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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

232 私だって、かわいい方が……

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 ギルドの一階は、依頼を探す冒険者達でごった返していた。
 カズは上着でレラを隠し、受付に居るトレニアの所に行く。
 昨夜ギルド職員に、フローラと面会の約束を取り付けていたので、カズはその事をトレニアに訪ねた。

「伺ってますので、そのままギルドマスターの部屋へどうぞ」

「あちしが居るんだから、ワザワザ許可取ることないじゃないの?」

 懐にから小声でカズに話し掛けるレラ。
 カズは自分の上着を少し広げ、懐に向かって小声で話す。

「黙ってて! 人が多いんだから、見つかったら騒ぎになるよ」

「これだけいろんな人の話し声がしてれば、誰も気付かないわよ」

「一人で何を言ってるんですか? ……あ!」

「え? あ……」

 変に思ったトレニアが、上着に作った隙間を覗き込み、レラが居ることに気付いた。

「その子が例のフェアリーですか!」

「トレニアさん静かに」

「す、すみません。でもどうしてこんな所に、連れてきたんですか?」

「フローラさんに会うので、連れてきたんです。他の人に見つかると大変ですから、トレニアさんも黙っていてください」

「分かりました。その代わりに、今度会わせてください」

「それなら家の方に来てください。いいレラ?」

「いいよ~」

「だそうです」

「なら今度行きますね。約束ですよ」

「はい。おっと、今日はまだ居ないようですが、こんなところをイキシアさんに見られたら、また何か言われるかも知れないので、もう行きます」

 受付でぼそぼそと小声で話すトレニアとカズを見て、どういう関係だと思う冒険者が何人も居た。
 大抵はトレニア狙いだろうと思われる。
 込み合う人達の間をすり抜けて、カズに階段を上がりフローラの居る部屋に向かった。
 ギルドマスターの部屋に入ると、今日はイキシアも居た。

