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春 3
しおりを挟む我が家の最後の希望、妹の千里が枯れ専――いわゆる超年上好きのジジ専――と判明してから早数日。
もうどうしたらいいか分からない……と落ち込みながら相談してくれた当の妹には悪いが、私がなんとか残り少ない時間を素敵なものにしたほうがお互いにとって良いと提案、説得することで納得させた。良かった。
……まあ、若干まだあわよくばという妹の未練というか思惑が見えるが、おそらく大丈夫だろう。とりあえず今回、普通に断ってくれた用務員のお爺ちゃんの英断には感謝しかない。
しっかしこれで我が家の、ひいては父の勇者の血が途絶えることは3姉妹の趣味嗜好的に確定である。これは一大事だ。
「大丈夫だよ。ちーちゃんと満月で結婚するもん」
「…………」
――何がもんだ何が……とりあえず引っ付くな、離れろ。
現在の状況をお伝えすると、お察しの通り屋上で昼休みを過ごす腹積もりだった私に居場所を特定してきた悪魔が引っ付いてきたのである。
そして、何故か我が家の内部事情にやたらと詳しいのが悪魔の特徴である。もう、スパイとか、存在不明な国家の情報機関みたいなところでエージェントとして働けばいいと思うよ、うん。
ちなみに詳細は省くがその手段は実に巧妙であり、間抜けな私はことごとく引っかかって地獄をみていた。今のように。南無三。
「ねえちーちゃん、今度のレクリエーション楽しみだね!」
「レクリエー、ション……?」
なんだ、そのレム充が飛び上がって喜びそうなイベントは……。あ、説明しよう。レム充というのはハーレムが充実している奴らの、この世界特有の呼称である。私が命名した。
「クラス対抗のドッジボールだって。もしちーちゃんのクラスと当たったら一緒に外野でおしゃべりしてようよ」
「無理」
「えー」
コイツは、この悪魔はおしゃべりなんて可愛らしい表現で言いくるめようとしているようだが、私はもう騙されない。そう言って何度貞操の危機にあったか……。
ただでさえ世界に絶望してハイライトが消えかけてる目が、完全に闇の住人側になってしまう。
「むー」
「…………」
くっそ……! コイツが男でさえなければドストライクなのに……!
可愛らしい顔でむくれて不満を表現しているだろう確信犯を横目に見ながら、私は賢者タイムに入った。コイツ、オトコ、オンナ、チガウ。
◇◆◇◆◇
「クラスごとに並んでくださーい!」
ぞろぞろと、広々として肌寒いグラウンドに集合させられていた。私はと言えば、指示を出す先生の声を頼りに一年生の中をすり抜けるよう、真剣に通り抜けていく。
間違っても肩や腕など、身体機能の重要機関である一部分をもぶつけてはならない。何故なら――
「――きゃっ!」
「わあっごめんっ! 大丈夫?! 怪我しなかった……?」
「え、あ……だ、だいじょぶ、です――」
――とかなんとか。そういう感じの茶番がそこかしこでおっぱじめられてしまうからである。今ので遭遇したのが六件目。お前らは揃いも揃って生まれたての小鹿かっ! と問い質してやりたい。地に足つけて生きて。マジで。
「――っと、今、誰か当たったか?」
っぶねえええええ……!!
