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12歳と薔薇色の…
慣習
しおりを挟む――この国の慣習とは、処女についてのみではなかった。
「――初経を迎えた年から、姫を、時期女王を産むまで毎年新たな夫を後宮に迎え入れること――」
そして姫を産むまでヤリまくれと、つまり、そういうことであった。また、初潮が来て子が産める身体になった証として新たな名がつけられる。
自分で名を決めなければならないので、朝、自身の初潮を迎えてマリアンヌの元服が許された時には思わず大きなため息が漏れた。全く考えてなかったので仕方ないが。
それに生理が来たら新たな名を連ねてその義務が本当の意味で生じ始めるのだ。
「モエ、――萌。萌え出づるの意味はよく考えたら素敵よね」
どうしようかと初めて悩んで考えた朝、一番に思い浮かんだ名前が前世の名だった。
記憶を中途半端な部分の価値観や性格、知識だけ引き継いだマリアンヌにとって、今まで前世というのは自分であって、自分ではなかった。
しかしいざ元服名をと言われ、真っ先に思い浮かんだのがこの名であったのは、自分で思っていた以上に前世の自分を気にしていたせいなのかもしれなかった。
「今日から私は――マリアンヌ・モエ=ウテナ。私は私よ」
朝の初潮による静かな大騒ぎから、慌ただしく準備を進めていたマリアンヌは、夜になり、就寝直前になってやっと一息つけられた。
正式な元服式があるためまだしばらく慌ただしいが、一番悩ませられる肝心の元服名を決めてしまえば、後は単純作業であったため不安はなかった。
「今日は冷えるわね……」
マリアンヌは薄い肌着にガウンを着ていただけだった。もともと寝る前の気分転換にテラスへ出て夜空をひとり眺めていたが、加護があったとしても、そんなこと言ってられないくらいの寒さに段々と息も辛くなってきていた。
――夜空の向こう、前世の自分へ思いを馳せるとそのまま室内に戻った。
そろそろ冬の終わりも近く、年の始まりもすぐそこであった。
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