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173話 ミドリムシの家族は集まる
しおりを挟む「準備は整ったのか?」
「はい、各部署の人員の配置などの編成が完了しました」
今、2人が居るのはシェイドが龍種をまとめ上げた際に作り上げた城の中。城の大きさは他の種族が作る物と大きさは変わらず、この中で生活する龍種は人の姿で居る事を苦痛としない者達しかいない。
龍種の中でも長時間人の姿に慣れる者はある一定以上の実力を持っていなければならない。そのため、城の中に居る者達の人数をかぞえればおのずと強大な戦力が集まっていることがわかる。
その者達だが全員が城での生活に不満がないかと言われればそうではない。
「クソッ! あいつめシェイド様の命令をさも自分の命令の様に言いやがる!」
「シェイド様が龍種をまとめてからは、あいつが全ての命令を下してる気さえする……」
「ああ、全くだ。こんな事なら以前の様に野山で気ままに暮らしていた方が良かったぜ」
「だが、それだと修行修行いわれていただろうな~?」
「たしかにサラマンダー様は理不尽だし」「ノーム様はストイックすぎる」「ウンディーネ様も口調は優しかったけども……」
今、話しているのは火土風のそれぞれのナンバー2の龍種、3人はシェイドに誘われるまま、ろくに反抗もせずその軍門に下った。その理由も先ほどの会話の様にそれぞれが自分の属性のナンバー1に不満を抱いていたためであった。
「しかも今戦っている相手って言うのがそのお三方だろ?」
「ああ、他の大陸に渡って強者を見つけて来たらしい」
「強者って他の大陸ではそうかもしれないがここは龍種がゴロゴロしているし、蟲毒の戦士だっているんだろう?」
「だが下からの報告をお前達も聞いているだろう? ことごとく負けている…… その事もあって今回の編成をしなかればならなかった……」
3人は考え込む。果たして他の大陸に行って今の状況を作り出すような種族が居るものだろうかと。少しの間3人は黙りこんだ後、口を開く。
「まぁ、下位の者達が負けるのは上手く策にはめられたのだろう」
3人はそう言って結論付ける。その考えは間違いであり、3人は知らなかった。
異世界から来た者がこの世界に加わった新しい種族であり、その力が真っ向から龍種と勝負ができるどころか圧倒する力を持っているなど夢にも思わなかった。
「城の周りを残った者達全員で陣を組むんだ負けることなど無いだろう……」
「ああ、馬鹿な奴らも居たもんだ。今まで数匹の龍種と戦い勝てていたのかもしれんが我等龍種が陣を組むなど想像もしていないだろう?」
「蟲人達をからかうのも飽きていた事だし、少し体を動かすとしよう」
3人は冗談めいた口調で話しながらそれぞれの部下が待つ場所まで長い廊下を進んで行く。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて皆、体の調子は問題ない?」
そう緑が家族に尋ねるとミドリムシ、蟲人、獣人、子供達、龍種、一部の冒険者からそれぞれ問題なしとの返事が返され、緑はニコリと笑うと口を開く。
「では、作戦通りシェイドをやっつけにいくよ!」
「「おおおお!」」
チキチキチキ!
そのやり取りはダンジョンの中でも冒険者達が世話になる施設から離れていたところで行われており、緑達家族がほぼ揃ったため大量の子供達もその場に集まっていた。
その日冒険者達は、普段ならそこかしこに居るヒカリやクウの子供達を今日は一切見る事がなかった。こんな事はダンジョンができて初めての事。気配や魔力を感知できる冒険者達は、普段ダンジョンに入る際にはそのスイッチを切る。
それは、子供達がそこら中に居るために落ち着くことができないためだが今日は、その子供達があまりに見かけないために気になる。それなば確認してみようと思いついた数名の感知に優れた冒険者が気配や魔力を確認しようとスイッチを入れる。
「げっ!」「ええええっ!?」「おいおいおい!」
数名の者達がそのスイッチを入れると驚きの声を上げる。緑のダンジョンで驚きの声を上げる者は珍しくない。それは、ダンジョンの中の設備がこの世界の最先端の事もあり見たこともないような料理やその美味さ、温泉という温かい水につかる施設、キンキンに冷えた酒、冒険者が驚くものはそれだけではなく、街のあちこちで驚きの声が上がる。
その声は驚きはするがその声色は、面白いものを見た時、美味い物を食べたり飲んだりした時、今まで味わった事がない感動から声を上げる。だが、今冒険者達はが上げた声は絶望や恐怖に近いものがあった。それを聞いた他の冒険者達もその声の主に声をかける。
「おい、どうした? 何か珍しいものでもみたか?」
そう言った冒険者は声を上げた者の方に顔を向けるとそこに居たのは顔を知っている冒険者。この顔見知りの冒険者ならこのダンジョンで声を出すような驚きは大抵経験しているはずと眉を寄せる。
しかもどうも様子がおかしい、冒険者はそれまでの明るい表情から真剣に顔になる。それこそ未踏のダンジョンを進むような真剣なものに。
「おい…… 何があった?」
「おお、あんたか…… いや、普段ここに来るときは気配や魔力の感知のスイッチを切るのは当たり前だよな」
「ああ、王様の子供達がそこかしこにいるからな」
顔色の悪い冒険者に声をかけた者が返事をする。
「だが、今日は朝から1人? 1匹? もみあたらねぇ…… それで話してたんだ試しにスイッチいれてみるか? って」
「それで驚く事があったと……」
「ある場所から全員が探知が機能してないんだ…… いや、機能はしているんだが……」
