聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる

文字の大きさ
1 / 17
本編

第一節 追放は突然に

「エリス・ジーン。お前を聖女の任から解き、国外へ追放する」

 早朝。祈りを捧げるため、いつものように礼拝堂までやって来たときのことだった。扉の前に立っていた王子は、冷淡な顔付きで言った。

「え……?」
「聞こえなかったのか? 耳が悪いな。お前は、もう聖女ではない。さっさとこの国を出て行け。そう言っているのだ」
「そんな……。ご冗談、ですよね?」
「冗談ではない。後任の者は既に決まっている」

 その言葉のあと、すっと現れたのは、わたしも良く知っている顔だった。

「ミラ……」
「ごきげんよう、エリス。ふふっ、良い表情かおしてるじゃない」

 聖女見習いの彼女がここにいる。
 私を聖女の座から下ろすこと。これは、本当に冗談ではないということだった。

「わたしが……わたしが、一体何をしたと言うのですか? 突然聖女を代われなどと言われても、到底承服できません!」

 心身を摩耗する厳しい聖女見習いの時期を越えて、ようやく聖女になった。毎日欠かすことなく、民の幸福を祈ってきた。寒い日も、暑い日も、祈りは一日六時間に及ぶ。そのすべてを無かったかのように扱われるなど、納得できる訳がなかった……。

「あなたの癒やしの力が足りなかったからですわ。御存知? もう、国は流行り病で大変なことになっていますのよ。それを、何も知らずにのうのうと祈りを捧げようとして……。病を和らげるようなこともできませんの? 本当、使えない聖女様ですこと」

 え……? その病を少しでもために、祈りを捧げようとしているのですけど?

「レクタ王子。お言葉ですが、ミラの手に負える病であるとは思えません。どうか御再考を」
「んなっ……!」

 どれほどの神聖力を持っているかは、見れば分かる。それに、この病はただの病ではないのだ。和らげるだけでは話にならない。消すしか道がないのだ。どう考えても、彼女にそれができるとは思えない。神聖力の観点から言えば、もっと良い人材が聖女見習いにいるはずなのに、なぜ、よりにもよってミラなのだろうか……? おかしな話だった。

「聖女に対する侮辱。また一つ罪を重ねたな、エリス」
「また……?」
「日々の祈りを怠った怠惰の罪。そして、不特定多数の兵士と関係を持った姦淫の罪だ」
「――――」
「あら、声も上げられないなんて、よほど図星のようですわ。まぁ、はしたない」

 わたしは――このとき理解した。
 王子は――少なくとも、王子を動かしている者は、わたしが邪魔なのだ。この国から、のだ。

「処刑せよとの意見もあるが……俺もそこまで鬼ではない。国外追放が妥当なところだろう。一時間で支度せよ」
「……」
「はっ、ちょっと可愛いからって、調子に乗るからこういうことになるのよ。たっぷり反省すると良いですわ。まあ、今さら後悔しても遅いですけれど」

 わたしの追放は、もう決定されていることなのだ……。何を言っても、覆されることはないように思えた。それでも、言わずにはいられなかった。民は……その子孫は、きっと、不幸せになるだろうから……。

「本当に……本当に良いのですね。王子、その御決断で」
「決断も何もない。罪人を罰するのは当然のことだ」
「そう、ですか……」

 旅の支度を終えたわたしは、文字通り、国外へ放り出された。兵士は、わたしを軽蔑の眼差しで見下ろしていた。おかしいな……。彼の傷を癒やしたこともあったのだけれど……。
 立ち上がる。擦り剥いた膝から、血が滲んでいた。
 これから……どこへ行けば良いのだろう?

「……」

 ひとまず、隣国ウォルデンに行こう……。ここから一番近い国だと聞いている。
 一度、城壁を振り返る。それきり、わたしは独り、西へと歩き出した。
感想 4

あなたにおすすめの小説

殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ

柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」 「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」  濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。  やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。

わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました

柚木ゆず
ファンタジー
 より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。 「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」 現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う

柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。  大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。  その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。  そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。  ……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

結婚式当日に私の婚約者と駆け落ちした妹が、一年後に突然帰ってきました

柚木ゆず
恋愛
「大変な目に遭ってっ、ナルシスから逃げてきたんですっ! お父様お姉様っ、助けてくださいっ!!」  1年前、結婚式当日。当時わたしの婚約者だったナルシス様と駆け落ちをした妹のメレーヌが、突然お屋敷に現れ助けを求めてきました。  ふたりは全てを捨ててもいいから一緒に居たいと思う程に、相思相愛だったはず。  それなのに、大変な目に遭って逃げてくるだなんて……。  わたしが知らないところで、何があったのでしょうか……?

魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」  今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。  しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。  でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。  そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。 ((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))  ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。  ――魅了されてしまっていた――  そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。