「来たようねカズ」

「一階に居ないと思ったら、こちらに居たんですか。今日は若手の冒険者達と、話はしないんですか?」

「今はまだ混雑してるからね。少し空いてからに行くのよ」

 カズがイキシアと話をしていると、上着をはね除けてレラが飛び出してきた。

「ぷはぁ。やっと出られた」

「あら、今日はレラも来たの」

「そうだよ。フローラがなかなか来てくれないんだもん」

「へぇ。この子が例のフェアリーなのね」

「イキシアさんは、レラと会った事なかったんですか?」

「ええ。話には聞いてたけど、フローラが会わせてくれなかったの」

「以前のイキシアを見てたらね。それに人の多い王都にフェアリーが居るのを知られたら、大変な事になるから。レラを守る為に、私以外の人と接触しないようにしてたの」

「でもカズには会わせたのね」

「すねないでねイキシア。私達にはギルドでの仕事があるから、ずっと一緒に居て守るのは無理なのよ」

「分かってるわ。だからワタシにも黙ってたんでしょ」

「ごめんなさい。でも現れたのがカズさんでなくても、レラを付きっきりで守れる人だったら、頼もうとしてたのよ」

「確かにカズなら実力もあるし、それにBランクから上がろうとしないから打って付けね」

「ええ。Aランク以上になると、国からの要請を断るのは難しいからね。カズさんはそれもあって、Aランクに上がろうとしないんだったわよね」

「はい。国もそうですが、貴族との付き合いも俺には難しいですから」

「でもカズは、貴族との付き合いはあるんでしょ?」

「まあ。あの人達は、穏和で良かったんですけど。やっぱり礼儀だとかはどうも疎くて」

「それも慣れだと思うけど、カズさんはそのままで良いと思うわよ。私は」

「ねぇねぇカズ、そんなことよりフローラに話す事があるんでしょ」

「そうそう。昨日の事なんですけど、フローラさんは気付きましたか?」

「マナが不自然に揺らいだことね。ええ、気付いたわ。その事でカズさんが話があるって、イキシアから聞いたわ」

 カズは昨日感じた、マナが揺らいだ事をフローラに話した。

「そう。やっぱり三回あったのね。私も同じ時間に感じたわ」

「今までで、こういった事は?」

「初めてよ。誰か他に感じた人は居た?」

「えっーと……」

 カズはイキシアの方を見る。

「イキシア、席を外してもらえるかしら」

「分かったわ」

「ごめんなさい。一応個人の事を聞くわけだから、私が聞いて話しても大丈夫そうなら、後で教えるわ」

「ええそれで良いわ。その前に、フェアリーのレラね。ワタシはイキシア。自己紹介がまだだったわね。これからよろしくね」

「よろしく。あちしレラ」

 イキシアが手を差し出し、レラと握手をした。

「……?」

「それじゃあワタシは、一階で冒険者達と交流を深めてくるわ」

 部屋を出たイキシアは一階に下りていった。

「どうしたのレラ?」

「な、なんでもない。それより話の続きをするんでしょ」

「ああ」

 カズは自分とレラが感じた事と、クリスパとビワの反応をフローラに話し、三回目に貴族区で感じた揺らぎが大きかった事も話した。

「そう……」

「何かあるとしたら、貴族区じゃないですか?」

「憶測での判断はよくないわ。しかも場所が場所だけに」

「すいません」

「でも確かに気になるわね。こちらより、あちら側の方が強く感じたなんて。この事は私が調べてみるから、また何か分かったら報告して」

「分かりました」

「気のせいならいいのだけど、少し嫌な予感がするわ。カズさんも十分に気を付けて」

「はい」

「話し終わった? ねぇフローラ見て」

「どうしたのそれ? リボンなんて付けて可愛いわね」

「カズが新しく変えてくれたの」

「カズさんにそんなに趣味があったのね」

「そうじゃないですよ。ただ人に見せるわけじゃないにしろ、女の娘が付けるにしては少し地味かなって思ったんで、調整がてら少し変えたんです」

「私のこれは、可愛くならないの?」

「フローラさんのは、付けてても別に変じゃないと思いますが」

「私も女なんだけど」

「それは分かってますけど……(すねた?)」

「まぁ良いわ。ところで、レラが付けてるそれを調整したって言ったけど、何かあったの?」

「何かって言うか、最近また監視する連中が居るみたいなので(すねてなかったなみたい)」

「そういう事なら十分に気を付けて」

「ええ。そのつもりです」

「それでなんだけど、私にくれたブレスレットは、もうエンチャ…付与できないの?」

「そう言いましても、もう十分だと思いますが」

「できるなら、もっと色々と使えるようにしてくれても良いのよ」

「既にレラと同じ、念話と魔力自動回復(微量)を付与してありますし、それに以前使ったバリア・フィールドと浄化が一回ずつ使えるんですから」

「一回しか使えないんでしょ?」

「バリア・フィールドと浄化はそうです」

「使える回数を増やすとか、他の魔法を追加するとかできない?」

「無理して付与しようとすると、それ壊れますよ。それに作るの結構大変なんですから」

「そうよね。好意で貰ったんだから、贅沢はいけないわね」

 フローラは左手首にあるブレスレットに触れて、ちらりとカズを見る。

「好意って……あんなに欲しがったじゃないですか」

「そうだったかしら?」

「そうです」

「そうね。でもレラにあれを自慢されたら、欲しくなるわよ。好きな形に作れて、魔法やスキルを付与出来るなんて聞いたら」

「だから口止め料として、フローラさんの分も作ったんじゃないですか(そういえば、原因はレラだった。念話の使い方を教えたらフジを連れて、フローラさんに見せに行ったんだ)」

「そうね。なら緊急用に、転移だけでも付けてくれないかしら? カズさんなら、すぐに出来るでしょ?」

「分かりました。ただしこれも一回しか使えませんよ。場所はどこがいいか、指定してください」

「そうね……すぐに見つかったり、追ってこられない場所なら……そうだ! 白真さんの所なんてどうかしら?」

「白真ですか……じゃあ住み処の山に転移先を設定して付与します。頼るにしても、白真が必ず居るわけではないですから」

「ええ、それで良いわ。ありがとう」

「じゃあ、ブレスレットを貸してください」

「はい。あとお花が欲しいなぁ。色付きで」

「はいはい(まぁ、お世話になってるから良いけど、結構要求してくるんだよなぁ)」

 フローラから受け取ったブレスレットに《錬金術》と《加工》のスキルで形を少し変え、追加でゲートを《付与》した。
 慣れたもので、十分程度で作業を終わらせ、ブレスレットをフローラに返した。

「これは何の花かしら?」

「桜ですよ」

「サクラ?」

「俺の故郷の花です」

「ピンク色をして可愛いわね」

「ねぇカズ。用事が終わったらな、そろそろ行こう」

「ん、ああ。そうだな」

「このあとレラを連れてお出掛け?」

「食材を買いに行くだけですよ」

「くれぐれもレラを連れ去られたりしないようにね」

 カズとレラはフローラと別れ、ギルドを出て食材の買い出しへと向かう。
 食べ物のいい匂いが漂ってくると、懐から顔を出そうとするレラを引っ込ませ、必要な食材を買い揃える。
 家に戻った二人は、さっそくプリンとタマゴサンドを大量に作りだす。
 他にも色々なものを作くると、本日食べる分を残し、カズは他を全て【アイテムボックス】にしまった。

「作り溜めたなぁ。これだけあれば二十日は持つだろ」

「ちょっとカズ! ふわふわのクリームまでしまっちゃダメでしょ。プリンに乗っけて食べるんだから」

「覚えてたの?」

「忘れないわよ」

「分かった分かった。ほらよ(この甘党めが)」

 砂糖が多く入ったホイップクリームを、たっぷりとプリンに乗っけて食べるレラを、じっとみるカズ。

「なによ?」

「妖精って、皆甘いのが好きなのかと思って」

「知らな~い」

「結局レラは、どこから来たのか覚えてないんだよね?」

「うん」

「依頼で色んな所に行ったけど、レラがどこから来たか分からないんだよ。レラみたいな妖精を見た人も居ないしさ」

「あちし達は、殆ど人前に現れないからね」

「この国じゃないかも」

「そうかもね」

「あっさりしてるな。レラは故郷に帰りたいと思わないの?」

「フローラに会った頃までは、そう思ってたわ。でも今はここがあちしの家だから。カズとフジとマイヒメも居るし、キウイ達だって来るから寂しくないしね。こうやって好きな物も、お腹一杯食べれて幸せよ。それに故郷へ戻ったとしても……」

「そうか。レラがそれで良いなら俺は……一応これからも、レラの故郷は探し続けるよ」

「うん。それでいいよ。気長にね」

「気楽だな。それとレラ、口のまわりクリームだらけ(レラの帰る所はここか。俺は……)」

 近くに置いてあったタオルで、顔を拭くレラ。

「クリームとれた?」

「とれた」


 ここで俺はふと、元居た世界のことを思い出した。
 そして未だに帰る方法も、その手掛かりさえも見つからない事を、どことなくレラと重ねていた自分がいたことに気づく。
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