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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

109 サボりメイド と もふもふの尻尾

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「しんみりしちゃったわね。あとはアキレアだけど、あの娘もちょっと過去がね……」

「事情もありそうですから、今日は、このくらいにしましょう。まだ体調が良くなってから、一日しか経ってないですから」

「そうね。いっぱい喋って笑って疲れたわ。アキレアの事は、本人が居るときに話しましょ」

「はい。それじゃあ、俺は失礼します」

「ありがとうカズさん。楽しかったわ」

「ビワさん。あとはお願いします」

「…はい」

 マーガレットの寝室から退室にして、一旦泊まったている部屋へと戻ることにした。

 さてと、この後はどうするか、呪いに使った物はモルトさんに調べてもらうように、持っていってもらったしな。
 呪いに使われた人形が、埋まっていた木の根元と木も調べたし……あっ、木に付いた傷の事を、マーガレットさんに聞くの忘れた! また今度にするか。

 カズは泊まっている部屋に戻ると、ベッドでもぞもぞと何かが動いていた。

「うにゃ~。もうちょっと……」

「うにゃ?」

 ベッドに近付いてみると、そこにはメイド服を着た、猫耳の獣人族の娘が丸まって寝ていた。

 メイド服を着た猫の獣人ってことは、あれがキウイさんかな?
 仕事サボってベッドで昼寝……なんか起こすのかわいそうだし、そっとしとくかな。

 カズはソファーに座り魔法の古書を【アイテムボックス】から取り出し読む。
 一時間程が経った時、部屋にアキレアが入ってきた。

「カズさん。こちらにいらしたんですか」

「ええ。マーガレットさんと話をした後に、この部屋に戻ってたんです」

「それでここにキウイ…猫の獣人メイドが居ませんでしたか? この部屋の掃除を頼んだんですが、一向に戻って来なくて」

「あぁそれなら、あそこで寝てるのがそうかと」

 カズはベッドの方を見ると、アキレアが、ベッドに近付いていった。

「ハァー……こらっ! キウイ起きなさい!」

「にゃにゃ! ニャんだ!!」

「まったく、このサボりメイドは!」

「あっ! アキレアじゃにゃいか。おはよう」

「おはようじゃありません! 掃除を頼んだのに、お客様の部屋で寝るなんて!」

「いやぁ~、掃除は終わったんたけど、今朝冒険者ギルドの、モルトさんに会いに行ってたもんで、疲れてちゃってにゃ。ちょっと休憩するつもりが、ベッドが気持ち良くて、そのまま寝ちゃったにゃ」

「相変わらずね。カズさんも起こして良かったんですよ。いえ、むしろ起こしてください」

「気持ち良さそうに寝てたんで、そっとしておこうかと」

「ニャんと! お客さんが居たのかにゃ! にゃちき(わたし)を、寝かせたままにしてくれるなんて、やっぱり優しい人だにゃ」

「ニャんと? にゃちき? にゃ?」

「キウイ。お客様相手に、いつものような話し方になってるわよ」

「おっと、これは失礼しました。改めまして、メイドのキウイと申します。猫の獣人族です。昨日は奥様とビワを助けていただき、ありがとうございました」

「あれ? 『にゃ』が入ってない?」

「キウイは気を抜くと、素の話し方に戻って『にゃ』入るんですよ」

「そう言う訳なんで、先程は失礼しましたにゃ」

「俺も敬語は苦手なんで、普段のように話してくれていいよ。アキレアさんも。その方が俺も気楽ですから」

「でもそれでは…」

「やっぱりお客さんは、優しいにゃ」

「俺はカズ。よろしく」

「カズさんか! よろしくにゃ」

「もうキウイったら! 分かりました。話し方に関しては良いですが、サボって寝ていたんですから、ベロニカさんに報告します」

「にゃにぃ~! アキレアそれだけは勘弁してほしいにゃ。次サボったら、お仕置きだと言われてるにゃ」

「自業自得! ほら行きますよ」

「メイド長の、お仕置嫌だにゃ~」

「カズさん、もうすぐ昼食になりますから、その時にまた呼びに来ますね」

「分かりましたが、あの広い部屋で一人食事をするのは落ち着かないので、他でお願いします」

「そうなんですか? 分かりました」

 アキレアがキウイを連れて、部屋を出ていった。

 猫の獣人族だから、にゃとか言うのか?
 だったら犬の獣人族なら、ワンと言うのかな?
 ……んな訳ないか。

「カズさん」

 部屋を出たアキレアが、すぐに戻ってきた。

「! な、なんですか?(ビックリした)」

「午後にモルトさんが、昨日の事で話をするのに来るそうです」

「そうなんですか。分かりました」

 モルトさんが来るって、もう調べは終わったのかな?
 変装とかして、敵意のある人が入ってきたら大変だから、昨日警報装置のトレカを使った後に、魔法の古書に現れた魔法を、一応使っておくか。
 効果は、一定時間に一定の範囲内に敵対している者や、危険と認識した物が入ってきたら、教えてくれるらしいからな。
 魔法名は……警報だから、まんま『アラーム』でいいか。
 では早速使っておこう。

