人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

750 逃走

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 陸に向かって飛んで来ている間に、ある程度は乾いていたが、念の為にテントを立てて中に運び、シャツを脱がせて濡れた体を拭き寝かせた。
 暖かく陽気も良いので、体を冷やす事はないだろうが、毛布を掛けて起きるのを待つ。
 盗み見るようでどうかと思ったが、地上に戻ってから初めての人物なので《分析》を使い、基本的な情報だけ見させてもらった。
 名前はリール年齢は十六歳の男、種族は魔族と表記された。
 聞いていた通り見た目は人族と大差なく、褐色の肌をしているが、海辺に住んでいる漁師とかなら、このくらい日焼けしているので、特に珍しい肌の色とは思わない。

 漂流している少年を助け、陸地に上がってから目を覚ますのを待つ。
 周囲を見て回り、焚き火用の枯れ枝を拾い集める。
 深さ10センチ幅30センチ程草っぱらを掘り返し、むき出しになった地面に拾って来た枯れ枝を重ねて火を付ける。
 漂流していた少年が起きる前に、日が暮れてきてしまったので夕食の準備に取り掛かる。
 脱がせたシャツが乾いたので、漂流していた少年の枕元に畳んで置いておいた。

 漂流していた少年にも食べさせる事を考え、温かいものが良いだろうと【アイテムボックス】から野菜とシルバーホーン・サーモンのつみれを入れた具沢山のスープを選び、それが入った鍋を出した。
 焚き火の横に石を並べて具沢山のスープの入った鍋を置き、焚き火の火を少し移して鍋を温める。
 ビワが作った料理だと、それぞれ大きさを揃えて、火の通りが均等になるように、根菜から順に入れて丁寧に作ってある。
 だが今回の具沢山のスープは自分で作ったので、野菜やつみれの大きさが不揃い。
 葉物野菜は溶け気味になっているのが、それはそれで味があっていい。
 くつくつと具沢山のスープが温まり、シルバーホーン・サーモンのつみれから脂と良い出汁も出て、良い匂い食欲をそそる。
 朝食以降何も口にしてないので、お腹は結構空いている。
 その匂いだけで、口の中からじわっとよだれが出てくる。
 海辺の夜は少し冷え、温かい具沢山のスープは持って来い。

 沸騰しないように鍋を火からおろして【アイテムボックス】から深めの木の器と木のスプーンを出す。
 そこへ偶然だと思うが、漂流していた少年が目を覚まし、匂いに誘われテントから出て来た。
 枕元に置いてあったシャツを着て、寒いのか掛けてあった毛布を羽織っていた。

「体調は? どこか痛みはあるかい?」

 カズの質問に漂流していた少年は首を横に振って答える。

「そうか。腹減ってるだろ。魚と野菜のスープだが、食べれるか?」

 鍋から木の器に具沢山のスープをよそい、木のスプーンと共に漂流していた少年の方に。
 鍋から香るシルバーホーン・サーモンのつみれと、野菜の良い匂いが漂流していた少年の鼻腔をくすぐり、ゴクリと生唾飲み込む。
 警戒しているらしく、具沢山のスープが入った器を受け取ろうとしない。

「いらないのか? なら俺が全部食うからいいが」

 目の前に出された温かい料理に手を伸ばさなければ、全て食べられてしまうと、具沢山のスープが入った器をカズから奪い取る。

「熱いから気を付けな」

 あまりの空腹からか、カズの話を聞かず、漂流していた少年は器に口を付けスープを飲む。

「熱ッ」

 忠告したのにも関わらず、漂流していた少年は熱い具沢山のスープで、口の中を少し火傷した。
 シルバーホーン・サーモンのつみれから出た脂と、少し溶けた野菜でとろみがつき、スープは冷めにくくなっているので、カズもふぅふぅと息を吹き掛けてゆっくりと食べる。
 夜になり少し肌寒かったが、具沢山のスープを食べた事で体の中から温まる。(カズは寒冷耐性があるので、この程度問題ない)
 お腹も満たされた事で、漂流していた少年は落ち着き、カズへの警戒心が薄れた。

