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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
シーク・サルバドの生涯:前編
しおりを挟む「シーク卿の活躍により、今回の戦は早期に収束へと向かった。ご苦労、我が剣よ」
「――はっ」
今回の戦争は実にあっさりした終わりであった。シーク無双貫徹である。もう四十を超えるシークであるが、サルバド家初代の再来とまで言われる実力は健在であった。
リオンは、周囲で賞賛の声を上げて祝う貴族の声を後目に、久々に見たシークの顔色が悪いことに気づいた。何度か精神的に参っている様子を見たことはあったが、その顔色の悪さはとても精神的なものだけだったとは思えなかった。
「――シーク父様! 何があったんですか!?」
「まずはおかえりなさい、だろうが」
謁見の後、サルバド家に帰り着くまで我慢していたリオンの鬼気迫る勢いの問いに、苦笑しながらシークが淡々と言う。その声の覇気が弱々しいことに気付いて、思ったよりも酷い状況かもしれないとリオンは青褪めた。
「と、とうさま、とりあえずからだを……身体を休めないと……」
「そんな顔するな」
引き取られて幼少より、己の心を整えるよう教えられてきたリオンがここまで取り乱すことは滅多になかった。――サルバド家のこと以外では。
涙目で顔を青褪めるリオンを苦笑して見ていたシークは、その大きなゴツゴツとした手をリオンの頭にそっと置いた。久々に撫でられた頭は、いつも以上に弱々しく、余計にリオンの動揺を冗長した。
「……話がある。聞いてくれるか?」
「――はい」
――シーク・サルバドは、才能ある少年であった。
その剣はサルバド家から教えられたわけでもなく、自らの才能によって会得した希有なものであった。その剣先は地を切り裂き、一振りで雲を割ったという。齢六にして、初代の再来、天才だという呼び声が高かったそうな。
同年代は勿論、歴戦の騎士も相手にならなかった。
そうして成人の15歳まで挫折を知らずに傲慢に成長したシーク少年は、初めて本気の殺し合いを経験した。
紛争地帯で出会った相手は、傭兵崩れの盗賊紛い。本来であればシーク少年の相手にもならない素人であった。だが、結果的にシーク少年は瀕死の重傷を負うこととなった。
何故か。相手が死に際に呪いを放ったからである。油断していたシーク少年はこれをもろに受けて、一時的に仮死状態にまで陥った。
呪い自体は大したものではなかった。
ただ、シーク少年にとっては致命的な効果をもたらす呪い――後遺症の病気であったが。
呪いの効果は単純で、剣を握れなくなる、というものであった。おそらく、本来の呪いの効果は武器を壊すというものだったが、武器を壊したとて、武器が小枝に変わっても圧倒的に強かったシーク少年には無意味な効果であった。故に効果は変化し、握れなくする無力化へと変わったのだと推測された。
シーク少年は絶望した。今まで築き上げた全てが一瞬にして脆くも崩れ去ったのである。
今まで碌な態度でいなかったシーク少年に対して、周囲はここぞとばかりに天罰だ、いい気味だ、と嘲笑をしたという。味方は誰も居なかった。――エミリーに出会うまでは。
エミリーとの出会いは、シークが二十歳を超えようかという時期で、場末の酒場でやさぐれ、飲んだくれているところを思いっきり頬を引っ叩かれたところからであった。
その後の第一声が「私の憧れた、好きだった英雄は、こんな酒場で死んだように生きるためにいるんじゃない! 目を覚ましなさい! 剣が握れないというのが何だって言うの! 身一つで世界の一つを救うくらいの気概は無いの!? この弱虫!」だったそうだ。ちなみに直後に母様は過呼吸で倒れたらしい。当時のシークは母様の色々な意味の奇襲に度肝を抜かれたようだが、今穏やかに語っているシークは懐かしそうに微笑を浮かべていた。
今もシークは思い出せないそうだが、母様談によると、まだ傲慢になる前の純粋で幼い頃にエミリーを窮地から助けたことがあったそうで、母様は父様に一目惚れだったらしい。余命を宣告されていたにも関わらず、その出会いを支えに、やっと病弱にまで回復し、シーク父様に会いに来たのだそうだ。……母様らしい。
そんなこんなで「すぐ倒れる病弱な女にここまで言われて動かなきゃあ男が廃る!」と謎にやる気を出した父様は、剣術ではなく、それ以外の武器に手を出した。結果は惨敗。尽くダメだったらしい。
――では、何故、今は剣が握れているのか。
「治ってないんだ――呪いの効果は今も健在だ」
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