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第1章:全てを司りし時計の行く末
1章13話 行方不明の男女
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「くそ、どこ行っちまったんだミミ!」
現在、温泉であった一幕が原因でミミが逃走し行方不明の状態であった。
湊は脱衣所ですぐさま着替え、ミミを追いかけた。しかし、異常に素早いのかミミは全く見つからず、恐らく魔法女学院構内ではなく、外に抜け出したのではないかという話になった。
「ミミが行きそうな場所、何処かないか!」
ミミとはかなり短時間の間に打ち解けた関係であった。街で気絶して、拾われて、襲撃の一幕があり、一気に距離を詰めた。しかしそれが仇になったか、湊は実際にミミの好きなもの、場所、趣味等の詳細な情報は分からない状態であった。
「俺は浮かれていたのか!なんにもミミのこと分かってあげられてねえ!」
ミミへの理解不足だと湊は自身を罵った。
「マーニャ、聞こえるか」
「聞こえるにゃる!」
現在マーニャは湊の魔眼に収まっており、顕現していない。そのため、湊は聞こえるかとマーニャに話しかけたが、通常通り応答がある。
「何か手がかりはないか」
「うーん……年頃の女の子が行きそうな場所……分からないにゃるうううう」
マーニャに一応は手掛かりがないか聞いてみたものの、そういえばワールドクロックのある地下世界に引きこもっていた魔神に、年頃の女の子の考えなんてわかる訳がない。
「もしもミミが俺から離れようとするなら何処に向かうんだろうか」
現在時刻は21時頃となっており、街を出歩く人は少ない。
「もしも日中なら、街に逃げれば人集りに隠れることもできる。だけど今は夜だ。静まりかえったこの夜に、街を逃げ回っていたら見つかる確率はあがるような」
もしもミミが本気で湊達から逃げている場合、日中ならば群衆に隠れられる街に溶け込むという選択肢もある。しかし今は夜であり、街にいる人は少なかった。勿論、酒場などもあるだろうからこの時間まで出歩いている人間はいるだろうが、日中に比べたら明らかにその数は少ない。
「ミミが自分の家に帰ったってことはないか?」
ミミがあの天井の抜けた自分の家に帰った可能性を考えた。しかし、あの場所では襲撃があったばかりで、その危険性をミミは理解しているはず。敵が近くに潜んでいる可能性もあるため、簡単に自分の家に帰ったことも考えにくかった。
「おっ、湊!ここに魔法を使った痕跡があるのじゃ!」
「痕跡!?」
マーニャは湊に話しかけ、魔法使用の痕跡を見つけたと伝える。
「この痕跡は、どうもあっち方向に続いている感じなのにゃ」
マーニャは魔法使用の痕跡らしきものがある方向に伸びていると主張した。
「この方向……街を外れた森しかないんだが、マーニャ」
「ミミは水魔法を使えるようだったにゃる。この水魔法豊かな大都市ウンディーネは、昔から水トンネルを空中に張り巡らせて、その中を移動できるような交通網が整備されていたにゃる。現在もそれは変わらないようじゃ」
湊がこの大都市ウンディーネにやってきた時、空中に水トンネルが張り巡らされ、その中を人間がスルスルっと移動している姿を見ていた。そのため、マーニャは水魔法を使用できるミミが魔法使用で、そのトンネルを利用した可能性を訴えていたのだ。
「ってことは、ミミは魔法を使ってこの水トンネルを利用し、あの変な森の中に入って行ったと?」
「その可能性が1番高いにゃるね。この夜に森の中に行く物好きはいないのじゃ。そんな中、ミミは自暴自棄になって、見つかり難い森に向かった可能性があるにゃる」
確かにマーニャの主張の通りであった。人が少なくなった夜の大都市ウンディーネでも、移動に水トンネルを使用する人間は少なからず存在する。しかし、森の中へと向かう交通路をこの時間帯に使用する人間は、その目的が限られていると湊も考えた。
