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春 2
しおりを挟む突然だが、今世の家族構成を紹介したいと思う。
まずは父と母。
この二人はこの世界では今時珍しく純愛結婚である。幼馴染の頃に出会い、結婚までプラトニックを貫き通した猛者たちで、特に、ハーレム当たり前な世界において母オンリーという異端であった父は尊敬に値する。
たとえ、ひとりが結婚を勝ち取った後でさえ、公認の愛人が同居するような世界だ。今なお母一筋である父は勇者で、希望の星である。
……残念ながら、可愛い娘の一人である私は百合属性なため、勇者の血筋の孫は減るだろうが。養子で許してくれないものか……。
いや、こんな世界じゃそもそも私の理想の姫が見つかるかどうかが未知数なのだが。惜しむらくは満月が男であったことである。本当に残念でならない。
次に、私の姉である。彼女は現在大学生として青春を謳歌しているはずだが、高校を魔境と称し、大学を魔窟と断言するあたり、内情は推して知るべしである。
そんな姉だが、彼女は珍しくハーレム派閥というものを嫌っていた。父の影響もあろうが、大変喜ばしいことである。ぜひ、その血を引き継いでいってもらいたい。
――と、私も最初は思っていたが、姉には致命的な欠点があった。
薔薇萌え、という世界の異端どころか異物だったのだ。つまり、極度のBL好きである……父の異端の血が濃かったようだ。何が彼女をそうさせたのか、百合属性な妹としては何も言えない。
さらに言えば、何があったかは多くは語らないが、ハーレム嫌いな姉を察して余りある何かしらの悲しい事件により、姉は人生に達観し、早々に解脱した老師のような顔で生涯独身と公言してはばからない。
勇者の血……孫は遠ざかってしまった。
――が、しかし! まだ望みはあった。
なんせ私にはまだ、年子の妹が居るのだ。彼女は姉ほどハーレム派閥を嫌悪している訳ではないが、理解は示しているタイプで、しかしいざハーレム要員にされようとすると自らの身を引ける賢い子である。
要領のいい子なので、きっと遅かれ早かれ父のようなタイプを見つけ出して孫を量産してくれることだろう。これで我が一族は安泰である。
◇◆◇◆◇
「ひろ姉、ちょっといい? 相談したいことがあるんだけど……」
「ん? 珍しいね。どうかしたの?」
妹である千里が珍しく私の部屋を訪ねたかと思うと、悩みがあると言う。我が家の子孫繁栄の希望の星である千里の悩みとあらば、何が何でも解決せねばなるまい。
部屋の入口に置き所なく佇む妹を促してベットに座らせる。別に他意は無い。無いったら無い。我らが希望の星にはふかふかのベットに座らせる待遇が最も敬意を示せるからであって、やはり他意は無い。
「それで、相談って何?」
「あ、あのね? 私も最近気付いて驚いてるというか、戸惑ってるというか……こんな事初めてで……」
相談内容を促すと、しばらく無駄にもじもじしながらも、段々と頬を赤く染めて妹がぽつぽつ告げる。可愛いなおい。
というかこれってもしかしてもしかするのか? 少し早い気がするけど、一年もあれば結婚出来てしまう年齢である。再来年辺りには早速我が家に朗報がもたらされるのかもしれない。
相談内容の検討がついて、こちらも若干そわそわしながら妹が続きを言うのを固唾を呑んで見守る。私は出来る姉である。間違っても「で? お相手はどなたでらっしゃるの?」なーんて無粋なことは言わない。
「それでぇ? 何が初めてなのぉ~?」
「お姉ちゃん……」
先程まで可愛らしく初々しい反応をしていた妹が一転、呆れたような、シラケたような目線をニマニマが止まらない姉へ突き刺してくる。これはこれでいいな。
「ハァ……」
私の抑えきれないニヤケを見たせいで完全に冷静になってしまったらしい妹は、普段通りの乏しい表情に戻った。非常に残念である。
「うん、あのね。私、好きな人が居るの」
「ほうほう!」
まあ、妹の千里の態度や雰囲気、話の流れで分かってたけども。無粋な表情を抑え切れず失敗した身としては、二度としくじるわけにはいかない。慎重に相槌を打つ。
「で、でね? お相手の方は年上なんだけど……」
「へえーいいんじゃない?」
