一度目の人生を理不尽な婚約破棄と断罪で奪われた公爵令嬢

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

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20.早速トラブルです!

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「いらっしゃいませー!」

カランカラン、とお客さんが入ってきます。単価は結構高めにしていますので、客層は結構上品な方が多いです。多分貴族の子弟かな? と言う方などもチラホラ。

今、王国は大変な好景気ですので、価格は高めでも問題ありません。また、価格が低すぎると、クレーマー気質のお客様が多くなって、逆に管理コストがかさむことも想定されました。この辺りは、やはり一番頼りになる(なんといっても公爵領を運営している)お父様の知恵なども素直に聞きながら、経営戦略を決めてきたのです。まぁ、こういうことを言うと、人に頼るなとおっしゃる方もいるのですが、私の感覚としては、自分一人で出来ることには限界があるんですよねー……。だから、自分で全部する必要はなくて、むしろ、しないほうがよくて、頼るべき部分は頼る。意見を聞くべき所は素直に聞いて戦略に生かす。とまぁ、そういう柔軟さも経営者には必要だと思っているのでした!(だから私も現場に出てるわけです!)

と、そんな考えをお父様に素直に伝えますと、

「もう婿むこを取ったほうが公爵領は安泰な気がしてきたなぁ」

と何やらぼそっとおっしゃっていましたが、どういう意味でしょうか? 以前は養子を取ることを考えていらっしゃったように伺っていましたが……?

まぁ、ともかく! まだ始まったところではありますが、席数はまぁまぁ埋まっていますし、あとは口コミで広まるのを待つことにしましょう! もちろん、宣伝に費用をかけるのもありなのですが、わざわざこの一等地にお店を構えるということ自体が、自然と広告になるんですよねー。だから、広告費を削ることもありかなと判断したのです。そして、そうすれば、とにかくランニングコストがグッと下がるので、倒産の可能性がかなり減るのです!

とはいえ、この辺りはまだ開店したてなのですから、よく経営状況を見ながら考えるとしましょう……。期待したほど一等地にお店を構えたことによる口コミ効果が無ければ、戦略を考え直すことも視野に入れないといけなくなりますからね。

そのあたりはどうしても出たとこ勝負です! でも、それが楽しい! こういうことを自分で考えて、自由に経営が出来るなんて夢のようです! まさに我が城! と言う感じですね!

さてさて、というわけで、私たちは注文に応じて軽食を提供していきます。なかなか忙しいですが、楽しいです。そして、幸いなことに大きなトラブルもなく、繁忙時間であるお昼を終えることが出来ました。

少し時間が出来たので休憩していたウェイトレスの三人、ミシェル、ベラ、キャロルが話しているのを小耳にはさみます。

「もっとトラブルもあるかと思ったけど、大丈夫でしたね」

「客層がとにかくいいよ。変なクレーマーもいないし、料理の質は担保できてるから味への注文クレームもない。金払いもすごくスムーズだしね。他の店だともっと大変だったりするからね。最初は、価格が高すぎるかと思ったけど、逆に落ち着いた雰囲気のカフェとして重宝がられるんじゃないかなあ? 最近は結構価格競争が激しいから、上流階級のお客さんが気軽に来られる静かなカフェって、この辺りなかったじゃない?」

「おおー! さすがオーナーはそこまで考えているんですね! はわわ! 私もその権謀術数を見習わなくっちゃ!」

「それを言うなら深謀遠慮では?」

「まぁ、いいお店だよここは。流行るんじゃないかな?」

と、そんな会話をしていた。

よしよしよしよしよし!

私は内心でガッツポーズをとる。狙い通り良い客層をつかまえられてるみたいね。目抜き通りでカフェとなると競合が多いので、価格帯や雰囲気でユニークさを出したのだ。それが狙い通り奏功《そうこう》してるみたいね。

「良かった~♪」

私は胸を撫で下ろした。

だが、そう安心した瞬間であった。

「おい! なんだこのワインは!!」

ホールから怒号が飛んできたのである。

あらー……。ま、そう全てうまく行きませんよねー。

ミシェルたちが血相を変えて飛び出していったので、私も後を追ったのだった。





「どうされましたでしょうか、お客様?」

怒鳴った客は頭の禿げあがった男の人で、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。それに冷静沈着、眼鏡がよく似合う知的な美少女ミシェルが対応してくれている。

身なりとしては普通だ。割と高級なこのカフェでは珍しい出《い》で立《た》ちには入る。

「どうしたもこうしたもない! 見ろ、このワインを!」

その男が言った。

「ワイングラスにコルク片が入っているじゃないか! まったく、つまらないミスをしおって! 気分が台無しだ!!」

「これは失礼しました。すぐに取り替えを……」

「うるさい! 俺は気分を害したと言ったのだ! 店長を呼ばんか! そして謝罪させろ、今すぐにだ!」

おおー!

