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第1章:全てを司りし時計の行く末

1章14話 時間系魔法リバレット

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「さて、次はリバレットを教えるとするかにゃ」

マーニャがリバレットと呼ぶその魔法に、湊は期待を膨らませる。

「そのリバレットというのは、確か時間系魔法なんだよな?」

「そうにゃる。と言っても、この魔法は湊にも既に馴染みがあるのじゃ」

「馴染み?」

彼女は湊に、その魔法について既に知っていると言ったような口ぶりで話しかけた。

「端的に言うなら、タイムリープのミニバージョンにゃる」

「タイムリープのミニバージョン?」

「そうにゃる。まあ何はともあれ、リバレットと詠唱してみるのにゃ」

マーニャはそのリバレットをタイムリープのミニバージョンと表現した。しかし、その意味を詳しくは感じ取れなかったのか、湊はぽかんと呆けている。

「まあ、とにかく使ってみか……リバレット!」

湊は早速リバレットと詠唱した。すると、左目の魔眼――その時計の長針が瞬時にぐるぐると回転し、世界の時間が巻きもどされた。

「うわ!」

湊は先程からずっとミミの向かったであろう森の方角へと走って移動している最中であった。しかし、リバレットと詠唱した途端、およそ数秒前にいた位置にまで時間が巻きもどされていた。

「びっくりしたが……そうか、この時間系魔法リバレットは、数秒前に戻ることができる魔法的な何かってことか」

「お兄さんは理解が早くて助かるにゃる。そう、このリバレットは最大5秒程度前にまで時間を巻き戻すことができる。ただし、インターバルは1分……つまり、一度リバレットを使えば再び1分後までは使用できないにゃる」

タイムリープのミニバージョンとリバレットを表現したが、確かにその通りの能力であった。最大5秒間時間を巻き戻すことができるその魔法は、タイムリープのように、再び過去をやり直すことができる。

「そうか、1分のインターバルという制約があるが、5秒間時間を巻き戻せるのは要所要所で使えるかもな」

「そうにゃる。使い方は非常に難しいのじゃ。インターバル制約があるから使い時を考える必要はあるけど、使いこなせればきっとお兄さんの役に立つ」

湊は空間系魔法残消転移に加え、時間系魔法リバレットの効果を瞬時に理解した。確かにこの2つは強力な魔法である。しかし、湊はある事に気づくとマーニャに対して不安を口にする。

「あれ、でもこの2つの魔法は攻撃には使えないよな」

「まあ、そうにゃるね。位置の入れ替え、時間の巻き戻し。どっちも攻撃系の魔法ではないのじゃ」

「じゃあもしも邪精霊が現れたら、どうやって攻撃するんだ?」

「それはもう気合いにゃる。拳で抗うのにゃ」

「嘘でしょ!?」

湊は強力な2つの魔法が使用可能である一方で、肝心な攻撃系の魔法を何も行使できない。そうなれば、邪精霊が現れたとしても、敵を殲滅するには何かしら魔法以外で対処しなければいけないことになる。

「マジかよ……さすがに拳1つでその邪精霊とやらに抗うのはきついんじゃ……」

「そうにゃるね。きついにゃる」

「だよな……ちきしょう!!何か武器でも持ってくれば良かった……」

湊はミミが逃走したと同時にすぐさま走りだしてその後を追いかけた。そのため、武器などのことは何も考えずに、装備なしの状態で現在行方不明の可愛い少女を追いかけている。

「まあしょうがねえか、やるしかねえよな」

「頑張れにゃる。ファイト、お兄さん!」

マーニャは全力で湊にエールを送るものの、当の湊は既に長い時間走り続けており疲労している。さらにはこの先出合う可能性のある邪精霊のことを考えるとプレッシャーに襲われるのであった。

「はあ、はあ。森まで後少しか……」

「もう少しで到着するのじゃ。しかし、何か変な感じがするにゃるね……」

湊は先程までいた街の中枢からからなり遠ざかっており、ミミが逃げたであろう森まで後少しという所まで来ていた。当に人影のない環境へと周囲が変わり、家なども存在せず、あるのはほとんど整備されていないような小道のみであった。しかし、マーニャが何か嫌な予感を感じとたのか、湊に警鐘を鳴らす。