今のミミならば湊達から逃げるために、その森の中に逃げていった可能性も十分に考えられた。
「マーニャ!お前、この水トンネルは利用できるのか?」
「無理にゃる。僕は時空間専門にゃる。この水トンネルは水魔法がないと利用できないにゃる」
「マジか……」
湊は暫定でミミが逃げたであろうその森方向を眺める。遠目に見えるそれは、ここから何キロと距離があると伺えた。そのため湊は、同じくこの空中に存在する移動用の水トンネルを使用して森に向かいたいと願っていた。しかしそれが不可能であると悟ると、再び森方向に目線を移した。
「くそ……あそこまで走っていくのか……いや――」
湊は遠くに存在する森まで走っていく必要があると分かると、それを一瞬躊躇した。
しかし、すぐさま気持ちは変化し――
「いや、俺に選択肢はねえ!」
自身の身体に鞭を打ち、すぐさま湊は森方向へと走りだした。
「マーニャ、今から俺達はあの森へと走って向かう」
「分かったにゃる。頑張れにゃるお兄さん。だけど、1つ忠告しておきたいことがあるのじゃ」
そう言ってマーニャは湊にエールを送ると共に、忠告があると進言した。
「お兄さんは地球人だからこの世界のことあまり詳しくないと思うけど、あのような整備されていない自然環境には、邪精霊が出るのにゃ」
「邪精霊!?ああ、お決まりの敵モンスター的な何かか……」
この魔法の世界にも何か敵モンスターが存在しているのではないかと薄々考えていたが、実際のマーニャの主張通り存在するようで、邪精霊と呼ばれるそれが該当するようであった。
「まあその邪精霊がこの世界にいるとして、魔神のマーニャなら簡単に殺せんじゃねえの?」
マーニャは元々ワールドクロックの長針としてこの魔法の世界を管理していた存在。そんな魔神ならば邪精霊なんて存在、簡単に倒せてしまうと湊は考えた。しかし、どうもそれは間違いのようで――
「湊、今の僕の力は限られているにゃる」
「どういうことだ?」
「クイーンハートの話にあったみたいに、僕はフロストというワールドクロックの短針に力を強化・増幅されていたにゃる。だけど今は――」
「あ……」
クイーンハートの過去回想で聞いた話の中に、長針をマーニャ、短針をフロストが担っていたという内容が存在した。マーニャは時空間自体の制御を行い、フロストはその力の強化と増強を行うような役割分担であった。
「お兄さんは僕が無敵の魔神と思っているかもしれないけど……それは全くの間違いにゃる。元々の僕の力は弱い。それをフロストが補完して、互いに長針と短針が1対で存在して、初めて真価を発揮できるのにゃ」
「つまり今のマーニャでも、簡単に邪精霊を倒すのは難しいと?」
「いや、それは湊次第なのにゃ」
「俺次第?」
マーニャ自身は本来微弱な力しか持たず、フロストがその力を強化・増幅して初めて強力な力を得ると湊に説明する。その言葉を聞くと、今のマーニャは非戦闘員のようにも感じられた湊であったが、そのことに触れるとそれも違うと否定された。
「僕の力は微弱であるが、それでも使用可能な能力があるのにゃ――」
「使用可能な能力?」
「そうだにゃる。根源的なタイムリープ能力はさておき――時間系魔法リバレット、空間系魔法残消転移」
力の弱ったマーニャでも限りある中で使用可能な時空間魔法が存在するようであった。それが時間系魔法リバレット、空間系魔法残消転移の2つである。
「2つしか使えねえのかよ」
「許せにゃる。今の僕ではこれが限界なのじゃ」
元々ワールドクロックの長針を担っていたマーニャが、フロストが欠けた今ではたった2つの魔法しか使用できないことに、湊は少々がっかりしていた。
「まあ、つべこべ言わずに練習がてらに使ってみるにゃる。ほれ、そこらへんの石を適当に拾うのじゃ」
「え――お、おう、分かった」
マーニャは何故か湊にそこらへんの石を拾うように誘導したが、魔法の使い方を教えてくれると分かり、走りながら石を掴み取った。