「〈アラーム〉」

 【マップ】の端には、ベルのマークが表示され、効果の範囲だけ、うっすらと色が変わっていた。

 アラームの魔法を使い、昼食の時間まで何をしようかと考えていたら、早く起きたせいか眠くなってきた。
 ソファーに座っていたら、いつの間にか寝てしまったようで、目が覚めたのは、近くで誰かの話し声が聞こえた時だった。

「……あの…カズ…さん。昼食の…用意ができ……? 寝てる…の?(どうしよう? 起こしていいかしら?)」

「……」

「カズ…さん。あの…起き…て……(どうしよう)」

 ビワは自分ではこれ以上起こせないから、誰かを呼びに行こうかと、カズに背中を向けたその時……

「……んっ? (ふわふわの、もふもふがあるぞ。なんだこれ?)」

 カズは寝ぼけて目の前にある、もふもふしている毛をそっと触ってみた。

「!! ちょ…カズさん…止め…て…ください」

「んっ? ……ビワさん!! って事は、このもふもふは……」

「くす…ぐったい…です」

「わぁ! ご、ごめんなさい。寝ぼけててつい(気持ちいい感触だったな)」

「……」

 そこにカズを呼びに行って、なかなか戻ってこないビワの様子を見に、ミカンがやって来た。

「ビワお姉ちゃんまだぁ? あれ、どうしたの?」

「カズさん…に、尻尾を…触られ」

「あ、いや、あの……」

「えぇ! カズお兄ちゃんたら、いやらしい」

「いや、あのねミカン。違うんだ」

「え? 触ってないの?」

「あ、いや触ったのは本当だけど、寝ぼけてて、目の前にあったから、つい少しだけ触っちゃたんだ。だからわざとじゃないんだよ」

「こう言ってるけど、ビワお姉ちゃん本当なの?」

「……本当だと…思う」

「ふ~んそうなんだ。でも触ったんだよねぇ。カズお兄ちゃん!」

「さ、触りました。ビワさん。ごめんなさい」

 顔を赤くし、恥ずかしがっているビワに、カズは深々と頭を下げて謝罪した。

「わざとじゃ…ないのは、分かりま…したから、頭を…上げて…ください」

「ごめんなさい」

「もう…いいですから」

「はい……」

「……」

「ほらカズお兄ちゃん。お腹空いたでしょ! 昼食の用意出来たから行くよ。ビワお姉ちゃんも」

「あ、うん。分かったから、そんなに引っ張らなくても」

 ミカンに背中を押され、俺は部屋を出る。

「ビワお姉ちゃんも早く」

「は…はい。今…行きます」

  部屋を出た俺は、先導するミカンに付いて行き、話し声の聞こえる一室へと入った。

「あ! やっときましたか」

「待ちくたびれるにゃ」

 部屋には、テーブルと6脚の椅子があり、アキレアとキウイが座って待っていた。

「いったい、何をしてたんですか?」

「カズお兄ちゃんが、寝ぼけてビワお姉ちゃんの尻尾に、抱きついてたんだって」

「えっ!」

「にゃ!」

「ちょ! ミカン。違いますから。寝ぼけて触ったのは本当だけど、抱きついてはいませんから!」

「ビワにゃん。本当は、どうにゃ?」

「抱きついては…ない…けど、触られたのは…本当。カズさんが…寝ぼけてたのも…本当」

「わざとじゃなくて、寝ぼけてたのは分かりましたが、獣人女性の尻尾を許可なく触るのは、いかがなものかと」

「はい。その通りです。アキレアさんすいません」

「私に謝って、どうするんですか! ちゃんとビワに謝ったんですか?」

「はい。ビワさん。ごめんなさい」

「あの…もう何度も…謝ってもらってる。アキレア…だから…大丈夫」

「カズお兄ちゃん。許してもらえて、良かったね」

「ミカン。あなたが抱きついたなんて、言うからでしょ」

「えへへ。ごめんなさい」

「ってことは、結局カズにゃんも、あのあと寝たのかにゃ?」

「え、うん。ちょっと、うとうとしてたら、いつの間にか(カズにゃん!)」

「人こと言えないにゃ」

「何言ってるの。キウイのは完全にサボりでしょ。カズさんは、お客様なのよ」

「そうだった。カズにゃんは、お客様にゃ!」
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