「まだ食べるか?」

 漂流していた少年は三度おかわりをした。
 まだ食べれるならと、カズは聞く。

「もういい。ありがとう」

「そうか」

 空になった木の器とスプーンを受け取り、夕食の片付けをする。
 アイテムボックスに入れるを見て、驚かれては話を聞けないので、使った食器は汲んできた海水で洗い流す。
 具沢山のスープは三分の一残っているので、朝食用にとふたをして並べた石の上に置き戻す。
 話してくれるかは分からないが、この漂流していた少年が、何故漂流していたか聞けたら聞こうかと思う。

「自己紹介をしてなかったな。俺はカズ。偶然漂流してる君を見つけて、ここまで運んて来た」

「……ボクはリール。助けてくれてありがとう」

「漂流してのは一人だけか?」

「…そう」

「ここから家に帰れるか?」

「明るくならないとわからないけど、たぶん大丈夫だと…思う」

「なら今夜はそのテントで寝て、明日の朝帰るといい」

「…………」

 家に戻るようにうながすが、帰りたくないのか黙ってしまう。
 ここで理由を尋ねても、余計に口を噤んでしまうと判断して聞く事はしなかった。

「飯を食べて体が温まってる内に、テントに入って寝た方がいい。スープはまだ残ってるから、腹が減ったら言ってくれ」

「…うん」

 ゆっくりと立ち上がり、テントに戻るリールの横顔は、何か思い詰めている様に見えた。 
 どうやって助けたなど聞いてこなかった事から、まだ混乱しているのだろう。
 思い返すとリールが乗っていた木片は、元々は船だったのではないかと考えられる。
 陸地に近い内海なら半ズボンにシャツで小船に乗り、魚介類を取っていても変ではない。
 しかし暖かいとは言え、沖合に出るには薄着過ぎる。
 小船が流されて沖合に出てしまったとも考えにくい。
 だからと複数人で漁に出て、海に落ちてしまったとも考え辛い。
 もしそうなら助ける筈だと。
 だとしたら漁をしに沖合に出た船が横転して、リールはたまたま流ていた木片にしがみつき漂流していた。
 あるいは殺す目的で騙されて沖合に連れて来られ、海に放り込まれたか?
 いくら考えても憶測に過ぎない。
 本人が話す気になったらにするだろうと、この日は焚き火の番をしながら就寝する。


 ◇◆◇◆◇


 明け方焚き火が弱まり火が消えかける。
 焚べる枯れ枝が無くなり、テントが見えなくなる位置まで拾いに行く。
 十数分程すると白々と空が明るくなり始め、拾い集めた枯れ枝を持って戻る。
 テントにリールの姿はなく、焚き火の側に置いてあった、具沢山のスープが入った鍋がひっくり返り、毛布がテントの外に放ってある。
 明け方リールが起きた気配を感じ取っていたが、テントから出て来ないので、あえて隙を見せてどうするか隠れて様子を伺った。

 カズが火に焚べる枯れ枝を探しに、テントから見えない所まで離れたのを確認すると、リールは纏っていた毛布を投げ捨て、鍋に残っていた具沢山のスープをかっ込み、平らげると走り去った。
 自分の素性を聞かれたくなかったのか、カズが魔族ではないと気付いて逃げたのかは分からない。
 視界の端に表示したままのマップに、遠ざかるリールが表示はされているので、焦って後を追うような事はしない。
 放ってある毛布と転がってる鍋を拾い、昨夜使った食器と共に〈クリーン〉を使い汚れを取り除き、テントと一緒に【アイテムボックス】に入れて、朝食にとタマゴサンドを出す。
 拾い集めた枯れ枝を火に焚べ、暖を取りながら朝食にする。
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