上 下
116 / 705
三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

108 色んなメイドさん

しおりを挟む
「カズさん。こちらに座って、また話し相手になってください」

 楕円形のテーブルに4脚の椅子があり、その1脚に座っているマーガレットに手招きされた。

「あ、はい。俺なんかで良ければ(いかん。少し見えているメイドさんの尻尾を、凝視してしまった)」

「そう言えばカズさんに、ビワを紹介してなかったわね」

「あ、はい。メイド長のベロニカさんとミカンさんには、さっき会いましたが」

「あらそう。ベロニカには、カズさんを呼んで来てもらうように頼んだけど、ミカンにはもう会ったのね」

「はい」

「それなら今日は、我が家で働くメイド達の話をしましょう。それじゃあ、先ずはここに居るビワに、自己紹介をしてもらいましょうか。ビワ」

「…はい」

 扉の横に立っていたメイドのビワが、それを聞いて近付いてきた。

「…ビワです。昨日は助けていただき、ありがとう…ございます」

「カズです。よろしくお願いします。ビワさんは、身体の方は大丈夫ですか?」

「あ、あの…はい。大丈夫…です」

「ごめんなさいカズさん。ビワはちょっと人見知りで、しかも男性が苦手なんですよ。話すのもあんまり得意ではなくてね。でも優しくて、とても良い娘よ」

「大丈夫です。俺も昔は人見知りでしたから(今でも若干あるけど)」

「あらそうなの! ねぇビワ、カズさんにビワのことを話していいかしら?」

「え…あの……少しだけなら」

「マーガレットさん。ビワさんが嫌かも知れないので、無理して教えてくれなくても」

「少しなら…大丈夫。奥様に…お任せします」

「任せなさい! 余計な事までは言わないわ!」

 マーガレットを見ると、話がしたくて、うずうずしているようだ。
 三年も呪いの影響で、寝たきりだったのだから、無理もない。

「えーと、ビワは獣人族じゃなくて、ちょっと珍しい狐の半妖なの。17歳の内気な女性で、我が家に来たのは、五年程前かしら。当時から人見知りなのは、変わらないわね。まぁ色々とあったから仕方ないけど。あとは……そう! 尻尾の毛並みが良いのよ!」

 マーガレットが言った最後の言葉を聞いて、俺はスカートの下から少し見え隠れしている、ビワの尻尾を見て思った。
 毛並みの良い尻尾を『もふもふ』してみたいと。

「あ、あの…奥様……」

「あら、これは言わない方が良かったかしら。ごめんなさい。カズさんもビワが恥ずかしがってるから、あんまり見ないであげてね」

「ご、ごめんなさい。スカートの下から、少し見えている尻尾が、なんか可愛かったからつい」

「かわ…いい……」

 ビワは顔を赤くして、後ろを向いてしまった。
 後ろを向いたことで、スカートの下から見えている尻尾は、左右に動いているのが分かり、頭の上にある狐耳はピクピクしていた。

「あ……(また! 昨日もアキレアさん相手に、やらかしたばかりなのに)」

「あら! カズさんは、ビワ見たいな娘がお好みかしら!」

「ちょ、マーガレットさん。何をニヤニヤしながら言ってるんですか! 違います!」

「じゃあ半妖はお嫌い?」

「私…嫌われてる……半妖だから……」

 振り返ったビワは、今度は目頭を赤くして涙目になり、耳と尻尾は垂れ下がりっていた。

「いや半妖だからとか関係ないですし、ビワさんのことも嫌いじゃないから! むしろ可愛いくて、黄色い長い髪も綺麗だし、そのもふもふの尻尾を触りたいと思って……はっ!(ぬぉぉー! 俺はまた何を言ってるんだ!)」

「尻尾は…ダメ。恥ずかしい…から」

「あらぁ! やっぱりカズさんはビワがお好み!」

「あのマーガレットさん。満面の笑みを浮かべながら、俺とビワさんをからかって、遊ばないでください」

「分かっちゃったかしら! 二人とも良い反応してくれるんですもの!」

「奥様…意地悪です」

「ごめんなさい。でもビワの色んな顔が見れて、私嬉しいわ」

「私も…奥様の笑顔が見れて…嬉しい…です。でも奥様…まだ安静にしてないと…駄目。無理して…明るくしなくて…いい」

「ありがとうビワ。さて次は、ミカンの事を、教えてあげましょう」

「本人が居ないんですから、簡単な紹介でいいですから」

「ミカンは人族で、14歳の可愛い女の子よ。我が家に来たのは、ビワより少し前で、五年半くらいかしら。初めて会った頃は、純粋で良い子だったのだけど、私が子供達をからかっているのを見て、それを覚えてしまってね。カズさんはミカンに、からかわれなかったかしら?」

「……何故だか、お兄ちゃんと呼ばれる事になりました」

「ミカンにお兄ちゃんが出来たのね。カズさんは妹が出来て嬉しい?」

「な、何を言ってるんですか! 俺にそんな趣味は……」

「冗談よ。ごめんなさいお兄ちゃん」

「カズ…お兄ちゃん」(ボソッ)

「んっ?」

 ビワを見たら、口を押え顔を背けた。 

「ビワも呼びたいのかしら?」

「……」

「マーガレットさん」

「あらごめんなさい。ついね」

 三年近く話せなくて溜まった分が、一気に出てきたんだな。
 寝たきりで、命も危険だった訳だし、無理もないか。
 だが、からかい過ぎだよ!

