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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

186 ひとときの休息

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 フローラに事情を説明して、カズも一緒にギルドの一部屋で、泊まらせてもらうことにした。
 フローラはナツメとグレープが居るから、今回は特別だと言って使わせた。
 特別な事情がないと、ギルドに冒険者を泊めたりしないようにしていた。
 誰かれかまわず泊めてしまうと、ギルドが危険になるからだという。
 それはもっともの事だと、カズは今回の件で理解した。
 第4ギルドに盗賊と繋がった冒険者崩れが、平然と出入りしていたからだ。
 ギルドに泊まれて安心していたが、カズは思っていた、後でフローラに何かを要求されないかと。
 考え事をしながら歩いていると、ナツメとグレープが寝泊まりしていた部屋に着いた。
 二人が寝起きしていた部屋は、一人用の小さなベッドが二つあるだけの、とても狭い部屋だった。

「カズが来るまで、毎日ここで寝てた」

「カズは居なかったけど、寝るときにフローラかトレニアが居てくれたなの」

「そう。良かったね」

「一日だけあの人(イキシア)も来てくれたけど、寝るまでずっと近くで見られてて嫌だった」

「あたしが起きたときも、すぐ横で見られて怖かったなの。だからあの人嫌いなの」

「あぁ……それは嫌だね(イキシアさんの性格なんか、知りたくなかったなぁ。初めて会った時とは、完全に別人だよ)」

「穴に居たときと同じ」

「三人で一緒に寝るなの」

「そうだね(そういえばホーベルは アヴァランチェに行ったのかなぁ?)」

 ナツメとグレープが二つある一人用のベッドをくっつけて、そこで三人で寝ると言う。
 片方のベッドからは、フローラに借りているマントと同じ香りていた。
 後で分かったことだが、そこはギルマスとサブマス、つまりフローラとイキシアが、ギルドで仮眠をとる為に使う部屋だそうだ。


 ◇◆◇◆◇


 三人で寝るには、やっぱり少しに狭いなぁ。
 まあ、昨日までは外で野宿だったから、それに比べれば、かなりましだけど。

「ぅん……朝? ルア」

「ふぁ~……おはようなのルア」

「二人も起きた(ルアじゃないんだけどね)」

「起きたよカズ」

「あたしも起きたなの。カズ」

「それじゃあ、朝食でも買いに行こうか(カズに戻った)」

「行く行く!」

「朝ごはんなの!」

 三人は朝食を買うために、一階に下りる。
 少し早いようで、ギルドに来ている冒険者は少なかった。
 街を歩き何が食べたいかとナツメとグレープに聞くと、ハムとチーズをたっぷり挟んだパンが食べたいと言ってきた。
 なので各食材を買い、ギルドで作って食べることにした。
 三人はパン屋と肉屋を回り、足りない食材を買ってギルドに戻る。
 するとトレニアが出勤しており、ナツメとグレープに気付き受付から出てきた。

「二人ともおはよう。昨日はよく眠れたかな?」

「よく寝た」

「ナツメとカズと、三人一緒に寝たなの」

「良かったわねぇ。朝ごはん食べてきたの?」

「買い物行っただけで、まだ食べてない」

「今から三人で作るなの」

「あらそう」

「そういうことなんで、一部屋借ります」

「だったら三階に、職員用のキッチンがありますから、そこを使ってください」

「じゃあ遠慮なくお借りします」

 トレニアと別れて、三人は朝食を作るために、三階のキッチンに行く。
 ギルドのキッチンは小さかったが、置いてある物はしっかりしていた。
 水源が無いのに水の出る蛇口があったり、木を燃やす場所が無いのに、鍋が置いてあったりした。
 不思議に思ったが、使用上の注意が壁の貼り紙に書いてあった。


 ーーーーーーーーーー

 ・ギルド職員以外の方は、受付で使用許可をとってください。
 ・魔法が使える方、又は自前のソーサリーカードを持っている方は、それを使ってください。
 ・そうでない方は、常備してあるソーサリーカードを使用してください。(ただし多用は禁止です)
 ・一人で長時間使用しないこと。
 ・火の取り扱いに注意してください。
 ・ソーサリーカードの持ち帰り禁止です。

