乙女夢想~雑な恋愛フラグは罠です。触れるなキケン~

たみえ

文字の大きさ
4 / 10

春 3

しおりを挟む

 我が家の最後の希望、妹の千里が枯れ専――いわゆる超年上好きのジジ専――と判明してから早数日。
 もうどうしたらいいか分からない……と落ち込みながら相談してくれた当の妹には悪いが、私がなんとか残り少ない時間を素敵なものにしたほうがお互いにとって良いと提案、説得することで納得させた。良かった。

 ……まあ、若干まだあわよくばという妹の未練というか思惑が見えるが、おそらく大丈夫だろう。とりあえず今回、普通に断ってくれた用務員のお爺ちゃんの英断には感謝しかない。
 しっかしこれで我が家の、ひいては父の勇者の血が途絶えることは3姉妹の趣味嗜好的に確定である。これは一大事だ。

「大丈夫だよ。ちーちゃんと満月で結婚するもん」
「…………」

 ――何がもんだ何が……とりあえず引っ付くな、離れろ。

 現在の状況をお伝えすると、お察しの通り屋上で昼休みを過ごす腹積もりだった私に居場所を特定してきた悪魔が引っ付いてきたのである。
 そして、何故か我が家の内部事情にやたらと詳しいのが悪魔の特徴である。もう、スパイとか、存在不明な国家の情報機関みたいなところでエージェントとして働けばいいと思うよ、うん。
 ちなみに詳細は省くがその手段は実に巧妙であり、間抜けな私はことごとく引っかかって地獄をみていた。今のように。南無三。

「ねえちーちゃん、今度のレクリエーション楽しみだね!」
「レクリエー、ション……?」

 なんだ、そのレム充が飛び上がって喜びそうなイベントは……。あ、説明しよう。レム充というのはハーレムが充実している奴らの、この世界特有の呼称である。私が命名した。

「クラス対抗のドッジボールだって。もしちーちゃんのクラスと当たったら一緒に外野でおしゃべりしてようよ」
「無理」
「えー」

 コイツは、この悪魔はおしゃべりなんて可愛らしい表現で言いくるめようとしているようだが、私はもう騙されない。そう言って何度貞操の危機にあったか……。
 ただでさえ世界に絶望してハイライトが消えかけてる目が、完全に闇の住人側になってしまう。

「むー」
「…………」

 くっそ……! コイツが男でさえなければドストライクなのに……!

 可愛らしい顔でむくれて不満を表現しているだろう確信犯を横目に見ながら、私は賢者タイムに入った。コイツ、オトコ、オンナ、チガウ。

          ◇◆◇◆◇

「クラスごとに並んでくださーい!」

 ぞろぞろと、広々として肌寒いグラウンドに集合させられていた。私はと言えば、指示を出す先生の声を頼りに一年生の中をすり抜けるよう、真剣に通り抜けていく。
 間違っても肩や腕など、身体機能の重要機関である一部分をもぶつけてはならない。何故なら――

「――きゃっ!」
「わあっごめんっ! 大丈夫?! 怪我しなかった……?」
「え、あ……だ、だいじょぶ、です――」

 ――とかなんとか。そういう感じの茶番がそこかしこでおっぱじめられてしまうからである。今ので遭遇したのが六件目。お前らは揃いも揃って生まれたての小鹿かっ! と問い質してやりたい。地に足つけて生きて。マジで。

「――っと、今、誰か当たったか?」

 っぶねえええええ……!!

 既に姿が小さくなった方角にはヤンキーっぽいやんちゃなあんちゃんが首を傾げてキョロキョロしていた。最近の若者はなんて軟弱な……と年寄り臭いこと考えていたせいか、勢い余ってぶつかってしまった。
 人の振り見て我が振り直せとは言い得て妙である。まあ、私の足は雑草の如く力強く地に足ついてるので、二次被害は防がれたが。
 こういう事故が起こり得るから油断などできはしない。まったく、冷や冷やさせられる……。ふぅ。

「それではレクリエーションについて説明を――」

 なんやかんやで無事整列出来た一年生を前に、先生がレム充イベントの説明を開始した。長々と建て前の説明をおっしゃられていたが、私にはその真意が、裏が全て読めた。
 つまるところ、レム充のさらなる充実を図りたい野獣どもはこぞってか弱い乙女にブラシーボ効果で詐欺を働け、そうすれば乙女はもたらされんとかなんとか、まあそんな感じのイベントだそうだ。
 まったく。やってらんねーぜ、ちくしょーめが。

