LIGHT and DARK~明日はきっと晴れる~

咲華

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始まりと再会

始まりと再会4

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その光景はもう地獄だった。
 
見るところ見るところ真っ赤に染まって、火の粉が上がっていた。
肌は焼けるように熱く、どこに誰がいるのかもわからない。
泣き叫んでみても両親の姿はおろか、大人の姿がなかった。
「葵、こっちだ!」
ぐいっと隣で男の子が腕を引っ張った。
「江ちゃん……」
「ほら、ぼさっとしないでっ!! 焼かれて死んじゃうだろ!」
「だって、みんなが……!!」
「今は俺らが助かることを考えるべきだ!!」
「ちょっ!?」
急に抱きかかえられ、つい声が上がる。
色々と言いたいことはあったが、まずは自分の身が第一だとそこで気づいたため何も言わなかった。
「しっかりと捕まっていろよ!!」
「う、うん……!」
彼は女の子を抱えていることなど全く意に介さないかのように素早く駆けた。
どこをどう走っているか、どうすればここから助かるか、何もかも分からないまま、火と火の間を必死に潜り抜ける。
恐らく彼にもわかっていないのだろう。
(きっと江ちゃんは自分や私が助かることだけを考えてガムシャラに走っているんだ―――)
葵はただ、彼に身を預けることしかできなかった。
 
何とか火の手を逃れていた葵たちは、消火が終わった後の町の真ん中に戻ってきた。
「こんなのって……」
あったはずの家も木も何もかもがなくなり、敷地になっていた。
なにより、足元には誰のものか分からない骨が至る所にあり、葵は思わず顔をそむける。
5歳の少女にはあまりに刺激が強すぎた。
「生き残りは……恐らく俺ら以外はいないんだろうな」
「そんなっ!まだ何にも確認していないのに!!それなのに諦めるの!?」
ついそう叫んでしまう。
分かっていた、彼女自身、助かった町民は自分と彼だけだということは。
ただ、諦めたくなかっただけだ。
「…………」
ギュッと彼に抱きしめられる。
彼はブルブルと震えていた。それを感じ、彼女はハッとした。
「……ごめん、江ちゃん」
(江ちゃんだって辛いんだ……今は2人で支え合わないといけないのに)
「いや、それよりも……」
これからどうしようか、と彼が呟く。
焼け野原を目の前に、2人は失望するしかなかった。
「食べ物も、住む場所もなくなっちゃったもんね」
実質生きる術を失ったことになる。
「……驚いた、こんな中で生き残っているなんてな」
突然。
背後から声をかけられた。
ビクッと身体が震える。
「……誰ですか?」
さっきまで震えていた彼が彼女を護るように再度抱きしめ、キッと声の主を睨みつけた。
赤髪で少し低めの彼は、どうしてだかどこか大人びて見えた。
「―――俺は久遠流歌」
少し名乗るのに抵抗があったのか、彼は間を開けてそう名乗る。
「それで、行く場がないんだろ?」
「…………」
ずいぶん単刀直入に聞くなぁと感じる。
しかし、今はそれがかえってありがたかった。
「だったら、俺らと一緒に来ないか?」
「え」
「……それはどういうことですか?」
生きていける場所があるかもしれないという葵の明るい返事とは裏腹に彼の顔はとても険しい。
「そのままの意味だけれど。一緒に来ないかって」
「その場所はどういうところだ?」
「ちょっと江ちゃん……」
厚意で言ってもらっているのにその態度は失礼だ。
しかし彼はその意見を曲げるつもりはないらしい。
「まぁ、仕事はしないと生きていけないけれどな。女性はほとんどいない」
(別に女性がいようがいまいがそれは全然かまわないけれど……)
「……仕事というのは?」
彼は態度を変えることなくそう問う。
それに、流歌は渋い顔をして、黙り込んでしまった。
「……えっと……」
チラリと彼を見る。
彼もまた、顔色が悪かった。
(え、え……何が起きてるの……?)
意味が分からない。
「…………やむを得ないか……」
やがて、彼がボソっと呟くと、流歌を見据え
「一緒に連れてってくれ」
覚悟を決めた顔でそう言いきった。
「……江ちゃん……?」
何かが変わると、葵はそう感じた。

彼がまた葵をギュッと力強く抱きしめた―――
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