 ーーーーーーーーーー


 許可とれば誰でも使わせてもらえて、ソーサリーカードまで常備してあるんだ。
 と言っても、火は使わないんだけど。

「カズお腹すいた」

「早く作るなの」

「おっと、ごめんごめん。それじゃあ先に手を洗ってキレイにしよう」

「はーい」

「キレイにするなの」

「食材を出すから、パンに好きな量の具を挟んで食べな」

「はーい。ぼくハムたくさん挟む」

「あたしはチーズとお野菜なの」

 ナツメは野菜を入れずにハムとチーズを挟み、グレープはハムとチーズは少しで、野菜を多く挟んで食べていた。
 俺は均等にハムとチーズと野菜を、少しずつ挟んで食べよう。

「あら、今から朝食かしら?」

「フローラさん。トレニアさんに聞いて、ここ(キッチン)使わせてもらってます」

「構わないわよ。美味しそうね」

「うん。おうぃふぃー」

「まだあるから、フローラも食べるなの?」

「良いのかしら?」

「どうぞ。好きなの食べてください」

「美味しいよ」

「あたしが作ってあげるなの」

 グレープは自分が食べている物と同じように、野菜を多く挟んだパンをフローラに作って渡した。

「はいフローラ。あげるなの」

「ありがとうグレープ。頂くわね」

 フローラが一口食べて、グレープに感想を言う。

「うん。美味しい」

「良かったなの。フローラが喜んでくれたなの。カズ」

「良かったねグレープ」

「モルトのおじちゃんと食べるときは、ぼくが作ってあげる」

「モルトのおじちゃん?」

「モルトのおじちゃんなの」

「おじちゃんなんて言ったら、モルトさんに悪いよ」

「大丈夫よカズさん『孫ができたみたい』って、モルトも言ってたから」

「そ、そうですか。それでそのモルトさんは、まだギルドに来てないですか?」

「モルトなら少し前に、貴族区に行ったわよ。二人の姉がメイドをしているから、確認してもらうようにって、言っておいたから」

「それはありがとうございます。これでモルトさんが戻るのを待てば、二人の帰る場所が分かりますね(二人が言ってる姉が、キウイだったらだけど)」

「ええ。モルトは遅くとも、昼過ぎには戻ると思うから、それまで二人を遊びに連れて行ってあげれば」

「そうですね。そうします」

「遊ぶ!」

「遊ぶなの!」

「食べ終わってからね」

「分かった」

「はーい。なの」

「まるで親子ね」

「何を言ってるんですかフローラさん。俺が父親だったら、母親は誰になるんですか」

「ここには私しか居ないから、私が母親かしらね」

「冗談でも、ままごとでも、怖いこと言わないでください」

「あら、何が怖いのかしら? 私じゃが相手じゃ不満?」

「イキシアさんの耳に入ったら、どうするんですか。って、フラグを立てさせないでください」

「フラグ立つ? よく分からないけど、子供の遊びに付き合ってるって事くらい、さすがにイキシアも分かるわよ」

「それなら良いんですけど(子供の遊びでも、フローラさんと夫婦だなんて聞かれたら……)」

「お腹いっぱい」

「遊びに行くなの」

 朝食を済ませたナツメとグレープは、部屋の外へと駆け出していった。

「二人はいつも元気ね。長い間親御さんと離れて、寂しくないのかしら? まだ小さいのに」

「そうですね。採掘場で俺と居るときも、家族のことを話そうとしませんでした」

「話すと思い出して、泣いてしまうと思ったのかしらね。二人は何歳だったかしら?」

「確か『ナツメが8歳で、グレープが6歳』です(初めて会ったときに、ステータス見たから知ってるけど、二人には聞いてないんだよな)」

「カズ早く」

「行くなの」

 なかなか来ないカズを呼びに、ナツメとグレープが部屋に戻ってきた。

「すぐに行くよ。じゃあ少し出掛けてきます」

「いってらっしゃい。あなた!」

「ちょ、フローラさん」

「ふふっ」

「ギルド内でその手の冗談は、勘弁してください」

「イキシアは居ないから大丈夫よ」

 部屋を出たカズは、ナツメとグレープに引っ張られるようにして、ギルドを出て行く。
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