「湊、近くに邪精霊の気配がするにゃる」

「まじかよ、早速のお出ましかよ!」

「来るにゃる湊!前方右、馬型の邪精霊が2体にゃる!」

マーニャが湊に合図するやいなや、木影から大きな馬型の邪精霊が突っ込んできた。その身体は異様に大きく、さらに身体は暗黒色をしており、真っ黒であった。

「くそ、この状況でどうやって戦えばいいんだよ!」

「湊!とにかく今はそこらへんの石でも拾って、残消符を刻んでおくのじゃああ!」

「分かった!残消符!」

湊は彼女にアドバイスされるや否や、そこらへんの石ころを掴み取り、残消符を刻んだ。そしてそれを片手に持ちながら、馬型邪精霊から逃げるように木々を抜けて走り出した。

「くそ、あの馬型邪精霊、くそ足速いじゃねえかよ!」

「やっべえのにゃ、追いつかれるよ、お兄さん!」

馬型邪精霊があっという間に湊達に追いついて来た。このままでは突進されてただでは済まないと悟った湊が、片手に握りしめた石ころを思いっきり投げる。

「おりゃあ!」

「おいお兄さん!どこに投げてるのにゃあ!」

湊は前方遠くに投げたつもりであるが、焦っていたのかかなり上空に投げてしまった形となった。

「くそ、しょうがねえ!残消転移!!」

「待てにゃる!うおおお!」

空間系魔法残消転移が発動し、残消符が刻まれた上空にある石ころに転移した。

「やべ、このままじゃ落ちるぞ!」

「お兄さん、前方の木に捕まるにゃるううう!!」

上空に転移した湊は、すぐさま落下を始めた。この高さから落ちてはただでは済まないと、マーニャが近くに木に掴まるように叫ぶ。その合図を受け取り、湊は近くの木へと手を伸ばした。

「はあ、あっぶねえ」

「しっ、湊。静かにするにゃる。今奴らは転移した湊を見失っているのじゃ。このまま気づかれないようにそっと木に掴まっているにゃるよ」

転移した湊を、馬型邪精霊は見失ってその姿を探している。そっと身を潜めていると、馬型邪精霊は諦めるように、そっとその場を去り、遠くへと走り去っていった。

「はあ、はあ。死ぬかと思ったぞまじで」

「死んでもタイムリープさせるけど、命を無駄にするもんじゃないにゃる、お兄さん」

間一髪で馬型邪精霊の襲撃を回避した湊であったが、やはり現在の自身の置かれた状況はあまり良いものではないと痛感する。

「いくら時間系魔法リバレットと空間系魔法残消転移が強力っつっても、攻撃魔法がないと反撃できないよなちくしょう!」

「うーん。確かにお兄さんの言う通り、武器ぐらいはクイーンハートに頼んで持ってくるべきだったにゃる……」

ミミの逃走後、すぐさま追いかけてきた湊達。武器ぐらいは持ってくるべきだった後悔するも、既に森の入り口まで到着している。今から魔法女学院に帰るのも馬鹿な話だと切り捨てられた。

「また襲われたらたまったもんじゃない。急いでミミを探そう」

「お兄さんに同意見にゃる……」

「さて、一旦この木から降りるか」

そう言って、湊は木の皮をべりっと剥がして「残消符」と呟く。それが木の皮に刻まれ、地面にポイっと投げ捨てる。

「残消転移!」

湊の詠唱と共に、地面に落ちたその木の皮と位置が交換され、地面へと降り立った。

「いやあ、確かにこの魔法は便利だが……戦闘に使うには慣れが必要だよね」

「大丈夫にゃる。経験を積めば使いこなせるようになるのじゃ、お兄さん」

便利だがしかし使用場面が難しいリバレットと残消転移。この2つの魔法を使いこなすには、ある程度経験を積む必要があるようであった。

「さて、森の入り口についた訳だが……このだだっ広いこの森林をくまなく探すのは厳しいなおい」

「そうだねお兄さん。この森林は僕がいた昔から存在しているけど、一向に開拓が進まないんだよ」

「開拓が進まない?」

「そうにゃる。ただただ面積が広いのもあるし、さっきみたいな邪精霊が沢山いるからね。このリービル大森林は……」

マーニャはその森をリービル大森林と表現した。どうも開拓が昔から進んでいないようで、面積がただ大きい以外にも、先程の馬型邪精霊のような邪悪な存在がうようよと存在しているのが理由の1つらしい。

「ミミ、本当にこの森にいるのかな?」

「確かに先程まで、魔法の使用痕があった。多分、この先にいるはずにゃる」

「そうか、分かった。とにかく、今はミミを捜索するのが先決だろ。行くぞ!」

そう宣言して、湊とマーニャはリービル大森林の奥深くへと入っていくのであった。





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