既に姿が小さくなった方角にはヤンキーっぽいやんちゃなあんちゃんが首を傾げてキョロキョロしていた。最近の若者はなんて軟弱な……と年寄り臭いこと考えていたせいか、勢い余ってぶつかってしまった。
人の振り見て我が振り直せとは言い得て妙である。まあ、私の足は雑草の如く力強く地に足ついてるので、二次被害は防がれたが。
こういう事故が起こり得るから油断などできはしない。まったく、冷や冷やさせられる……。ふぅ。
「それではレクリエーションについて説明を――」
なんやかんやで無事整列出来た一年生を前に、先生がレム充イベントの説明を開始した。長々と建て前の説明をおっしゃられていたが、私にはその真意が、裏が全て読めた。
つまるところ、レム充のさらなる充実を図りたい野獣どもはこぞってか弱い乙女にブラシーボ効果で詐欺を働け、そうすれば乙女はもたらされんとかなんとか、まあそんな感じのイベントだそうだ。
まったく。やってらんねーぜ、ちくしょーめが。
「……佐藤さん」
「…………」
「佐藤さん……」
「…………」
「佐藤千尋さん」
「……はい?」
なんか、どこからか覇気のない声が聞こえたが気のせいとしてスルーしていると、前に回り込まれた。これでは避けようがない。チッ。
フルネームでも呼ばれてしまっては誤魔化しようもなく……仕方がないので返事した。そして長めの前髪で片目を隠したうえ顔色悪く、隈が濃い目前の男子に目線を合わせた。
くっ……ヘビメタ好きな佐藤さんはいっぱい居るのに、絶望的に相性悪い佐藤さんにいったい何用だヴィジュアル系の少年よ。
「佐藤さん……背高いから……最初のキャッチ……お願いしてもいい……?」
「なるほど、分かりました」
なんだ、そんなことか。
警戒して緊張していたが、その理由ならまあ納得である。会話が続くと変なフラグが建ちそうなので早々に了承して前に出た。
有り難いことに、今世の私の身長は高1にして173cmとかなり高身長で、しかもまだ伸びているのである。男どもに見下される趣味は無いので本当に有り難い。
成長の遅い男どもはまだこの域に追いつけないようだ。ざまあないな!
――「はっ!」
――「たぁっ!」
――「おぉらっ!」
それからの私はというと、試合開始と同時に高身長を活かして執拗に野獣どもを狙い打ちしてやった。そしてことごとくが我が魔球に沈んでいった……まったくもって貧弱この上ない。
だが、こんな貧弱なやつらに我が美少女や美女たちが掻っ攫われていくんだと思うと、増々やるせない恨み憎しみが私の闘志を燃え上がらせた。二度と盛れなくしてやろうと、とある急所を特に狙ったのはまあ、ご愛敬である。
そんなこんなで決勝戦まで私の独壇場だった。間違ってもレム充どもの見せ場は作らせない。早々にご退場頂いた。
「それでは決勝戦を始めたいと思います。1組と10組はコートへ入ってください」
先生の一声により、ぞろぞろとグラウンドの試合コートに人が集まっていく。私の気分は最悪だ。
なぜって? そりゃあ、相手が我らが悪魔のクラスとあらば気分も落ち込むものである。まったくもって最悪だ。絶対途中で負けると思ってたのに、アイツ、調節しやがったな……。
「ちーちゃん、よろしくねっ?」
可愛らしく駆け寄ってきた、ポニーテールを利用した悪魔のあざとい仕草に男女ともに複数が試合前にやられたようだ。――衛生兵! 衛生兵! ただちに悪魔の病原菌を回収してくれっ……!
しかし私の願いもむなしく、感染者多数のまま試合が始まってしまう。不安だ。不安しかない。
そのまま開始の合図とともにボールを確保。あまりの身長差に相手も涙目であった。すまんな、ちびっこ少年。レム充に容赦はしない主義なんだ。
ボールをゲット出来なかった、と涙目で落ち込む少年の周囲を囲んで慰めるレム女たちを確認して嫉妬する。あいつは最初にボコす。
そんなこんなで試合が始まって早々に撃沈した少年はともかく、今までの流れから言えば、私の嫌悪感順に悪魔を真っ先に狙いに行っただろうと思ったかもしれない。
――だが、アイツはダメだ。
なんせ、昔から運動神経がずば抜けているのを知っている。しかも可愛らしく擬態して相手にその運動能力を悟らせない余裕まであるのだ。
簡単と見て狙ったが最後、速攻返り討ちである。私はそんな初歩的な愚は犯さない。悪魔は総スルーに限る。………て、――
――げぇっ! 悪魔がボールを手にした、だと……ッ!?
「あ、やったー!」
――そこからの惨劇はもう、悲惨であった。
ボールを手にした悪魔は早速とあざと可愛い仕草で周囲を騙し、次々とその毒牙にかけていった……。
しかも、「え? あれ? なんか当たっちゃった……なんでだろう?」と退場した誰をも疑問に思わせない手腕は見事の一言である。
そうして、双方の外野人数が内野人数を大幅に上回ったところでいよいよ私に狙いすましたのか、獲物を注意深く狙う肉食獣の悪魔と目が合った。
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