アトランティス

たみえ

文字の大きさ
15 / 31
第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士

妹と婚約

しおりを挟む

 ひらひらと蝶々が舞う庭園の片隅、二つの閃光が迸り、激しい火花が散っていた。

「くっ、これはどうだ!」
「甘いですよ、シーク父様!」

 その二つの閃光ことシークとリオンは、今日も今日とて庭で鍛錬を積んでいた。

「うおっ!? 今のは危なかったぞ!」
「よく言いますよ! まだ余裕でしょう!」
「どうかなっ」

 そんな軽いやり取りをしつつも、二人の剣閃は幾筋もの後を空中に残し、軌跡を残していた。軽い会話からそう間を開けず、カキンッ、と硬質な音と共にとうとう剣が宙に舞った。

「……また、私の負けです」
「ガッハッハ! まだまだ俺は現役だからな!」
「そのようですね」

 調子の良い笑いを上げつつどかっと腰を地面に降ろしたシークを、じとっとした眼で見ながらリオンは呆れたように返事を返した。
 シークは建国の英雄を祖とする由緒正しい貴族のぼんぼんのはずであるが、その言動はどちらかといえば冒険者を生業とする荒くれもの達に近い部類であった。

 幼少の頃に引き取られたリオンは当時年齢不詳であったため、暫定的に6歳で引き取ったことになっていた。故に、本当の年齢は不明であるが、現在は当時から既に10年経っており、後継者教育を受けたリオンは16歳の立派なレディに成長していた。
 教育の中には戦闘に関する事柄も多く、シークの見抜いた通り素質のあったリオンはむくむくと上達していった。しかし、上達はしていったが、同時にある問題が生じていた。

「……どうして私の剣はすぐ折れてしまうのでしょう」

 リオンが剣を振れば、数合立ち合っただけでどんな名剣も耐えきれずに折れてしまっていた。力加減が出来ないわけではない。そこらへんの枝と名剣、同じ力で軽く振ったとて同じ結果になるのだ。他に要因があるとしか思えない。
 格闘術も出来るため、剣が無くても不便はないが、代々英雄騎士と謳われる家系の後継者としては、いささか見栄えが悪いのであった。
 そんなリオンを静かに見ていたシークは、おもむろに立ち上がり、真剣な顔で口を開いた。

「――お前が剣だからだ」
「私が、剣……? どういう――」

 ――意味か。そう問おうとしたリオンは、シークのいつになく真剣な顔に浮かぶ、それが答えだ、それ以上でも以下でもない、とでも言わんばかりの表情を見て言葉を続けることが出来なかった。

「――お父様ぁ! お姉様ぁ!」
「おお! メア! どうした? 今日は調子が良さそうだな」

 タイミングよく割り込んできた幼い声に、リオンは愛好を崩した。ほんわかと優しい桃色の髪と黄金の瞳を持つ妹のメアであった。シークは真っ赤に燃え盛る髪と黄金の瞳を持つが、威圧的な雰囲気が遺伝しなくて良かったと失礼なことをリオンは考えていた。
 ちなみに、リオンは金色の髪に、薄氷の瞳を持つ美少年に成長していたが、特に自らの容姿に思うことはなかった。唯一あるとすれば、もう少し似た色合いであったら嬉しかった程度である。

「今日はね、えーっとね、――ごほっごほっ!」
「こらこら、興奮するな。身体に障るだろう? ほら、父様が部屋まで抱っこしていってやろう」
「ごほっ、……ぇえー、やだぁ……」
「駄々を捏ねるな、駄々を」

 ここまで走ってきたせいで息が苦しくなったのか、顔を顰めて咳き込んだメアに、すぐさまシークが気付いて回収した。待望の実子であるメアは、母親のエミリーに似て病弱であった。
 エミリーはメアを産むと、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。

 出産はちょうど、リオンが引き取られて直ぐの頃であった。妊娠出産を諦めていたエミリーがリオンが来てくれたお陰で授かったのだと、幸せそうに頭を撫でてくれた記憶はまだ鮮明に覚えていた。
 両親を知らないリオンにとってシークは勿論、エミリーは血のつながりが無くとも最愛の親であった。生粋の貴族なら忌避しても仕方なかっただろうリオンを受け入れてくれたエミリーには感謝しかない。
 故に、メアのことは何があっても守ろうとリオンは勝手に誓っていた。の、だが――

「……王太子との婚約話が出ている」
「……はい?」

 それは、リオンにとって青天の霹靂であった。

「それは、誰と誰の、でしょうか……」

 夜、話があるとシークの執務室に呼ばれたリオンは、とんでもないことを聞かされていた。

「……王室とサルバド家の、だ」
「しかし、メアは……」
「……先方はお前が良いらしい」
「王室はサルバド家を断絶させる気ですか!」

 現在、実子のメアと養子のリオンしかいないサルバド家には、スペアなど存在しない。そもそも、最初はリオンが跡を継ぐ際に遠い親戚から婿を迎え入れる手筈になっていた。そしてメアが生まれた際も虚弱な体質であることを鑑み、リオンが継ぐことは本決まりであった。
 故に、もしリオンが嫁に出されてしまえば、残るは虚弱な妹のメアのみ。激務であるサルバド家当主として君臨し、あまつさえ仕事と出産を両立するには身体機能に不安があり過ぎた。
 元々、血縁の近い分家の無いサルバド家に、他所に嫁を出す余裕など皆無なのだ。

「分からん」
「わ、分からないって」

 当主としてサルバド家をメアの代わりに継ぎ、可能であれば将来はメアの子を跡継ぎに据えようと考えていたリオンにとって、全く考えた事の無い未来であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...