一度目の人生を理不尽な婚約破棄と断罪で奪われた公爵令嬢

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

文字の大きさ
8 / 34

8.義理の弟から嫌われるよう頑張ります!

しおりを挟む
「アイリーン、ケガはもう大丈夫なのかい?」

お父様が心配そうにおっしゃった。でも、元々ケガはかすり傷程度で大したことなかったので、正直暇を持て余しているような状態だった。とはいえ、こうやって心配してくれる優しいお父様には感謝しかないのだけど。

「はい。もう大丈夫です! 元々かすり傷なんですから。心配しすぎですわよ、お父様!」

「娘がかどわかされて心配しない父親がいたら見てみたいものだね」

「あ、あははー」

私は焦りながら、笑ってごまかした。もちろん、さらった犯人たちが悪いのだが、貴族令嬢なのだからもっと身辺《しんぺん》には気を付けるべきだという暗黙の指摘を受けて、それについてはごもっともです……、といったところなのだ。

しかも、どうやら自覚はなかったのだけど、私は街中にいると嫌に目立つらしいのよね。やはり貴族だからだろうか。服装は一見華美には見えないものを着用している(でも実際はお父様が職人に仕立てさせた一流品なのだけど……)から、理由はよく分からないのだけども……。

「ともかく、今後は気を付けます」

「ぜひ、そうしておくれ。ああそれで、今日呼んだのは一つお願いごとがあってね」

お願い事? 私は首を傾げる。お父様が私にお願いだなんて珍しい。もちろん、どんなお願い事でも、ほかならぬお父様の依頼なら御受けするつもり……

「実はバスクが午後から来るらしい。少し相手をしてあげてくれないか?」

「……」

「アイリーン?」

「忘れてた!!!!!!」

「うわっ⁉」

私は突然大声を上げてしまい、お父様は驚かれた。

「い、いきなりどうしたんだい?」

お父様はずり落ちかけた椅子に座り直しながら、続きを話す。

「義理の弟のバスクが来るのがそんなに驚くことだったのかい? もちろん、午後というのは少し急だったかもしれないね。何せ久しぶりの再会だ」

「お、おほほほ。すみません。お父様。そうなんです。久しぶりだったので、驚いたのですわ。とても嬉しいです」

「そうかそうか。アイリーンならそう言ってくれると思っていたよ。父さんは大事な会議があってね、すまないが頼んだよ」

私は一生懸命微、笑みを顔面に貼り付けたまま、書斎を後にしたのだった。

そして、自室に帰ってから、

「第3の裏切り者! 許すまじ!!」

と叫んだのであった。




さて、私がそんな風に叫んだのには訳がある。そう、心変わりして私を裏切った男のうちの一人が、実はこの義弟のバスクなのである。

バスクは元々、お父様の親友の子爵令息だったのだけど、その子爵様と奥様が急逝してしまった。まだ10歳だったバスクの他には跡取りもいなかったため、一旦、お父様のご温情で、公爵家の養子として引き取ったのである。ただ、それは一時の処置というのが実態で、公爵家で領地経営の方法や武芸の訓練、社交のマナーなどを一通り学んだ後、子爵家へ再び戻り家督を継ぎ、領地を経営をする予定であった。

よって、今はかりそめの姉弟関係であり、彼は義弟ということになる。また、普段は子爵領にいて、公爵家から派遣された教育係の手を借りながら、領地経営を学んでいるのだ。

そんなバスクは最初の頃は人見知りな性格で、なかなか打ち解けられなかったのだが、私たち家族が何度も粘り強く接しているうちに、次第に打ち解けて本当の家族の様になれたのだ。

そして、前世では、無事にバスク子爵として、公爵家から離れた後に、私のことをこっそりとだが「ずっと好きだった」と告白してきたのである。もちろん、既に王太子殿下と婚約関係にあった私にはその愛を受け入れることは出来なかったし、それはバスクも分かっていた。バスクはそれでも「思うだけなら自由」と言って、秘めた思いをずっと心にとどめておくことを誓ったのだった。

それが前回のルートだったわけだけど……、

「永遠の愛とか誓っておきながら、心変わりしてるし! 絶対許すまじ!!!!」

いや、もちろん振ったから、浮気とかではないけど、あれだけ私に愛を囁いていながら、ミーナリア=スフィア子爵令嬢になびいて、私を異国の地へ追放することに賛同したのだから、信じられない!

よって、答えは簡単。

キース王太子殿下やクライブ副騎士団長と同じく、絶対に私を好きにならないように振る舞う! ていうか嫌われるようにしよう! 前回のルートでは何くれと世話を焼き、優しくしてしまった。それをやめて、いやむしろ嫌われるようにすれば、私を好きになることもなく、よって裏切られることもなく、死亡ルート回避につながる! 私の本当の自分の人生を取り戻すためにも、この対応は必要不可欠だ!

「よーし、一生懸命、嫌われるぞ、おー!!」

私は自室で拳を天高くつきあげたのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

処理中です...