「それじゃあ、次は『キウイ』ね」

「キウイさんですか。まだしっかりと、会ったことないです」

「キウイは18歳で、猫の獣人族よ。いつも明るく元気な女性! ビワとミカンの二人とは違い、雇った娘なの。最初の頃は暇が出来ると、日向でゴロゴロしてることがよくあったわ。その度に、ベロニカに叱られてたわね」

「それはまさしく、気ままな猫みたいですね」

「ふふっ、そうね。我が家に来たのは、メイドの中では一番最後で、四年ほど前だったかしら。私の母が体調を崩して、気分が憂鬱な時に、当時からひょうきんで、周りを明るく、楽しくしてくれようとするキウイを雇ったの。それで母は気持ちが少し明るくなってきたけど、結局体調は良くならずに、仕事を引退してアヴァランチェに移り住み、静養することになったのだけど」

「でも今のジニアさんは、元気でしたよ」

「そうよね。カズさんは会ってるのよね」

「ええ。今回の依頼で、アヴァランチェのお屋敷に行った時に」

「母が元気になった今だから言えるけど、当時キウイには悪い事をしたわ。母が元気にならなかったのを見て、自分が役に立たなかったと思ってしまったのね。そのあとキウイはメイドを辞めようとしたわ。でも私が無理を言って、続けてもらったの」

「それもこれも、元々が呪いのせいですから、皆さんが気に病む事はないんですよ」

「カズさん。それをキウイにも言ってあげて」

「俺よりマーガレットさんが言った方が、気持ちが安らぐと思いますよ。機会があったら、俺からも言っておきますけど」

「そうね。キウイも大事な家族ですものね」

「ええ」

「そうだわ! カズさんに一つ注意が」

「なんですか?」

「キウイは胸が大きいから、凝視しないように!」

「しませんよ!」

「そうよね。カズさんの好みは、ビワだものね」

「そ、そんな……わた…しだなん…て」

「マーガレットさん。ビワさんが本気にしますから、そういった冗談はやめましょう。俺も返答に困りますから」

「あら、今度はアッサリと流しちゃうのね。寂しいわ。ビワは良い反応をしくれるのに」

「奥様……からかわないで…ください」

「あら! ビワの怒ったところが見れるなら、もっとやろうかしら!」

「……」

「ビワさん。こんな時のマーガレットは、相手にしない方が良いと思いますよ」

「カズさんたらヒドイわ。また身体の具合が、悪くなりそうだわ」

「奥様!」

「ビワさん大丈夫です。冗談ですから。マーガレットさんも、今の状態でその冗談は、ビワさんが本気にしますから」

「ちょっと悪ふざけが過ぎたわね。ごめんなさいビワ」

「もう! 怒りますよ奥様!」

「良いわ。ビワの怒った顔も可愛いわ。カズさんも、そう思うでしょ!」

「マーガレットさんは、懲りないですね。同意ですが」

「もう! ……二人もと…知りません」

 ビワが怒って、そっぽを向いた。

「ちょっとおふざけが過ぎたわね。あとは、ベロニカとアキレアね」

「そう言えば、ベロニカさんはメイド長と聞きましたが、こちらでメイドさんになってから、長いんですか?」

「長いわよ。何せ母を子供頃から、お世話をしていたのですから」

「それはベテランですね!」

「私もこうなる前までは、ベロニカによく叱られたものよ。私がこの性格だから」

「アハハ……(これで誰が一番偉いか分かったな)」

「本当は母が仕事を引退して、アヴァランチェで静養する時に、付いて行くつもりだったらしいの。でもビワ達メイドが、まだ未熟なのを知ってたから、こちらに残って教えるようにと、母がベロニカに言ったの」

「ベロニカさんも、ジニアさんが心配だったんでしょうね」

「そうね。何せ母は子供の頃からベロニカの事を、姉のようにしたっていたと聞いたことがあるから。私の子供達にも、メイド達とそうなってほしいと思ってるわ」

「それは良いですね(全ての貴族が、こんなに穏やかなら良いのにな)」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,219pt お気に入り:93

【完結】転生後も愛し愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:859

実力主義に拾われた鑑定士 奴隷扱いだった母国を捨てて、敵国の英雄はじめました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,692pt お気に入り:16,499

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,307pt お気に入り:1,552

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,455pt お気に入り:846

処理中です...