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あなのあいた石
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その石は、大きな青い空の見える丘の上にいました。
ここで産まれて、まだ一歩も動いていません。
石が産まれるとき、神様が言いました。
「おまえに、名前ともう一ついいものをやろう。そのうちきっと役に立つよ」
神様は石に「いっちゃん」という名を授けました。
そして、産まれてきた「いっちゃん」のからだには、ひとつの穴があいていました。
「かっこわるいなぁ。ボクだけなんでこんな穴があいてるんだろう」
初めの頃いっちゃんは、からだの穴をそんなふうに思っていました。
でも、風が吹くと、まるで口笛のようにすてきな音がして、風の強い日をたのしみに待つようになりました。
ある日、いつものように青い空に浮かぶ白い雲を見ていました。
そこに、おしゃべりなすずめがやってきて言いました。
「キミは、ずっとここにいるよね。どこか行きたいところはないの」
「う~ん。ボクはこの丘が気に入ってるんだけどね。前に渡り鳥さんが言っていた海辺の街にいつかは行ってみたいと思ってるんだけど、ボクはひとりでは動けないし」
「じゃあ、わたしが友達のクマさんに頼んできてあげるよ」
「ほんとに。うれしいな。ありがとう」
しばらくすると、二人のクマさんが太い木の枝をかかえてやってきました。
「キミはとっても重そうだから、この木の枝を穴に差して、ボクたち二人では運んであげるよ」
「ボクたちは人間の街には行けないけど、人間が通る道のそばまで連れて行ってあげる」
二人のクマさんは木の枝をいっちゃんの穴に通して運び出しました。
いっちゃんは、木の枝にぶら下がって揺れながら生まれてはじめてほかの場所に行けることにわくわくしていました。でも、もうここに帰って来れないのだと思うと悲しい気持ちになり、生まれ育った場所を振り返り「さようなら」を言いました。
丘を下り森を抜けて、轍のあるまっすぐ伸びた道に到着しました。
道ばたに運んでもらったいっちゃんは、人間が通るのをしばらく待つことにしました。
耳をすましていると、ゴトゴトと道の向こうに小さな赤いトラックがやってきました。
「あの~おねがいがあります」
いっちゃんは、今までで一番大きな声で言いました。
トラックはいっちゃんの前で止まり、二人のおじさんが降りてきました。
「どうしたんだい」
「なにか困ってるのかい」
「あの、海辺の街まで乗せて行ってくれませんか」
「いいよ。荷物を運んで帰るところだから大丈夫だよ」
おじさんたちは、いっちゃんを荷台に乗せて街へと向かいました。
いっちゃんはガタゴト揺れるトラックの荷台で、夕焼けでオレンジ色になっていく空を見上げてました。
森の木がたくさん見えていた景色が、だんだん家やビルが見える景色に変わっていきました。
街に着くと、おじさんたちは
「ひとりじゃ、さみしいだろうから、いいところに行こう」
といい、街の公園にあるベンチの横にいっちゃんを連れて行きました。
もう、空は暗くなっていましたが、公園にはお星さまが降ってきたようなキラキラした灯りがついていてとてもきれいでした。
それからいっちゃんは、公園でたくさんの人たちに出会いました。
風船を持った子どもに
「あそんでくるから、この風船ちょっと持ってて」
といっちゃんの穴にひもを結びつけられた事もありました。
おばあさんがベンチに座ったときには
「あなた、ちょうどいいところにいるわね」
と、いっちゃんを支えにして立ち上がりお礼を言われました。
日差しが強くなった夏も近いある日、若者が大きな日よけのパラソルを持ってきて言いました。
「キミの穴に、このパラソルの柄を差して支えてもらっていいかな」
「もちろんです。がんばります」
いっちゃんは、少しでもだれかの役に立てるならと、喜んで引き受けました。
その日から、パラソルで日陰のできたベンチには、いろいろな人が訪れるようになりました。
青い空が輝く日には、小さな赤ちゃんを抱いたお母さんが
「暑かったわね。ここで一休みしていきましょうね」
と言って、赤ちゃんを膝に乗せて座っていきました。
お日様の光が降り注ぐ日には、なかよく手をつないだおじいちゃんとおばあちゃんが
「そよ風が気持ちいいのぉ」
「青空がきれいですねぇ」
と、散歩の休憩で、二人で座るようになりました。
ある雨の日には、若い恋人たちが
「少しさよならの時が延びたね」
「もう少し、一緒にいられるわ」
と、肩を寄せて雨宿りをすることもありました。
いっちゃんは、それからもずっと、パラソルを支え続けました。
