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序章
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「たとえばね、」と、目の前の男は言った。
わたしは男の、バンドのベース気取りみたいな真っ赤なロン毛を胡乱に見た。
真っ赤な男が目くばせすると、華奢な女の人がやってきて、机の上に二種類の箱を置いていった。
促されて開けてみれば、一つは、一口チョコの詰め合わせ。もう一つもチョコだけど、女の人の名前を冠した有名なブランドのやつ。
――でも、ふつうにチョコじゃん?
ジト目で見かえすと、男は得意げに笑って話し出した。
「ここに二種類のチョコがあるよね。一つはリーズナブルだけどプレゼントに向かないやつ。もう一つはプレゼントにはいいけど、毎日食べるには向かないやつ。でも、おおきな区分で言うと、これらはチョコだね?」
何の話だよ、と思ったけど「ウン」と頷く。
「二つとも、同じチョコだよね。でも君、たとえばAさんて人がいるとして、どっちかプレゼントしてくれるとしよう。一つは君に、もう一つは僕に。君がもらったほうが安価なチョコだったら、どう思う? 差をつけられたと思わないかい」
――うっ、それはちょっと思うかも……。
「でしょう。君が感じた「差」が、そのままチョコのレベルの違いということだよ。じゃ、次」
男は、詰め合わせの箱を手に取ると、勢いよく逆さにした。机の上に、とりどりの包装紙に包まれた一口チョコが 散乱する。
真っ赤なグローブを嵌めた手で、無造作にチョコを混ぜ合わせると、一掴みわたしに差し出した。
反射的に手を出すと、手の中に赤とか緑とかのチョコが五つ、乗っけられる。
「じゃ、今度は君に五つ。同じのを僕にも五つだ。差はないよね?」
わたしが頷くと、男もまた満足そうに頷いた。
「だよね。あ、そうだ。僕緑がないから、君の一つ頂戴。かわりに紫、あげる」
別にそんくらいなら、と思ったので、交換した。緑がなくなって、手の中にやってきた紫をなんとなく見ていると、男が静かな声で問うてくる。
「交換したね。ねえ、なんで交換してくれたのかな?」
いや、あんたが替えてって言ったからじゃん?と思ったけど、その声はなぜか妙な気迫があって、うろたえて答える。
――だって、まあ同じチョコだしいっかって思って。
その瞬間、男は大きく噴出した!
「だよねえ! 同じチョコだもの、ちょっと入れ替わったって構わないよね!」
両手をバンバンたたいて、ひいひい言って笑っている。あっけにとられて見ていると、男は目じりに浮かんだ涙を拭いながら、にんまりと笑った。
「じゃあ、細かいことは気にしない藤間光さん。ほかのフジマヒカリの替わりに、君が死んでくれるってことでいいよね?」
わたしは、ハッとなって立ち上がった。その反動で、お腹に刺さっていたナイフが、ブランと揺れる。
真っ赤に濡れたグリップから、ばたばた落ちたわたしの血が、高そうな絨毯をあっちこっち汚した。
ああ、そうだ、そうだった!
変な話でごまかされるとこだったけど、わたし、死にかけてるんだった!!!
わたしは、男の眉間を射抜く勢いで、人差し指を突きつけると、おもいっきり叫んだ。
「全っっ然いいわけないでしょ!!!!!!!!!!」
わたしは男の、バンドのベース気取りみたいな真っ赤なロン毛を胡乱に見た。
真っ赤な男が目くばせすると、華奢な女の人がやってきて、机の上に二種類の箱を置いていった。
促されて開けてみれば、一つは、一口チョコの詰め合わせ。もう一つもチョコだけど、女の人の名前を冠した有名なブランドのやつ。
――でも、ふつうにチョコじゃん?
ジト目で見かえすと、男は得意げに笑って話し出した。
「ここに二種類のチョコがあるよね。一つはリーズナブルだけどプレゼントに向かないやつ。もう一つはプレゼントにはいいけど、毎日食べるには向かないやつ。でも、おおきな区分で言うと、これらはチョコだね?」
何の話だよ、と思ったけど「ウン」と頷く。
「二つとも、同じチョコだよね。でも君、たとえばAさんて人がいるとして、どっちかプレゼントしてくれるとしよう。一つは君に、もう一つは僕に。君がもらったほうが安価なチョコだったら、どう思う? 差をつけられたと思わないかい」
――うっ、それはちょっと思うかも……。
「でしょう。君が感じた「差」が、そのままチョコのレベルの違いということだよ。じゃ、次」
男は、詰め合わせの箱を手に取ると、勢いよく逆さにした。机の上に、とりどりの包装紙に包まれた一口チョコが 散乱する。
真っ赤なグローブを嵌めた手で、無造作にチョコを混ぜ合わせると、一掴みわたしに差し出した。
反射的に手を出すと、手の中に赤とか緑とかのチョコが五つ、乗っけられる。
「じゃ、今度は君に五つ。同じのを僕にも五つだ。差はないよね?」
わたしが頷くと、男もまた満足そうに頷いた。
「だよね。あ、そうだ。僕緑がないから、君の一つ頂戴。かわりに紫、あげる」
別にそんくらいなら、と思ったので、交換した。緑がなくなって、手の中にやってきた紫をなんとなく見ていると、男が静かな声で問うてくる。
「交換したね。ねえ、なんで交換してくれたのかな?」
いや、あんたが替えてって言ったからじゃん?と思ったけど、その声はなぜか妙な気迫があって、うろたえて答える。
――だって、まあ同じチョコだしいっかって思って。
その瞬間、男は大きく噴出した!
「だよねえ! 同じチョコだもの、ちょっと入れ替わったって構わないよね!」
両手をバンバンたたいて、ひいひい言って笑っている。あっけにとられて見ていると、男は目じりに浮かんだ涙を拭いながら、にんまりと笑った。
「じゃあ、細かいことは気にしない藤間光さん。ほかのフジマヒカリの替わりに、君が死んでくれるってことでいいよね?」
わたしは、ハッとなって立ち上がった。その反動で、お腹に刺さっていたナイフが、ブランと揺れる。
真っ赤に濡れたグリップから、ばたばた落ちたわたしの血が、高そうな絨毯をあっちこっち汚した。
ああ、そうだ、そうだった!
変な話でごまかされるとこだったけど、わたし、死にかけてるんだった!!!
わたしは、男の眉間を射抜く勢いで、人差し指を突きつけると、おもいっきり叫んだ。
「全っっ然いいわけないでしょ!!!!!!!!!!」
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