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25.死亡フラグを完全に回避しました!(キース編)

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「ええ⁉ 果物がぜーんぶ品切れですか⁉」

やっと目的のお店、果物屋さんに到着したのですが、なんと品物が全部売り切れてしまっていました。私が驚きの声を上げるのに対して、果物屋の店主さんは申し訳なさそうに答えます。

ちなみに、ここにいるのはキース殿下とクライブ様のみだ。

ミーナリアさんとバスクは馬車を呼んできてくれている。

「そうなんですよ。どうも隣の伯爵領の方で大きな舞踏会があるらしく、領地内で賄《まかな》いきれない分をご発注頂きまして。全てそちらに売ってしまいました。申し訳ありません」

舞踏会⁉ それくらい自国領でまかなってよー!

「僕も招待されてましたね。アイリーンの方にも招待状が届いているんじゃないですか?」

そうキース王太子殿下が言った。

あっ……。

「そ、そう言えば、そうでしたわね……。それはそれで準備しないといけませんが……。うーん、今はこの状況をどうするかですわねえ」

「今日中に必要なものなんですか?」

「鉄は熱いうちに打てと言いますからねえ」

「ふーむ、理由は分かりませんが、そうですか……」

「でも、しょうがないですよね。ない物は仕方ありません。また出直して明日にでも……」

そう私が諦めかけた時でした。

「クライブ。伝書鳩は飛ばせるかい?」

「はい、すぐに」

「果物の詰め合わせを僕のアイリーンに至急届けるように、伯爵の方にかけあってくれ。あと、1時間で届けるように、ってね」

「かしこまりました」

指示を受けるとクライブはすぐに行動を開始した。

えっ⁉ 今、何したの?

と、ポカーンとした表情を浮かべた私の顔を見て、殿下は微笑むと、

「婚約者のためにひと肌脱いだだけですよ。それに伯爵とは懇意なんでね。彼だったらすぐ融通をきかせてくれると思いますよ?」

す、すごい! 権力すごい⁉ 伝書鳩一つで、伯爵様を動かすなんて⁉

で、でも。

「急ぎの舞踏会の準備に、そんな風に割り込んでしまっては、伯爵様もいい顔をされないのではないでしょうか? 殿下にもご迷惑を……」

さすがに無関係の方々にまでご迷惑をかけるのは憚《はばか》られる。しかし、

「ふふふ。さすが僕のアイリーンは優しいですね。でも、そうでもないんですよ。むしろ、たくさん貸しがありますから、それを返せることに彼としては喜ぶんじゃないですかね? 何せ、彼が伯爵領を継ぐ際に色々と、表からも裏からも、王国内外や隣国の伯爵領の親戚、外戚にまで根回しを手伝いましたからね。あ、ちなみに、これは国家機密ですから、そこのところ宜しくお願いしますね」

そう言ってウインクした。

いやいやいやいやいや!

「そんな国家機密をさらっと話さないでくださいまし⁉」

「むしろ、こんな風に秘密を婚約者と共有できて僕は嬉しいですけどね。ああ、恥ずかしながらなくても大丈夫ですよ?」

「恥ずかしがってませんし! しかも、婚約者じゃありませんので⁉ あと、物騒過ぎますので、そういうのは出来れば胸の内に秘めておいてくださいませ⁉」

変な脅し方をして迫ってくるのはやめてくださいませんか⁉ 

し、しかも、あなたは最終的にはミーナリアさんに浮気する癖に! あっ、だとすると、今の国家機密を知ったのは失敗だったかも! それを理由に処刑されたりするのでは⁉ くうー、油断したー! やっぱり殿下が一番危険だわ! スケールが違うんですのよ! 距離を、距離を取らねば!

と、そんな風にキース殿下から迫られているところに、馬車を呼びに行っていたミーナリアさんやバスクが戻ってきてくれた。ふぅ、助かった~……。

と、思ったのもつかの間で、

「何の話をお二人でされていたのですか? それほど至近距離でないと出来ない会話だったのですか?」

ミーナリアさん。微笑んでいるのに、なぜか迫力がある笑顔ですね。

「ええ、実はアイリーンにちょっとした秘密を打ち明けていたんですよ」

まずい! 私はキュピーン! と直感する。

これは死亡フラグだ!

恐らくこのまま放っておけば、ミーナリアさんは殿下から、私が国家機密を知る者になったということを聞き出すことになり、断罪シーンでその事実を暴露する死亡フラグだ! おのれ2周目ルート! 私が自由に生きるのがそんなに気に食わないのですかー⁉

とにかく何とかしませんと!

「わー! わー! わー! 分かりました、分かりました! 二人だけの秘密にしましょう! だから、ミーナリアさんには秘密にしてくださいませ!」

「え? そうですか? ふふふ、それはそれは、二人だけの秘密が出来て良かったです」

殿下は本当に嬉しそうに微笑まれる。

うう、あえなく王太子殿下と、国家機密を共有する仲になってしまった。

で、でも今の流れは完全に死亡フラグの決定打になるところだったから、それを回避出来ただけで良かったと言わざるを得ないわよね。

「まぁ、二人だけの秘密なんてズルいです」

ミーナリアさんがキース殿下にむくれている。

やっぱり、私の死亡フラグを立てようとしていたのが阻まれてしまって不満なのかな。

それにしてもこの二人もかなり親し気に話せるようになったと思う。最初は特にミーナリアさんは身分差もあって緊張しがちだった。でも、それが今はかなり自然に振る舞えるようになっている。殿下が学校での生活では身分を気にせず接するようにと言った結果だ。

それはきっと、ミーナリアさんに魅力を感じ、仲を深めようとしたゆえの発言だろう。

やっぱり浮気する気満々じゃないか! 

まぁ、それは1周目の人生で分かってたことだけど。そして、この二人がくっつくことは死亡ルートにつながっているわけで、着々とフラグ構築が進んでいることを意味する! 殿下と婚約をしていないからと言って、油断は決してできない。

今後も絶対に油断しないようにするとしよう! 私は改めてどれだけ浮気者殿下がぐいぐい来ても、心を許すまいと、決心を新たにしたのでした。

と、そんな会話をしているうちに、すぐに時間は経ち、1時間ちょうど過ぎた頃には、私の手元には一籠1バスケット分のフルーツの詰め合わせが届いていたのである。すごいですね、権力ってっ……!

まぁ、でもこれで準備は整った。喫茶「エトワール」オーナーとしてやるべきことをするとしましょう。私が自由に、私らしく生きていく場所を守るために!
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