アトランティス

たみえ

文字の大きさ
21 / 31
第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士

シーク・サルバドの生涯:中編

しおりを挟む

「で、は、何故、……何故ッ! 剣を! そのせいで父様の体調が――」
「勘違いするな。別に呪いのせいでこんな弱ってるわけじゃねぇ。黙って最後まで話を聞け」
「ぐ……」

 リオンは膝の上に置いた両拳を強く握った。――シークが認めた。弱っていることを。
 その顔色は謁見の間より一層、悪くなっているように見えた。

「どこまで話したか……ああ、そうだ。なんで剣を握れるようになったか、だったな」

 どんな武器を試しても尽く失敗していたシークは、武器に頼ることを諦めた。そして、格闘術、体術といった技術を極めることにしたそうだ。
 結果は上々。武器を握れずとも、その武名はまたしても瞬く間に轟いたそうだ。そうして武名を引っ提げて、父様は母様へプロポーズしたらしい。

 サルバド家次期当主として立ち直ったシーク父様に、前当主は母様へ大層感謝した。酷い時期もあったが、これからは幸せな時期になるとシークは思っていた。
 ――だが、そう長く幸せは続かなかった。

 各地で知恵ある魔物が大量発生し、その対応に追われることとなった。サルバド家は歴史ある武の家門。国の要請により本家や分家、主力な親族は各地へと散らばり、魔物討伐戦へとその身を投じた。新婚であったシークもこれに加わり、八面六臂の大活躍であったらしい。
 しかし当時、シークが生まれるまで国家最強と謳われたサルバド家当主でさえ、剣を握っていないシークに実力が及ぶ存在ではなかった。分家や親族もしかり。

 次第に、何度撃退しても湧いてくる魔物の群れに押され、一人、また一人と志半ばで膝を折ったらしい。サルバド家に連なる者とその他での現実的な実力差もあり、個人で派遣されていた者が多かったのだが、魔物の異常な量に圧されたのだ。
 だが、当主までもが帰らぬ者となり、とうとうサルバド家の血縁がシーク一人だけになっても、派遣要請が止められることは無かった。国も手が回らない状況であったからだ。

 シークは最後の一人、国の希望になった。

 休む間もなく各地を飛び回り、どこからともなく湧いてくる魔物を倒し続けた。――そして、見つけた。

「――お前をな」

 シークは驚いたらしい。リオンが倒したのは死骸から見ても智恵ある魔物のリーダー格の個体であった。しかも、その身体には傷一つとして無かった。圧倒的な実力で一撃で倒したとしか思えない。
 シークは最初、本当は本気で養子に引き取るつもりではなかったそうだ。初耳である。

「……サルバド家の歴史は、俺で終わりだと思ってた。実際にはお前と、メアの二人がまだ生き残っているわけだが……」

 栄華を極め、名声を轟かせたのも今は昔。今のサルバド家はいずれ滅びゆく家。武名などが簡単に轟くような世の中でなければ、存在意義の無い家系だったと、シークは寂しそうに笑った。
 だが、シークはふと気付いた。自身の身体の変化に。

「リオンを家に連れ帰ってる時だったな、ありゃあ確か」

 シークは帰途の間、一度も魔物に出会わなかったらしい。
 そして家に帰り着いた時、すぐに城から緊急事態だと呼び出されたシークは急いで登城し、とんでもないことを言われたらしい。

「……俺が帰ってる途中、一斉に各地から魔物被害激減の報せが届いたそうだ」

 シークはそれを聞いて膝から崩れ落ち、泣いたらしい。
 数々の犠牲によりやっと、平穏が訪れたのだと。血縁の死は無駄ではなかったのだと。
 そして、同時にある奇妙なことに気付いた。……ここまで言われればリオンも察した。

「……もともと、シーク父様が魔物を根絶やしにするかの如く、数多く葬ったおかげなのでは」
「さあな。実際、そうだったのかもしれん。それは俺でも実際のことは分からん。……ただ事実として、その報せはリオンと出会った時期と重なった。だから俺は運命だと感じて養子に迎えたんだ」

 リオンを養子に迎えたシークは、素質のあるリオンの為に剣術の稽古をどうするか迷ったらしい。自身は武器という武器が握れず、あまつさえそれ以前に独学で会得していたため、正統なサルバド家の剣術を習った訳でもない。そんなシークが口頭で全てを教えるには難易度が高すぎた。
 だが、またしても奇妙な、奇跡とも思える事態が発覚した。

「まさか……」
「……そうだ。俺はお前の近くなら剣を、武器を握れたんだ」

 シークも理由は今でも分かっていないそうだ。ただ、事実として握れたため、今までリオンに悟られることなく剣術などを教えられたらしい。
 ――では、今回の開戦では丸腰も同然で挑んだのではないか。リオンはすぐにその答えに辿り着いた。しかし、それを否定するようにシークは苦笑を深くした。

「だから、勘違いすんなって。……これは武器云々の話じゃない」
「では、一体戦場で何があったというのですか!」
「戦場じゃない」
「え?」
「戦場じゃないんだよ……」

 戦場ではないのなら、一体何故、ここまでシークの顔色が悪いのか。段々と血の気が失せていく顔色は何かのカウントダウンのようで、刻々と何かが近付いている恐怖をリオンにもたらしていた。
 そして、シークはリオンが問い詰め、しかし最も聞きたくなかった答えを弱々しく吐き出した。

「――天命だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...