私は感動していた。

これがクレーマーと言う奴か。確かにワイングラスにコルク片が入っていれば、本来お店側の瑕疵《かし》に当たるのだから、お詫びするのは当然だ。

というわけで、私を呼んでいいのか判断がつきかねているミシェルに声をかけながら、私がこのお客さんの対応をすることにした。

「失礼しました。お客様。ワイングラスにコルク片が入っていた、ということで宜しかったでしょうか?」

「そうだ! なんだ、お前が店長か? ふん、ずいぶん若い小娘だなぁ。美人だからって調子にのってるんじゃないぞ! 普通にワインも出せないこんな店に価値なんてないんだからな!」

ふむ、この客は……なるほど。何となく察しがついた。ま、それはいいとして、

「お客様、それほど大きな声を出されますと、他のお客様に迷惑ですので」

「なんだと! こんなワインを提供しておいて、よくそんな口がきけたものだな! この店は接客の常識も持ってないのか!」

「これは失礼しました。ですが、お客様。そろそろ、そのうるさい口を閉じた方が身のためだと思いますよ?」

「な、なに?」

「オ、オーナー?」

いきなり私の口調が変わったので、お客様と、ミシェルもちょっとギョッとした表情になった。公爵令嬢などをやっていれば、微笑みで相手を威圧する術だって覚えてしまうものだ。

「お客様。そちらのワインですが、確かにコルク片が入っていたのですね?」

「そ、そうだ! だから俺は怒って……」

そんなことは・・・・・・ありえません・・・・・・

私は断言する。なぜなら、

「当店はお客様に最も新鮮なワインを提供することを旨としています。だから、ワインの提供方法にこだわりがあります。何せ樽出しですから」

「なっ⁉」

「あっ、そう言えばそうでした」

ミシェルが思い出したとばかりに呟く。まぁ、いきなりクレームが来たら冷静な判断は難しいよね。

「つまり、コルクはそもそも使っていません。ワインボトルに封をする必要がないのだから当然ですね? では、そうすると一つ疑問が湧きます。分かりますか?」

先ほどまでの真っ赤な形相はどこへ行ったのか、もはや顔面蒼白の禿頭《はげあたま》の男へ私は言った。

「そのコルクは誰が入れたのか、ということです。お客様、ご存じなのではありませんか? もし宜しければ、あなたの手持ちのかばんや服装をチェックさせて頂き……」

と、そこまで言った時だった。

「し、知らん! 風か何かで入ってきたんだろう! 俺は何も知らんからな!」

そう突然叫ぶと、急ぎ足で退店しようとするのだった。

「あっ、お客様、お勘定をお忘れですよ?」

私の落ち着いた声に、

「ち、ちい!」

と舌打ちをして、その男がカウンターに代金を置く。

「またいらっしゃってくださいませ」

「く、くそ!」

私がお辞儀するのと同時に、男は乱暴に扉を開いて出て行こうとする。

「おい、待て! 店主に謝るべきではないのか」

と、端っこのテーブルにいたお客さんが声を上げた。

おおー、正義感の強いお客さんもいるものなのね。でも、そこまでしてもらわなくてもいいかな。クレーマーなんてつきものなわけだし。なので、

「大丈夫ですよ。行かせてあげてくださいませ」

そう言って微笑んだ。その客たちは帽子を目深まぶかにかぶったり、分厚い前髪で目元を隠していたりと顔がよく見えない恰好をしていたが、私の言葉に妙に素直に頷いて席に戻る。

まぁ、それにしても、

「ふー、いやー、いい経験になったわね。あれがクレーマーなのね」

もちろん、嫌な経験の部類だとは思うが、自分のお店を経営してるんだから、こういうことも当然あると思っていた。ただ想像するのと現実は違う。でも、今回はそれにうまく対応できたのが嬉しかった。良い面も悪い面も含めて、自分の人生を自分で切り拓いているなぁ、という実感があったからだ。

と、そんな風に満足していると、なぜか周りから、

『パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ』

と、お客様たちから拍手が巻き起こったのだった。

「へ?」

私はきょとんとする。

「いやぁ、スカッとするやりとりだったよ、店長さん!」

「まったくだ! しかし相手はあんな巨漢だってのにまったく怯みもしないなんて、すごいな!」

「このお店を贔屓にさせてもらうよ。友達にも言っておくよ!」

図らずも良い口コミのきっかけになったかな?

そんなことを考えていると、ウェイトレスの三人がやってきて言った。

「さすがオーナーです。まだお若い方だと侮っていたかもしれません。これからもぜひ私に仕事を教えてください」

「いや、本当にすごい冷静な対応でびっくりしました。出来る女って感じで尊敬です。ここで働けて良かったです」

「はわわ、私もです! ぜひオーナーお姉様と呼ばせてください!」

と、次々に言ったのだった。

「いや、別にそんな大したことはしてないと思うけどな。普通の対応だよ、普通の」

「あれが普通ですか」

「まぁ、私たちもあれくらいできるようになれという、オーナーの激励だと思っておこう」

「はわわ! 頑張ります! オーナーお姉様! でも、あんなことが出来るのはオーナーお姉様しかいないと思います!」

いやいやいやいやいや!

私は自分で選んだ人生を謳歌しているだけだから。

そんなに褒められることはしてないから!

何だか拍手されたり、褒められたりして恥ずかしくなってきた私は、

「ほら! ほら! いいから仕事の続き! 続き!」

と、無理やりこの話題を打ち切ったのだった。

みんなからは、「はーい」というゆるーい返事がかえってきたのでした。親しみは持ってもらえたみたいだけど、オーナーとしての威厳はどこへ…‥。

ま、まぁいいか。それはきっとこれから取り戻していけるに違いないんだから!

……それはそれとして、あのお客さん。

私が察するに多分……。

ちょっと私は思うところがあったのでした。
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