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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
アルマン
しおりを挟む――結局、リオンは婚約を受け入れた。
というのも、王室が必要以上に譲歩してきたために、外聞を考えて承諾せざるを得なくなってしまったのだ。断り切れず、済まなそうな顔のシークを睨みつつも、リオンは最終的に受け入れた。
リオンが受け入れると、トントン拍子で話は進み、顔合わせの日がやってきた。
「すまん。リオン」
「何回謝罪すれば気が済むのですか、父様」
「いや……すまん」
肩を縮こまらせて、シークは小さくなっていた。普段の豪快さはどこへやら。珍しいものを見た、とリオンは感心したほどであった。
今のリオンは着慣れないドレスで着飾り、広大な城内を婚約者に会うために馬車で移動している最中であった。
先導する騎士に続き、目的地に到着して馬車を降りると、先客が待っていた。
「おお! シーク! よくぞ来てくれた。ご令嬢のお噂はかねがね……」
シークと同年代と思われる貴族の男性が待っていた。リオンは父の知り合いかと理解し、道を開けた。が、シークが無表情であるのを見て驚くことになった。
「――おいてめぇ、アルマン。よくも俺の娘に手を出しやがって……」
ゆらり、そんな風に形容していいほど自然な動きでシークが腰の剣に手を掛けたのを、止める間もなくリオンは唖然と見送った。
「ああ、待て待て! 違う。私じゃあない。断じて違う! 私はむしろ、反対したのだから!」
「はあ? お前が推し進めたって聞いたが?」
「それはそうだ――待て待て待て。話を聞け!」
出遅れたが止めるべきだろうか、と身構えたリオンは、しかし二人の気安いやり取りを聞いてすぐに構えを解いた。どうやらシークの気安い友人らしい。
なんとかシークを宥めたアルマンと呼ばれた貴族男性は、乱れてしまったロマンスグレーの髪を後ろに流して整えると、改めてリオンに向き合い優雅な一礼を行った。
「――お初にお目に掛かる。現王フレイン・トール・エネストラの異母弟、アルマン・ロス・ベルヒブルクだ。一応、王領を与えられた名ばかりの公爵と、ついでにこの国の宰相なんてものを押し付けられている。いずれ家族になるのだから、気軽にアルマンおじ様とでも呼んでくれたまえ」
「嫌だね」
「……シーク。君に言ったわけではないのだが」
「知っとるわ!」
アルマン宰相――おじ様呼びはしっくりこなかった――が何か言う度にシークは突っかかった。最近はしゅんと落ち込んだ顔が多かったので勘違いしていたが、リオンが思っていたよりも余程、この婚約が気に入らないらしい。
実は相当、当事者のリオンに気を遣っていたのかもしれない。
「娘なんて、いずれどこぞの馬の骨にくれてやって手放すものだろうに……」
「ふん! 今回のことがなけりゃあ一生実家暮らしだったんだがな!」
「可哀想に。一生鳥籠に閉じ込められるところだったのかい」
「てめえ、アルマン! 変な言い方してんじゃねえ! サルバドの家訓は自由だろうが! むしろ領地外飛び回ってやってんじゃねえか! やめてやっていいんだぞ!?」
「君の時代まで脈々と家訓が途絶えていないことは明白だね。その調子でこれからも励みたまえ」
「チッ」
二人の怒涛のやり取りにリオンは目を白黒させるばかりであったが、一応の話はついたのか、ついにシークは仏頂面で黙った。それを確認したアルマン宰相は満足げに頷くとリオンへ視線をやり、リオンが何か反応する間もなく今回の婚約の真意について唐突に告げた。
「――お有難い天啓だよ、今回の婚約は」
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