撃がほとばしっている。さらには敵の右手には電気を帯びた刀のようなものが握られており、雷による攻撃、さらには方による斬撃がミミを襲っていた。

「お兄さん、奴の刀は雷系の魔法を刀にこめて、俊敏性と切れ味をあげた雷刀ライトウにゃる!」

「雷刀!?」

マーニャが湊に助言するように、その雷刀に関して情報を伝えた。どうやら敵はそれなりの手だれのようで、火属性魔法を使用するミミをその圧倒的な力で捩じ伏せていた。
それと同時、敵は湊達に注目した。

「貴様、その魔眼!」

「やべ、魔眼を見られた!カラコンし忘れてた!」

湊はミミより、魔眼持ちは通常その存在を狙われないように、その目を何かしらの方法で隠すように助言されていた。ちょっと前にミミよりカラコンを貰ったことがあり、実はクイーンハートからも魔眼を隠すためのカラコンをこっそり調達していた。しかし温泉に入った後、つけ忘れたままミミを追いかけていたこに今更気付き、まんまと敵に魔眼の存在を悟られた!

「その魔眼の時計紋様。お前がペペルカ様のおっしゃっていた魔眼持ちか!!」

「何、ペペルカ?誰だそいつは……ああ……」

湊は何やら嫌な予感がした。今の話の流れからするに、そのペペルカと言う人物は湊の魔眼に関して何かしっているようであった。目の前にいる黒いローブの人物は、その人物をペペルカ様と呼称している。

何か話が繋がったようが気がして、湊が叫んだ。

「お前、もしかして俺とミミを襲ったあの女の仲間か!?」

湊とミミを襲った女、恐らくはあいつがペペルカ様という奴で、この黒いローブの人物は、そいつから魔眼に関して情報を得たのではないかと推測した。
さらにはその嫌な予感は的中し――

「それではやはり、お前がペペルカ様の欲しがっていた魔眼持ち、か。それならば話は早い。その魔眼をいただくぞ!!」

「逃げなさい、お兄さん!!」

ミミが絶叫し、黒いローブ男は雷刀を手にして、凄まじい速度で湊を殺さんとする。
対する湊は尋常じゃない速度で状況を理解し、しゃがみ込むと同時に石を掴み取る。

残消符ざんしょうふ

男は雷刀を湊の振りかざした。対する湊はミミの近くに残消符を刻んだ石ころを投げた。

「死ね、少年!」

残消転移ざんしょうてんい!!」

男は死ぬであろう湊に情けもなく、その首を切り落とそうと刀を切りつける。
しかしそれと同時に、湊は空間系魔法残消転移を使用し、ミミの側に投げた石ころの場所に自身の身体を転移させた。

「何!!貴様、何をした!?」

「お、お兄さん!?」

ミミは側に現れた湊に驚き、敵の男もまた何が起きたのか理解できないまま呆然と立ち尽くしていた。

「どうして、お兄さん……」

「ミミ、これは僕の魔法だ。呪縛符を刻んだ物体と自身の身体の位置を入れ替える」

湊は男に聞こえないように、小さな声でミミの耳元で魔法の説明をした。その後、次の攻撃に備えるようにそこらへんの小さな石ころをポケットに突っ込んでストックする湊。残消符は一度に1つの物体にしか刻めなく、あらかじめ1つの石ころにそれを付けておく。

「残消符!くそ、今の俺は逃げることしかできないか!」

「貴様、妙な魔法を使用するな。だが――!!」

男は次なる一手を加えようと体勢を立て直し、雷による遠方攻撃をミミ、湊へ放った。

「伏せなさい、お兄さん!」

ミミは湊を庇うように立ちはだかり、負けじと炎の魔法を男に放った。双方の攻撃は互いにぶつかりあり、消滅した。魔法の衝突による消滅と共に、小さな爆発が生じて、土埃が舞う。

「くそ、見えねえ!」

土埃のなか、ミミは湊を守ろうとお腹に抱きしめ、魔法詠唱の準備を行う。しかしそれと同時に、敵は背後から雷刀を持って突っ込んで来た。

「そこおおお!!」

「くそ、間に合わねえ!」

湊が敵の男の攻撃を避けようと、ミミを掴み、彼女ごと横に身体をスライドさせる。しかし敵の攻撃の方が一瞬早く、雷刀が湊の腹部を貫通し、さらには後ろのミミごと串刺しになる形で終結してしまった。

「ふ、甘いな貴様!!これでお前も終わりだ――」

そう言って、男は湊とミミに突き刺さる雷刀な横に薙ぎ払い、2人の身体を上半身と下半身で真っ二つにした。

湊は走馬灯のようなものが一瞬見えた。死に近づく瞬間、時間はゆっくり流れるように感じ、千切れた上半身は地面に落下し続ける。腹部からS字結腸が刀に絡みつく形で空中に飛び出し、湊とミミのどっちの腸なのか分からないほどに混ざり合った。

これより2人は死を待つのみである。そう、死が2人を冥界へと誘うように、その意識がだんだんと消失し――

「リバレット!!」

意識が消失する寸前、湊はリバレットと叫んだ。瞬間、時は反転する。ミミと湊の絡みあった腸は解けて行き、元あった腹部へと戻った。真っ二つになった身体はジッパーのようにその皮が繋がっていき、視界の悪い土埃の中から現れた男は、再びその暗幕の中に姿を消失させる。

時間系魔法リバレット――5秒前に時を巻き戻すことができる魔法であり、インターバルは1分と長いものの、使用者には非凡な能力を与えることになる。

湊は死の瞬間、その魔法をすぐさま詠唱し、時間を巻き戻した。

「ミミ!!背後から敵の気配!!」

「何!?」

ミミは湊の合図と共に、背後へ烈火の如く炎の魔法を放った。なぜ気付かれたのか分からない敵の男は距離を取った。

土埃が収まり、ミミと湊、そして敵の男が対峙する形で状況は拮抗していたのであった。






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