誰か、僕を助けてよ

知田と長弥

文字の大きさ
6 / 7

6話ー後悔と決意

しおりを挟む
 「志村はなんで人を助ける仕事をしてるの?」

 僕らは街のホテルで寝泊まりすることになった。安っぽいホテルらしいが、ベットにシャワーに僕にとっては整っている環境である。ぼくは今ベットで横になっている。志村といえば、スマートフォンをいじっている。

 「どうしたんだい急に、今日は早くお休み」

 「なんとなくだけど」

 「そーだね…」

 志村は部屋のカーテンを開けると、遠くの方を見つめる。外には街の明かりがあって、綺麗な夜景が映し出されていた。

 「由人は街の外の砂漠について、どの程度のことを知っているんだい」

 「外のことはなにも知らない」

 「そうか」

僕はずっと研究所にいて、親の顔を知らないんだから。

 「では私達が持っている加護について、どう思う?」

 志村は唐突にそんなことを聞いてくる。加護というと、僕のシャドウだったり、志村のクリエイトだったりか。

 「ある人は加護持ちは珍しいって言ってたけど」

 「その通りだね。加護持ちは珍しい」

 「うん…」

 話の趣旨がうまくわからない。外の砂漠と加護に何か関係があるのだろうか。

 「ある日、1人の男が、日本で初めて加護を受けたんだ」

 「志村?」

 僕の呼びかけに志村は目線で応えて、話を続けた。

 「その男は最初こそ戸惑ったが、すぐにその力のすごさに気づいた。幸いその男は俗に言う善人だったので、男はその力を困っている人に使えないものかと考えたんだ。

 その頃からポツポツと各地で加護を受ける人がいた。加護を受けた人達は皆等しく、誰かを助けるべきだと、そのための力だと主張した。火を使える人も、物凄い馬鹿力を発揮できる人も。

 でもね、日本は、世界は平和だったんだよ。そんな大層な力を使わなくても、十分に世界は回っていた。そんな力なんてハナから必要なかったんだ。

 当時はもてはやされていた加護持ち達も、だんだんと世界は慣れていった。

 その加護持ち達は不満を訴えるようになった。最初は善人ぶっていたが、注目されなくなった途端これだ。当然最初の男も例外ではなかった。

 加護持ち達はお互いを傷つけあうようになった。自分の力を誇示したくなったんだ。所詮人間は強欲な生き物だ。力があったら使いたくなる。有り余ってる力を発散したくなるんだ。