「俺、魔力なんてないんだけれども、使えんのか?」
「何を言っておる。僕が湊を通じて力を付与する。心配するでないにゃる」
そう言って、マーニャは湊に進言する。
「さあ、まずは使い易い空間系魔法残消転移からにゃる。これは初め、ある物体の1つに呪縛符を刻む必要がある」
「呪縛符……」
呪縛符―厳密には呪縛持続効果符号と呼ばれているそれは、ミミのお腹に刻まれた両性の呪いと同じものである。湊はその単語が再び出てきたことに驚いた。
「まあ、使い方は簡単じゃ。手で物体を掴みながら、残消符と唱えよ」
「分かった。残消符!」
湊がマーニャに言われるがまま、パブロと詠唱した。すると先程拾った石に、何やら文字のようなよく分からない紋様が刻まれていた。
「おお、何か石に刻まれたぞ!」
「そうにゃる。残消符と叫ぶと手に触れた物体に残消符と呼ばれる呪縛符の一種が刻まれる。そしてお兄さんよ、それを前方に思い切り投げて、今度は残消転移と叫ぶのじゃ」
「分かった!おらっ」
マーニャの言われるがまま、湊は走りながら、前方に呪縛符が刻まれた石ころを思い切り投げた。
「今じゃ!」
「残消転移!」
湊が残消転移と叫ぶと同時に、走っていた彼の姿は消失した。すると今度は、先程湊の投げた石ころと入れ替わるようにして、湊が転移したのだった。
「うわっ、びっくりしたあ……」
「そう、これが残消転移。残消符を物体に刻み、自身の身体とその物体の位置を入れ替える空間系魔法じゃ」
「びっくりしたが……確かに、物体と自分の位置を交換する単純な魔法だが、応用は効きそうだな」
この残消転移は物体の位置交換という単純な魔法であるが、しかしその応用は複数考えられ、使い勝手は非常によい魔法であった。
「どうじゃお兄さん。微弱ながら、それでもかっこいいじゃろ、僕の魔法は!」
「確かに俺、マーニャを見直したかも」
「えっへん!素直に褒められるのは、嬉しいのじゃ!」
そう言ってマーニャのご機嫌取りを図らいつつ、2つ目の魔法――時間系魔法リバレットを教えてもらうのだった。
現在、温泉であった一幕が原因でミミが逃走し行方不明の状態であった。
湊は脱衣所ですぐさま着替え、ミミを追いかけた。しかし、異常に素早いのかミミは全く見つからず、恐らく魔法女学院構内ではなく、外に抜け出したのではないかという話になった。
「ミミが行きそうな場所、何処かないか!」
ミミとはかなり短時間の間に打ち解けた関係であった。街で気絶して、拾われて、襲撃の一幕があり、一気に距離を詰めた。しかしそれが仇になったか、湊は実際にミミの好きなもの、場所、趣味等の詳細な情報は分からない状態であった。
「俺は浮かれていたのか!なんにもミミのこと分かってあげられてねえ!」
ミミへの理解不足だと湊は自身を罵った。
「マーニャ、聞こえるか」
「聞こえるにゃる!」
現在マーニャは湊の魔眼に収まっており、顕現していない。そのため、湊は聞こえるかとマーニャに話しかけたが、通常通り応答がある。
「何か手がかりはないか」
「うーん……年頃の女の子が行きそうな場所……分からないにゃるうううう」
マーニャに一応は手掛かりがないか聞いてみたものの、そういえばワールドクロックのある地下世界に引きこもっていた魔神に、年頃の女の子の考えなんてわかる訳がない。
「もしもミミが俺から離れようとするなら何処に向かうんだろうか」
現在時刻は21時頃となっており、街を出歩く人は少ない。
「もしも日中なら、街に逃げれば人集りに隠れることもできる。だけど今は夜だ。静まりかえったこの夜に、街を逃げ回っていたら見つかる確率はあがるような」
もしもミミが本気で湊達から逃げている場合、日中ならば群衆に隠れられる街に溶け込むという選択肢もある。しかし今は夜であり、街にいる人は少なかった。勿論、酒場などもあるだろうからこの時間まで出歩いている人間はいるだろうが、日中に比べたら明らかにその数は少ない。
