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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
シーク・サルバドの生涯:中編
しおりを挟む「で、は、何故、……何故ッ! 剣を! そのせいで父様の体調が――」
「勘違いするな。別に呪いのせいでこんな弱ってるわけじゃねぇ。黙って最後まで話を聞け」
「ぐ……」
リオンは膝の上に置いた両拳を強く握った。――シークが認めた。弱っていることを。
その顔色は謁見の間より一層、悪くなっているように見えた。
「どこまで話したか……ああ、そうだ。なんで剣を握れるようになったか、だったな」
どんな武器を試しても尽く失敗していたシークは、武器に頼ることを諦めた。そして、格闘術、体術といった技術を極めることにしたそうだ。
結果は上々。武器を握れずとも、その武名はまたしても瞬く間に轟いたそうだ。そうして武名を引っ提げて、父様は母様へプロポーズしたらしい。
サルバド家次期当主として立ち直ったシーク父様に、前当主は母様へ大層感謝した。酷い時期もあったが、これからは幸せな時期になるとシークは思っていた。
――だが、そう長く幸せは続かなかった。
各地で知恵ある魔物が大量発生し、その対応に追われることとなった。サルバド家は歴史ある武の家門。国の要請により本家や分家、主力な親族は各地へと散らばり、魔物討伐戦へとその身を投じた。新婚であったシークもこれに加わり、八面六臂の大活躍であったらしい。
しかし当時、シークが生まれるまで国家最強と謳われたサルバド家当主でさえ、剣を握っていないシークに実力が及ぶ存在ではなかった。分家や親族もしかり。
次第に、何度撃退しても湧いてくる魔物の群れに押され、一人、また一人と志半ばで膝を折ったらしい。サルバド家に連なる者とその他での現実的な実力差もあり、個人で派遣されていた者が多かったのだが、魔物の異常な量に圧されたのだ。
だが、当主までもが帰らぬ者となり、とうとうサルバド家の血縁がシーク一人だけになっても、派遣要請が止められることは無かった。国も手が回らない状況であったからだ。
シークは最後の一人、国の希望になった。
休む間もなく各地を飛び回り、どこからともなく湧いてくる魔物を倒し続けた。――そして、見つけた。
「――お前をな」
シークは驚いたらしい。リオンが倒したのは死骸から見ても智恵ある魔物のリーダー格の個体であった。しかも、その身体には傷一つとして無かった。圧倒的な実力で一撃で倒したとしか思えない。
シークは最初、本当は本気で養子に引き取るつもりではなかったそうだ。初耳である。
「……サルバド家の歴史は、俺で終わりだと思ってた。実際にはお前と、メアの二人がまだ生き残っているわけだが……」
栄華を極め、名声を轟かせたのも今は昔。今のサルバド家はいずれ滅びゆく家。武名などが簡単に轟くような世の中でなければ、存在意義の無い家系だったと、シークは寂しそうに笑った。
だが、シークはふと気付いた。自身の身体の変化に。
「リオンを家に連れ帰ってる時だったな、ありゃあ確か」
シークは帰途の間、一度も魔物に出会わなかったらしい。
そして家に帰り着いた時、すぐに城から緊急事態だと呼び出されたシークは急いで登城し、とんでもないことを言われたらしい。
「……俺が帰ってる途中、一斉に各地から魔物被害激減の報せが届いたそうだ」
シークはそれを聞いて膝から崩れ落ち、泣いたらしい。
数々の犠牲によりやっと、平穏が訪れたのだと。血縁の死は無駄ではなかったのだと。
そして、同時にある奇妙なことに気付いた。……ここまで言われればリオンも察した。
「……もともと、シーク父様が魔物を根絶やしにするかの如く、数多く葬ったおかげなのでは」
「さあな。実際、そうだったのかもしれん。それは俺でも実際のことは分からん。……ただ事実として、その報せはリオンと出会った時期と重なった。だから俺は運命だと感じて養子に迎えたんだ」
リオンを養子に迎えたシークは、素質のあるリオンの為に剣術の稽古をどうするか迷ったらしい。自身は武器という武器が握れず、あまつさえそれ以前に独学で会得していたため、正統なサルバド家の剣術を習った訳でもない。そんなシークが口頭で全てを教えるには難易度が高すぎた。
だが、またしても奇妙な、奇跡とも思える事態が発覚した。
「まさか……」
「……そうだ。俺はお前の近くなら剣を、武器を握れたんだ」
シークも理由は今でも分かっていないそうだ。ただ、事実として握れたため、今までリオンに悟られることなく剣術などを教えられたらしい。
――では、今回の開戦では丸腰も同然で挑んだのではないか。リオンはすぐにその答えに辿り着いた。しかし、それを否定するようにシークは苦笑を深くした。
「だから、勘違いすんなって。……これは武器云々の話じゃない」
「では、一体戦場で何があったというのですか!」
「戦場じゃない」
「え?」
「戦場じゃないんだよ……」
戦場ではないのなら、一体何故、ここまでシークの顔色が悪いのか。段々と血の気が失せていく顔色は何かのカウントダウンのようで、刻々と何かが近付いている恐怖をリオンにもたらしていた。
そして、シークはリオンが問い詰め、しかし最も聞きたくなかった答えを弱々しく吐き出した。
「――天命だ」
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