薔薇好きの姉と百合属性な姉の下で育ったせいか、千里は妹属性特有の甘えるという行為が苦手だった。滅多なことではお願いすらしない。もはや上に頼るより自己解決するほうが速いという悟りっぷりであった。
――まあ、甘えるという行為については満月がプロ級だが、今は閑話休題。脳裏に過ぎった過去の悲惨なアレコレがフラッシュバックショーを開催し始める前に彼方へ思考を追いやった。今は可愛い妹についてのみ考えるのだ……。
まあそんなこんなで自由奔放、オープンな趣味に生きている姉二人に比べ、一族の……勇者の血筋を子孫繁栄させるという偉大な使命をその小さな方に背負っている千里は、常々大人びていると思っていたが……やはり年上好みだったか。
情けなくも納得である。
「出会いはどんな感じだったの? 最近気付いたって言ってたけど、その時はどう気付いたの?」
「え、えーっとね……」
私の質問に、その時の状況を想い出したのか、ぼんっと効果音がつきそうなほど顔を真っ赤に染めて初々しい反応をする。よいではないかよいではないか。ちこうよれ。
あんまり可愛らしい反応に、思わず両手をワキワキしてしまった姉の狂気を察したのか、妹が物理的に距離を取った。普通に悲しかった。
私は泣く泣く両手を封印し、またしても冷静に戻ってしまった妹を悲し気に見つめたが、反応はドライであった。ごめんよ、お姉ちゃんが悪かった。次からは凝視するだけに留めるから……。
私の殊勝な態度に憐れんだ妹の、戻したはずの物理的な距離がすぐさま先程より開いた。以心伝心。さすが家族。もう、余計なことは考えないことにした。それが私のためである。
「ハァ……晴姉よりかはマシかと思って最初に相談したんだけど……」
ごめんよ、こんな姉で。でも晴姉よりマシっていうのは地味にこっちのお姉ちゃんが傷ついた。両方同時にディスるとは相変わらず我が妹は素敵である。お姉ちゃんいじけていいかな?
「とにかく。相手なんだけど、学校の用務員さんなの」
「なるほど」
公務員か。手堅い。やるな妹。肩書はしょぼいがいい線行ってる。学校の用務員ならまあ、出会いや年齢についても納得は行く。ただ、問題は再来年の朗報は外聞的に難しいだろうなという部分だ。
「その用務員さんはさとちゃんが好きってこと知ってるの?」
「うん……もう、告白した」
ひょえー! 行動力高いな、妹よ! お姉ちゃんびっくりだよ……。
「相手は何て?」
「うん……こんなジジイを好きになってくれて嬉しいけど、君には他のもっと素敵な相手が居るだろうって」
ほう~、さすが公務員。学生の好意のあしらい方を心得てらっしゃる。好感度アップである。しかし、十数歳ぐらいの歳の差だったら珍しくないし、数年後に再会して……なんてロマンスがワンチャンあるかもしれない。
「それで? 諦めるの?」
「ううん、それでも好きだって、真剣だって言ったの。そしたらね、自分は亡くなった妻を愛してるからって、断られちゃった……」
なんと! まさかそんなところに父と同じタイプの男が居るとは……! しかも、奥さんが亡くなってなお一途とは……これは逃す手はないぞ、妹よ……!
話を聞いて昼ドラ的な略奪愛の予感を察知した私は、まるでドラマの続きのネタバレを聞く野次馬の如くこぶしを握った。
「うんうん、それで? もちろん食い下がったでしょ?」
「……ううん。食い下がろうとしたんだけど、それが向こうにも分かったのか、先に断られちゃった」
「そっか……」
なんと、硬派な。今時珍しい。母が死んだあと、父がどうするかは分からないけど、おそらく、その用務員と同じ感じなんだろうなって思うと急に複雑な気持ちになる。
なんだか、そっとしておいたほうがいいのかもしれないって思えてきた。すまん、妹よ。
しっかし、私たち三姉妹の通った中学校にそんな硬派な用務員は居ただろうか? 用も無ければ近寄らない場所なので、あまりそういう感じの職員は記憶に無い。
唯一覚えてるのは、母が忘れ物の体操着を届けてくれた時に仲介して渡してくれた優しそうなお爺ちゃん先生くらいである。
「来年には還暦を迎えて引退するから、もう会うことも無いだろうって……」
「そっ……」
そっち系統だったかぁ……。
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