「ミミが自分の家に帰ったってことはないか?」
ミミがあの天井の抜けた自分の家に帰った可能性を考えた。しかし、あの場所では襲撃があったばかりで、その危険性をミミは理解しているはず。敵が近くに潜んでいる可能性もあるため、簡単に自分の家に帰ったことも考えにくかった。
「おっ、湊!ここに魔法を使った痕跡があるのじゃ!」
「痕跡!?」
マーニャは湊に話しかけ、魔法使用の痕跡を見つけたと伝える。
「この痕跡は、どうもあっち方向に続いている感じなのにゃ」
マーニャは魔法使用の痕跡らしきものがある方向に伸びていると主張した。
「この方向……街を外れた森しかないんだが、マーニャ」
「ミミは水魔法を使えるようだったにゃる。この水魔法豊かな大都市ウンディーネは、昔から水トンネルを空中に張り巡らせて、その中を移動できるような交通網が整備されていたにゃる。現在もそれは変わらないようじゃ」
湊がこの大都市ウンディーネにやってきた時、空中に水トンネルが張り巡らされ、その中を人間がスルスルっと移動している姿を見ていた。そのため、マーニャは水魔法を使用できるミミが魔法使用で、そのトンネルを利用した可能性を訴えていたのだ。
「ってことは、ミミは魔法を使ってこの水トンネルを利用し、あの変な森の中に入って行ったと?」
「その可能性が1番高いにゃるね。この夜に森の中に行く物好きはいないのじゃ。そんな中、ミミは自暴自棄になって、見つかり難い森に向かった可能性があるにゃる」
確かにマーニャの主張の通りであった。人が少なくなった夜の大都市ウンディーネでも、移動に水トンネルを使用する人間は少なからず存在する。しかし、森の中へと向かう交通路をこの時間帯に使用する人間は、その目的が限られていると湊も考えた。
今のミミならば湊達から逃げるために、その森の中に逃げていった可能性も十分に考えられた。
「マーニャ!お前、この水トンネルは利用できるのか?」
「無理にゃる。僕は時空間専門にゃる。この水トンネルは水魔法がないと利用できないにゃる」
「マジか……」
湊は暫定でミミが逃げたであろうその森方向を眺める。遠目に見えるそれは、ここから何キロと距離があると伺えた。そのため湊は、同じくこの空中に存在する移動用の水トンネルを使用して森に向かいたいと願っていた。しかしそれが不可能であると悟ると、再び森方向に目線を移した。
「くそ……あそこまで走っていくのか……いや――」
湊は遠くに存在する森まで走っていく必要があると分かると、それを一瞬躊躇した。
しかし、すぐさま気持ちは変化し――
「いや、俺に選択肢はねえ!」
自身の身体に鞭を打ち、すぐさま湊は森方向へと走りだした。
「マーニャ、今から俺達はあの森へと走って向かう」
「分かったにゃる。頑張れにゃるお兄さん。だけど、1つ忠告しておきたいことがあるのじゃ」
そう言ってマーニャは湊にエールを送ると共に、忠告があると進言した。
「お兄さんは地球人だからこの世界のことあまり詳しくないと思うけど、あのような整備されていない自然環境には、邪精霊が出るのにゃ」
「邪精霊!?ああ、お決まりの敵モンスター的な何かか……」
この魔法の世界にも何か敵モンスターが存在しているのではないかと薄々考えていたが、実際のマーニャの主張通り存在するようで、邪精霊と呼ばれるそれが該当するようであった。
「まあその邪精霊がこの世界にいるとして、魔神のマーニャなら簡単に殺せんじゃねえの?」
マーニャは元々ワールドクロックの長針としてこの魔法の世界を管理していた存在。そんな魔神ならば邪精霊なんて存在、簡単に倒せてしまうと湊は考えた。しかし、どうもそれは間違いのようで――
「湊、今の僕の力は限られているにゃる」
「どういうことだ?」
「クイーンハートの話にあったみたいに、僕はフロストというワールドクロックの短針に力を強化・増幅されていたにゃる。だけど今は――」
「あ……」