「……佐藤さん」
「…………」
「佐藤さん……」
「…………」
「佐藤千尋さん」
「……はい?」

 なんか、どこからか覇気のない声が聞こえたが気のせいとしてスルーしていると、前に回り込まれた。これでは避けようがない。チッ。
 フルネームでも呼ばれてしまっては誤魔化しようもなく……仕方がないので返事した。そして長めの前髪で片目を隠したうえ顔色悪く、隈が濃い目前の男子に目線を合わせた。
 くっ……ヘビメタ好きな佐藤さんはいっぱい居るのに、絶望的に相性悪い佐藤さんにいったい何用だヴィジュアル系の少年よ。

「佐藤さん……背高いから……最初のキャッチ……お願いしてもいい……?」
「なるほど、分かりました」

 なんだ、そんなことか。

 警戒して緊張していたが、その理由ならまあ納得である。会話が続くと変なフラグが建ちそうなので早々に了承して前に出た。
 有り難いことに、今世の私の身長は高1にして173cmとかなり高身長で、しかもまだ伸びているのである。男どもに見下される趣味は無いので本当に有り難い。
 成長の遅い男どもはまだこの域に追いつけないようだ。ざまあないな!

 ――「はっ!」
 ――「たぁっ!」
 ――「おぉらっ!」

 それからの私はというと、試合開始と同時に高身長を活かして執拗に野獣どもを狙い打ちしてやった。そしてことごとくが我が魔球に沈んでいった……まったくもって貧弱この上ない。
 だが、こんな貧弱なやつらに我が美少女や美女たちが掻っ攫われていくんだと思うと、増々やるせない恨み憎しみが私の闘志を燃え上がらせた。二度と盛れなくしてやろうと、とある急所を特に狙ったのはまあ、ご愛敬である。
 そんなこんなで決勝戦まで私の独壇場だった。間違ってもレム充どもの見せ場は作らせない。早々にご退場頂いた。

「それでは決勝戦を始めたいと思います。1組と10組はコートへ入ってください」

 先生の一声により、ぞろぞろとグラウンドの試合コートに人が集まっていく。私の気分は最悪だ。
 なぜって? そりゃあ、相手が我らが悪魔のクラスとあらば気分も落ち込むものである。まったくもって最悪だ。絶対途中で負けると思ってたのに、アイツ、調節しやがったな……。

「ちーちゃん、よろしくねっ?」

 可愛らしく駆け寄ってきた、ポニーテールを利用した悪魔のあざとい仕草に男女ともに複数が試合前にやられたようだ。――衛生兵! 衛生兵! ただちに悪魔の病原菌を回収してくれっ……!
 しかし私の願いもむなしく、感染者多数のまま試合が始まってしまう。不安だ。不安しかない。

 そのまま開始の合図とともにボールを確保。あまりの身長差に相手も涙目であった。すまんな、ちびっこ少年。レム充に容赦はしない主義なんだ。
 ボールをゲット出来なかった、と涙目で落ち込む少年の周囲を囲んで慰めるレム女たちを確認して嫉妬する。あいつは最初にボコす。

 そんなこんなで試合が始まって早々に撃沈した少年はともかく、今までの流れから言えば、私の嫌悪感順に悪魔を真っ先に狙いに行っただろうと思ったかもしれない。
 ――だが、アイツはダメだ。

 なんせ、昔から運動神経がずば抜けているのを知っている。しかも可愛らしく擬態して相手にその運動能力を悟らせない余裕まであるのだ。
 簡単と見て狙ったが最後、速攻返り討ちである。私はそんな初歩的な愚は犯さない。悪魔は総スルーに限る。………て、――
 ――げぇっ! 悪魔がボールを手にした、だと……ッ!?

「あ、やったー!」

 ――そこからの惨劇はもう、悲惨であった。

 ボールを手にした悪魔は早速とあざと可愛い仕草で周囲を騙し、次々とその毒牙にかけていった……。
 しかも、「え? あれ? なんか当たっちゃった……なんでだろう?」と退場した誰をも疑問に思わせない手腕は見事の一言である。
 そうして、双方の外野人数が内野人数を大幅に上回ったところでいよいよ私に狙いすましたのか、獲物を注意深く狙う肉食獣の悪魔と目が合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

処理中です...