 その戦いはもはや戦争とも言える苛烈さで、死者多数、都市は半壊と、日本はどんどん壊れていった。

 市民の悲鳴も、国の声も、世界の平和も、もうどうでもよかった。その頃の加護持ち達は、自分は恵まれた加護持ちだと、主張したかったんだ。

 笑える話だ。恵まれた?違うな…これは一種の呪いだ。自分の意思とは無関係に与えられた、人を破滅へと導く呪いだったんだよ」

 男は悔しそうに、近くのテーブルに拳を振り下ろす。僕は話の壮大さに少し戸惑いを感じていた。

 「男達はそれに最後まで気づかなかった。生き残った加護持ちはほんの数人。都市は完全に機能しなくなり、建物の影すら残らない。住人のほとんどは避難したか、死んだか。

 生き残った加護持ち達は愚かにも達成感を感じていた。男もその1人だった。

 自分は強かった。ようやく証明できた。

 ただ、それだけだった。あとにはなにも残ってなどいなかった。親しい友達も、好意を寄せていた女性も、親切な親類も。

 それでようやく気づいたんだ。そこに立って、なにも残らない世界を見渡して、ようやく、ようやく気づけたのだ。

 自分は馬鹿だってことを。

 なにが力だ。なにが強いだ。なにが助けたいだ!全部、全部全部、いらなくて、嘘で塗り固められた偽善で。

 男は打ちひしがれた。自分の無様さに、滑稽さにただ腹をたてることしかできなかった。

 そんな男とは裏腹に日本はその後なんとか回復し、街も復活したところが多かった。でも本当に酷いところは、由人も見た通り、なにも残らない、つまりは砂漠ってわけだ」

 「あの砂漠はそういうことだったんだ…」

なにもないあの砂漠は、戦争の爪痕だったってことか。

 「そして加護持ちは非難され、処刑したほうがいいなんて声も上がっていた。国民もそれに賛成のようだった。

 男はある時、自分と同じ加護持ちの生き残りの噂を聞いた。そいつは自分が一番になるまで殺し合いを続けると。それを恐れた他の加護持ちや過激組織が、最強の兵を作ろうとした」

 「それって…」

 何か嫌な予感がする。ここから先はなんとなく、聞きたくない。

 「その研究は極秘で行われた。加護の発症者は全員そこに集められ、被験者になった。

 男はそのことを耳にしていて、また同じ戦争を繰り返してはいけないと思った。同じ過ちを繰り返してはいけないと。男は知っていた。戦いはなにも生まない。

 男は研究所の場所を突き止め、乗り込んだ」

 「そうして、僕に出会った…」

 話に出てきた男っていうのは、

 「そうなるね」

 志村だったんだ。

 「これが今日本で起きていることの一端だ。僕は最初に由人に言ったね。君を助けにきたって」

 「うん…」

 「すまない、あれは嘘だ。私は罪滅ぼしで…自己満足で君を助けた。やっぱり私は偽善者だ。多くの民を殺した、罪人だ」

 志村は泣いていた。苦しそうに、胸を押さえながら、自責の念に押し潰されそうになりながら、それでも、僕を助けてくれたことは…

 「変わらない」

 「なんだい?」

 「ぼくを…助けてくれたことは変わらない。難しいことはよくわからないけど、僕は志村に救われた。美味しいラーメンも食べれた。そして志村は日本を救おうとしている。ならそれでいいじゃん。1番になりたがってる奴を倒して、全部終わりにしようよ」

 僕は思っていることを素直に告げた。男はあっけに取られたような顔で、

 「そーか…そーだね。全部…終わりにしよう」

 その日はもうそれ以上話すことはなかった。僕はモヤモヤした気持ちで目を閉じ、志村は机に座ったまま、ずっと外を眺めていた。









 

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

なにを言っている。『恥ずかしい』のだろう?

月白ヤトヒコ
恋愛
近頃、娘を見る義息の目がやけに反抗的だとは思っていた。 思春期の男子で、血の繋がらない姉に対する反発や反抗かとも考えていたが……複数の子息達と一緒にとある令嬢に侍っている、との報告を受けた。 その侍っている令息達、の中には娘の婚約者もいるようで――――頭が痛い。 義息と話し合いをせねばと思っていた矢先のことだった。 娘から相談を受けた。例の令嬢に侍る婚約者達に公衆の面前で罵られた、と。よくよく話を聞くと、もう駄目だと思った。 全く、あの婚約者(馬鹿)は一体なにを考えているのだ? 娘と彼との婚約は、彼が傍系王族であるが故に結ばれた……王命で成った婚約。そうでなければ、誰が一人娘を他家へ嫁がせたいと思うものか。 無論、一人娘なのでと断った。すると、傍系とは言え、王族の血を絶やさぬため、我が国の貴族なれば協力せよ、と。半ば強引に、娘を嫁に出すことを約束させられた。 娘の婚約者の家は傍系王族のクセに、ここ数十年段々と斜陽気味のようで……それなりに蓄えのある我が家が、彼の家を立て直せ、と暗に命令されたというワケだ。 なので、娘と彼との婚約は、我が家としては全く歓迎していないのだが―――― どうやら彼の方は、そのことを全く理解していないようだな。 破談にするのに、好都合ではあるが。 そしてわたしは、養子として引き取った義息を呼び出すことにした。 設定はふわっと。 【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】の続きっぽい話。一応、あっちを読んでなくても大丈夫なはず。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...