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149話 ミドリムシは参戦を決意する。

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「部下の人達は気絶しちゃったか……」

 そういって緑が気絶した彼等を見る。緑の殺気を感じた恐怖で気絶したために彼等の顔色は悪かった。

「少し殺気を込めすぎたかな……」

 気絶した彼等を人通り見た緑は、鋭い視線をリーダーの男に移す。緑の視線の先を気にし緑の目を見ていたリーダーの男は不意に緑と視線が合うと思わず叫ぶ。

「申し訳ありません!」

 その声に緑は、それまで鋭い視線で彼等を見ていたが思わず呟く。

「もう、目がしんどいよ、まーちゃん」

 緑がそう言うと彼等が入ってきたドアの丁度反対側の扉から魔緑がドアを開けて入ってくる。

「まぁ、それだけ脅せば俺達を舐めるような事はしないだろう」

 パン! パン!

「はぁ、じゃあ皆お芝居は終わり~」

 緑が手を叩きそう言うと緑の後ろで跪いていた蟲人達が立ち上がり話始める。

「緑様、お疲れ様です。緑様の殺気とても素敵でした」

「はい♪ すっごく怖かったけど、凄く素敵でした♪」

「あんたらも何か理由があったんだろうけどもう大丈夫だ! 絶対に大将が助けてくれるからな!」

「緑様の厳しい目をこちらから見る事ができなかったのが残念です~」

「さすが緑様です。素晴らしい役者ぶりでした」

 はじめ彼等を威圧していた蟲人達も普段の様に話はじめる。

「兜、僕は助ける人に手は差し伸べるつもりだけどなんでも解決できるとは思ってないよ」

 兜がリーダーの男に言ったセリフに緑が注意する。

「へ? 大将に不可能な事があるのですか?」

 その声に他の蟲人達も緑に視線を集める。

「当たり前だよ! 僕1人の力なんてたかが知れているよ! 家族の皆がいるから辛い時も悲しい時も乗り越えられてきたんだよ!」

 緑がそう言うと魔緑が口を開く。

「そうだな、この家族だからここまでこれたんだな……」

 その言葉を聞いた家族全員が鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

「まーちゃんはどうやら最近ツンが少なくなってきているみたいだね」

 そう言ってニコリと腐緑が笑うとさらに続ける。

「良いことだけど萌えが足りないよ!」

 轟!

 腐緑がそう言った瞬間部屋の壁に穴が開く。

「危なっ!」

 魔緑によって放たれた火の魔法がその進行方向にあった物を跡形もなく燃やし尽くす。部屋に穴をあけた魔法は、さらにその先にあった木の数本に穴をあけていた。

「私の後ろに誰かいたらどうするの!?」

 魔緑の魔法を避けた腐緑が叫ぶと魔緑はチベットスナギツネの様な顔をしながら口を開く。

「大丈夫だ。その先に誰もいないのは知っている。コアが壊れなければ治癒の実で治るから手や足を吹き飛ばしても大丈夫だろう。おわりはいるか?」

「怖っ! こんな可憐な家族の手や足を吹き飛ばすなんて! 悪鬼羅刹なんじゃない!?」

「誰が悪鬼羅刹だ!」

 そんなやり取りをしているのをリーダーの男が茫然と見ていた事に気づいた緑は男に話しかける。

「すいません、いつも僕の家族はこんな感じなので…… 改めて話を聞かしてもらえますか?」





「ううん……」

 気絶した彼らは、獣の様な誰かの泣き声を聞き目を覚ます。そして、自分達が気絶するまでの事を思い出すと周りをキョロキョロを見渡しギョッとする。

「「た! 隊長どうしたんですか!?」」





 彼等が気絶している間に緑とリーダーの男は話をしお互いの事を把握した。その後、改めてリーダーの男は緑に懇願した。

 彼等はアメンボの蟲人であった。リーダーの男の話では、彼らは別の大陸から来ており。自分達の仲間を助けて欲しいとの事であった。

 彼等が言うには、彼等が居た大陸には2つの種族がいて、今戦争をしているとの事であった。その2つの種族のうち1つは彼等蟲人達であり、もう1つの種族は竜や龍たちの種族でここ数十年の間に戦争がはじまったそうだ。

 もともと蟲人達は、同じ系統や近い性質を持った蟲人達で集まってそれぞれ国を作っており、その蟲人の国同士で戦争をしていた。だがそこに竜と龍が集まった軍勢が攻めてきたという。

 もともと、その大陸は大地の資源が少なく蟲人達は貧しい生活をしながら戦争を続けていた。蟲人は多種多様な種類がおり、その種類ごとに食べるものや生活習慣や思想などもわかれていた。

 はじめこそ、蟲人達と竜と龍種の戦いであったが、その戦争が長引くにつれて様々な思考思想が生まれ、蟲人でも竜と龍種と手を組み他の蟲人を根絶やしにしようとするもの達が現れる。

 また、竜と龍種の中でも蟲人達と穏やかな生活を目指そうとする者達も生まれた。

 そのために戦争は、蟲人と竜と龍種の連合軍同士の戦いになった。

 1つは戦争をやめて土地を豊かにしようとする者達、もう一つは戦いを好み負かした相手を隷従させ私腹を肥やそうとする者達にわかれた。

 彼等アメンボの蟲人達は、戦争を辞めて土地を豊かにし平和にしようと考える者達が、他の大陸の種族に加勢を頼む任務を与えた者達であった。

 その話を聞いた緑は難しい顔をしていた。話を聞いていた緑は、竜と龍種の混成の軍勢に襲われたら蟲人は、数年もの間戦うなどできず僅かな期間で滅んだのではないかと考えた。

 その質問をすると帰ってきた答えは、竜と龍種達が個の武力であるならば蟲人達は数の武力で均衡をとったと聞かされる。

 奇しくも緑達は、4頭の龍種と対峙した経験がある。家族に被害は出なかったものの、その戦いは苛烈であった。その戦争に加わると家族に被害が出るどころか死者がでると思われた。

 そう思い緑が悩んでいると蟲人達が声を上げる。

「緑様! 彼等を助けましょう!」

「そうです♪ 私達ならへっちゃらです♪」

「大将! いくさです! いくさっす!」

「戦って平和になるのが1番です~」

「緑様、我らの覇道を止めらる者はいません」

 蟲人達の言葉にリーダーの男は涙しながら確認する。

「それでは、加勢をお願いできるのでしょうか?」

 彼等の質問に対する蟲人達の返事は肯定であった。

 緑は彼等の言葉に悩みながら頷く。

「あ! ありがとうございます! この出会いに感謝を! ああああああああ!」

 男は感謝の言葉を口にすると、獣の様に声を上げ泣く。その泣き声に彼の部下たちを目を覚ますのであった。





「隊長! 交渉は!? 加勢の件はお伝えすることが出来たのでしょうか!?」

「ああ、無事承諾して頂けた」

 リーダーの男は目を擦りながら部下達に返事をする。それを聞いた部下たちは感情を爆発させる。

「やった! やったぞ! この方たちに加勢をして頂ければ状況を逆転できるかもしれない!」

「仲間や家族を助ける事ができるかもしれない!」

「今まで死んでいった仲間の願いをかなえる事ができるかもしれない!」

 リーダーの男の言葉に部下達は涙を流しながら半狂乱になって喜ぶ。

 喜びに満ち溢れた部下達の目尻にも涙が見えるのであった。

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