歯にものがつまったような言い回しをする冒険者の態度に声をかけた冒険者が口を開く。
「お前の考えを入れずに事実だけを話せ……」
「街から離れた場所に子供達が集まっているんだが…… その数があまりにも多いんだ、こんな数が居るなんてしらなかった…… スタンピードどころの話じゃない……」
「方向は?」
怯えはじめた冒険者は黙って方向を指さす。その方向を確認し話しかけた冒険者は、そばのテーブルに腰を掛けていたチームのメンバーの方を向くと黙って頷く。
「支援魔法をかけます、これで早く走れます」
「いくつかのチームに声をかけてくるっす」
「あ~ 今、緑のダンジョンに居そうで広範囲の探知が仕える奴はセリアか?」
「だろうな、俺も少しさがしてくる。シャークあんたは現場にいくんだろう?」
「ああ、ちょっくら王様に何があったか聞いてくらぁ」
そう言ってシャークは放たれた弾丸のようにその場から走り出す。
それから数分後シャークは自分を追う気配に気づく。シャークは少しスピードを緩めその者が自分に追いつくのをまつ。
「シャーク!」「セリアか!?」
「話きいたで緑の子供達が大量に集まってるんやろう?」
「ああ、大量にって言葉は間違ってないがあってるともいえねぇ! 感知した冒険者がスタンピードの所の話じゃないってなぁ」
「確かに緑の子供達ってものすごいスピードでふえとるからなぁ……」
「ああ、だが俺が心配してるのは数のはなしじゃねぇ」
そこまでシャークが言うとセリアは走りながら考え込む。
「集まる理由?」
そうセリアはシャークに尋ねる。
「そうだ、俺達やお前達みたいに緑と付き合いが長い奴は子供達が集まったところで少し驚くくらいで別に問題ねぇ…… だがその集まった理由が問題だ。いつもみたいに何か催しでもするなら子供達を全部集めたりしねぇだろう?」
「確かに…… 龍種でも緑とヒカリやクウや兜、レイ、ファントムが居れば余裕で狩るやろうな~」
「そんなあいつらが子供総動員で何かと戦うとしたらなんだと思う?」
そうシャークに言われセリアが悩んでだした答えを口にする。
「おとぎ話の魔王?」
「お前は少し勉強もしとけ、おとぎ話じゃねぇよ。まぁ、聞いた話にもよるが魔王と勇者の話、あれは史実だ……」
「マジで!? あれって作り話やないの? 人やエルフ、獣人、ドワーフ、龍や他の知性のある魔物も含めて総動員で戦ったいう」
「ああ、マジの話だ」
「緑……」
セリアが思わず緑の名をこぼす。そんな様子を見たシャークがからかうように口を開く。
「ほうやっぱりまだ緑の嫁をあきらめてないか……」
「う、うるさいわ! だまって走りや!」
シャークの言葉に怒鳴るセリアだが顔は赤い。その様子を見たシャークがすぐに口を開く。
「まぁ、緑達だ余裕で魔王も倒しちまうかもな」
そう軽口をたたくシャークだが心の中は違った。
『緑よ、俺はお前の盾のつもりだ魔王なんかに殺させねぇよ』
怒った勢いで緑が魔王になったことを知らない2人は緑を心配して走り続ける。
「シャーク! ごっつい人数やで!」
「ああ、探知が下手の俺でも気づく。しかし、こんなに子供をつくってたのか緑は」
緑の家族を全員を人と同じ扱いをするセリアとシャークが思わず声を上げる。
「少し高いとこから様子をみるぞ」
シャークが緑の家族の全貌を見よう少し進む方向をずらし山に少し上る。
「なんて人数やねん」
下手な探知だがそれでも気づく気配の数と思っていたがシャークの考えは間違っていた事に気づき、先ほど冒険者が言った言葉を思い出す。
全員が探知が機能してないんだ…… いや、機能はしているんだが……
今、2人の視界は大量の子供達で埋め尽くされていた。冒険者が気配を察知したなら察知範囲が気配で埋め尽くされたのだろうとシャークは思いなおした。
茫然とその光景を見ていた2人であったが子供の1人がシャーク達の方を振り返る。池に小石を投げ込むと起こる波紋。まさに波紋の様に1人の子供が振り返るとそれは、波紋の様に広がり大量の子供達が次々とシャーク達の方を振り向いていく。
「こ、これはすごい光景やな……」
「ああ、こんなものなかなか見れるもんじゃねぇ、情報が波のように共有されるのがわかるな……」
ブブブブブブ
「「!?」」
いつの間にか聞こえていた羽音にシャークとセリアが振り返る。
「シャークさんにセリアですか……」
「ヒカリか!?」
ヒカリの声に我に返りいつの間にか自分達の後ろにいたヒカリに思わず声を上げ振り返る。
「今日、緑様は忙しいのですが、後でお2人に帰ってもらったと緑様が聞いては私が怒られます」
そんな事で緑はヒカリを怒らないだろうと思う2人だが黙ってヒカリの様子をうかがう。
「まだ、時間もありますし緑様の元にご案内します」
ヒカリがそう言うと子供達に埋め尽くされていた景色に一本の道ができる。それは、子供達が他の子供達に乗って隙間を作り緑までの道を作り出した。
それを見たヒカリが2人に言う。
「緑様はあの道の先にいます。私は緑様の傍に先に向かいますのでお2人はあの道を真直ぐ進んでください」
そう言ったヒカリは2人の目の前から姿を消す。残された2人は顔を合わせ頷くと、今いる場所から駆け下り子供達によって作られた道を走る。
2人はしばらくの間、子供達の作った道を走り続ける。緑達の元に来るまで間に、かけられた支援の魔法はすでに切れていたが、2人のスピードは決して遅いものではなかったのだが、それでも痺れを切らしたヒカリの指示で2人はヒカリの子供達に抱えられ緑の元に運ばれるのであった。
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