クイーンハートの過去回想で聞いた話の中に、長針をマーニャ、短針をフロストが担っていたという内容が存在した。マーニャは時空間自体の制御を行い、フロストはその力の強化と増強を行うような役割分担であった。
「お兄さんは僕が無敵の魔神と思っているかもしれないけど……それは全くの間違いにゃる。元々の僕の力は弱い。それをフロストが補完して、互いに長針と短針が1対で存在して、初めて真価を発揮できるのにゃ」
「つまり今のマーニャでも、簡単に邪精霊を倒すのは難しいと?」
「いや、それは湊次第なのにゃ」
「俺次第?」
マーニャ自身は本来微弱な力しか持たず、フロストがその力を強化・増幅して初めて強力な力を得ると湊に説明する。その言葉を聞くと、今のマーニャは非戦闘員のようにも感じられた湊であったが、そのことに触れるとそれも違うと否定された。
「僕の力は微弱であるが、それでも使用可能な能力があるのにゃ――」
「使用可能な能力?」
「そうだにゃる。根源的なタイムリープ能力はさておき――時間系魔法リバレット、空間系魔法残消転移」
力の弱ったマーニャでも限りある中で使用可能な時空間魔法が存在するようであった。それが時間系魔法リバレット、空間系魔法残消転移の2つである。
「2つしか使えねえのかよ」
「許せにゃる。今の僕ではこれが限界なのじゃ」
元々ワールドクロックの長針を担っていたマーニャが、フロストが欠けた今ではたった2つの魔法しか使用できないことに、湊は少々がっかりしていた。
「まあ、つべこべ言わずに練習がてらに使ってみるにゃる。ほれ、そこらへんの石を適当に拾うのじゃ」
「え――お、おう、分かった」
マーニャは何故か湊にそこらへんの石を拾うように誘導したが、魔法の使い方を教えてくれると分かり、走りながら石を掴み取った。
「俺、魔力なんてないんだけれども、使えんのか?」
「何を言っておる。僕が湊を通じて力を付与する。心配するでないにゃる」
そう言って、マーニャは湊に進言する。
「さあ、まずは使い易い空間系魔法残消転移からにゃる。これは初め、ある物体の1つに呪縛符を刻む必要がある」
「呪縛符……」
呪縛符―厳密には呪縛持続効果符号と呼ばれているそれは、ミミのお腹に刻まれた両性の呪いと同じものである。湊はその単語が再び出てきたことに驚いた。
「まあ、使い方は簡単じゃ。手で物体を掴みながら、残消符と唱えよ」
「分かった。残消符!」
湊がマーニャに言われるがまま、パブロと詠唱した。すると先程拾った石に、何やら文字のようなよく分からない紋様が刻まれていた。
「おお、何か石に刻まれたぞ!」
「そうにゃる。残消符と叫ぶと手に触れた物体に残消符と呼ばれる呪縛符の一種が刻まれる。そしてお兄さんよ、それを前方に思い切り投げて、今度は残消転移と叫ぶのじゃ」
「分かった!おらっ」
マーニャの言われるがまま、湊は走りながら、前方に呪縛符が刻まれた石ころを思い切り投げた。
「今じゃ!」
「残消転移!」
湊が残消転移と叫ぶと同時に、走っていた彼の姿は消失した。すると今度は、先程湊の投げた石ころと入れ替わるようにして、湊が転移したのだった。
「うわっ、びっくりしたあ……」
「そう、これが残消転移。残消符を物体に刻み、自身の身体とその物体の位置を入れ替える空間系魔法じゃ」
「びっくりしたが……確かに、物体と自分の位置を交換する単純な魔法だが、応用は効きそうだな」
この残消転移は物体の位置交換という単純な魔法であるが、しかしその応用は複数考えられ、使い勝手は非常によい魔法であった。
「どうじゃお兄さん。微弱ながら、それでもかっこいいじゃろ、僕の魔法は!」
「確かに俺、マーニャを見直したかも」
「えっへん!素直に褒められるのは、嬉しいのじゃ!」
そう言ってマーニャのご機嫌取りを図らいつつ、2つ目の魔法――時間系魔法リバレットを教えてもらうのだった。
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