そのうち、がんばっているいっちゃんのまわりにはいろいろな石が置かれるようになり、たくさんの仲間と一緒に、公園に来る人たちの笑顔をたくさん見てしあわせに暮らしました。
ここで産まれて、まだ一歩も動いていません。
石が産まれるとき、神様が言いました。
「おまえに、名前ともう一ついいものをやろう。そのうちきっと役に立つよ」
神様は石に「いっちゃん」という名を授けました。
そして、産まれてきた「いっちゃん」のからだには、ひとつの穴があいていました。
「かっこわるいなぁ。ボクだけなんでこんな穴があいてるんだろう」
初めの頃いっちゃんは、からだの穴をそんなふうに思っていました。
でも、風が吹くと、まるで口笛のようにすてきな音がして、風の強い日をたのしみに待つようになりました。
ある日、いつものように青い空に浮かぶ白い雲を見ていました。
そこに、おしゃべりなすずめがやってきて言いました。
「キミは、ずっとここにいるよね。どこか行きたいところはないの」
「う~ん。ボクはこの丘が気に入ってるんだけどね。前に渡り鳥さんが言っていた海辺の街にいつかは行ってみたいと思ってるんだけど、ボクはひとりでは動けないし」
「じゃあ、わたしが友達のクマさんに頼んできてあげるよ」
「ほんとに。うれしいな。ありがとう」
しばらくすると、二人のクマさんが太い木の枝をかかえてやってきました。
「キミはとっても重そうだから、この木の枝を穴に差して、ボクたち二人では運んであげるよ」
「ボクたちは人間の街には行けないけど、人間が通る道のそばまで連れて行ってあげる」
二人のクマさんは木の枝をいっちゃんの穴に通して運び出しました。
いっちゃんは、木の枝にぶら下がって揺れながら生まれてはじめてほかの場所に行けることにわくわくしていました。でも、もうここに帰って来れないのだと思うと悲しい気持ちになり、生まれ育った場所を振り返り「さようなら」を言いました。
丘を下り森を抜けて、轍のあるまっすぐ伸びた道に到着しました。
道ばたに運んでもらったいっちゃんは、人間が通るのをしばらく待つことにしました。
耳をすましていると、ゴトゴトと道の向こうに小さな赤いトラックがやってきました。
「あの~おねがいがあります」
いっちゃんは、今までで一番大きな声で言いました。
トラックはいっちゃんの前で止まり、二人のおじさんが降りてきました。
「どうしたんだい」
「なにか困ってるのかい」
「あの、海辺の街まで乗せて行ってくれませんか」
「いいよ。荷物を運んで帰るところだから大丈夫だよ」
おじさんたちは、いっちゃんを荷台に乗せて街へと向かいました。
いっちゃんはガタゴト揺れるトラックの荷台で、夕焼けでオレンジ色になっていく空を見上げてました。
森の木がたくさん見えていた景色が、だんだん家やビルが見える景色に変わっていきました。
街に着くと、おじさんたちは
「ひとりじゃ、さみしいだろうから、いいところに行こう」
といい、街の公園にあるベンチの横にいっちゃんを連れて行きました。
もう、空は暗くなっていましたが、公園にはお星さまが降ってきたようなキラキラした灯りがついていてとてもきれいでした。
それからいっちゃんは、公園でたくさんの人たちに出会いました。
風船を持った子どもに
「あそんでくるから、この風船ちょっと持ってて」
といっちゃんの穴にひもを結びつけられた事もありました。
おばあさんがベンチに座ったときには
「あなた、ちょうどいいところにいるわね」
と、いっちゃんを支えにして立ち上がりお礼を言われました。
日差しが強くなった夏も近いある日、若者が大きな日よけのパラソルを持ってきて言いました。
「キミの穴に、このパラソルの柄を差して支えてもらっていいかな」
「もちろんです。がんばります」
いっちゃんは、少しでもだれかの役に立てるならと、喜んで引き受けました。
その日から、パラソルで日陰のできたベンチには、いろいろな人が訪れるようになりました。
青い空が輝く日には、小さな赤ちゃんを抱いたお母さんが
「暑かったわね。ここで一休みしていきましょうね」
と言って、赤ちゃんを膝に乗せて座っていきました。
お日様の光が降り注ぐ日には、なかよく手をつないだおじいちゃんとおばあちゃんが
「そよ風が気持ちいいのぉ」
「青空がきれいですねぇ」
と、散歩の休憩で、二人で座るようになりました。
ある雨の日には、若い恋人たちが
「少しさよならの時が延びたね」
「もう少し、一緒にいられるわ」
と、肩を寄せて雨宿りをすることもありました。
いっちゃんは、それからもずっと、パラソルを支え続けました。
そのうち、がんばっているいっちゃんのまわりにはいろいろな石が置かれるようになり、たくさんの仲間と一緒に、公園に来る人たちの笑顔をたくさん見てしあわせに暮らしました。
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