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第五章【蛇王討伐】
5-15.ようやく王都へ
しおりを挟む「ねえ、次はいよいよ王都に着くのよね?」
爽やかに晴れ渡る空に乾いた風の吹く中、アプローズ号とスズは軽やかに走る。気温は高いが湿度がないため、意外にも快適である。
そのアプローズ号の車内から、レギーナが確認するように御者台のアルベルトに声をかけてきた。
「そうだね、次がいよいよアスパード・ダナだよ」
「どんぐらいで着くと?」
「そうだなあ、スズの脚だと特大七くらいだね」
「もう間もなく着く、ってことね」
「それでは、王宮に挨拶に出向くのは明日になるわね」
「いや、王宮に逗留することになるから、直接王城に上がることになるね」
「……そうなん?」
「蛇王討伐のために西方から勇者が来るのは、リ・カルンの側でも承知しているからね。だから歴代の勇者はみんな王宮の支援を受けて討伐を成し遂げてきたんだ」
「そう言えば、こっちで現地調査もするのよね?」
「そうだよ。実地調査には王宮が人を出してくれるし、王宮の書物庫も開放してくれるから文献調査もやりやすくてね」
蛇王はかつて、この地を支配していた人の王だったとアルベルトが語ったことがある。それを討ち果たしたのがリ・カルン建国の英雄王だとも。だとするなら、蛇王に関する文献がもっとも揃っているのは王宮の書物庫のはずである。
「それは有り難いわね。本来は見られない文献なども見せてもらえるのかしら?」
「もちろん。もっとも見ても、古語で書かれてるから全然読めないけどね」
「んなら意味ないやん」
「問題ないよ、古語研究が専門の通訳もつけてもらえるし。⸺っと、そろそろ見えてくる頃じゃないかな」
そうアルベルトが言うとすぐに車内から足音が響いて、そして蒼薔薇騎士団の全員が次々と御者台に顔を出してくる。相変わらず物見遊山な娘たちだ。
「やっぱり“最初に見える景色”って大事よね!」
「ハグマターナとかダラームでさえアレやったけんねえ、王都はさぞかし大都会っちゃろ?」
「しばらく滞在することになるものね。しっかり見ておかなくてはね」
要するにただの野次馬である。
「今が最後の峠の頂上だから⸺ほら、見えてきたよ」
その瞬間、不意に、空が開けた。
道が峠を越えて、下り坂に入ったのだ。
そして目の前には、はるか地平線まで果てしなく広がる広大な平野が一気に広がり目に飛び込んでくる。
「「「「…………えっ」」」」
その光景に、思わず絶句する蒼薔薇騎士団一同。
「いやいや、なんこれ嘘やろ」
「待って待って、ねえ待ってこれ」
「…………見間違い、ではないのよね」
「…………す、すごい…!」
彼女たちが驚くのも無理はない。
だって地平線まで広がっているのは森でも畑でも砂漠でもなかった。
そこには見渡す限り一面、市街地が広がっていたのだ。
「やっと着いたね。ここがリ・カルン公国の王都、アスパード・ダナだよ」
「いやいやいや」
「無いわーこげなん有り得んやろ」
「これ、何か幻覚系の魔術でも施されているのではなくて?」
アスパード・ダナだと言っているのに信じない勇者様御一行。アルベルトは苦笑するしかない。
「ダラームの宿で聞いてきた情報なんだけどさ」
「…………情報?」
「アスパード・ダナの人口、今110万人くらいいるんだって」
「「「「………………はぁ!? 」」」」
リ・カルン公国の王都アスパード・ダナ。フェル暦675年現在で居住人口が実に約108万人を数える、超巨大都市である。
ちなみにこれがどれほどの数字かと言えば、西方世界でもっとも人口の多いガリオン王国の首都ルテティアでも約68万人であり、アスパード・ダナのおよそ3分の2ほどしかない。かつてひとつの都市だったイリシャ連邦のビュザンティオンとアナトリア皇国のコンスタンティノスとを合わせても、人口98万人であり100万には届かないのだ。
そう。つまりこのアスパード・ダナこそがこの時代、世界でもっとも人口の多い都市なのだ。だからレギーナたちが唖然として信じようとしない、目の前に広がる地平線まで続く無数の市街地は、決して見間違えでも何でもないのである。
「マジかー……」
「実際にこの目で見ても、まだ信じられないわね」
「そ…………そうね……」
「決めた。わたし、街には出ないから」
いやクレアさんはハグマターナでもダラームでもほとんど街歩きしてませんよね?
こうして、一行はついにアスパード・ダナにたどり着いた。ラグを出発してから実に66日目、フェル暦675年の暑季のはじめのことであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
陽神が西の空にゆっくりと傾き、空が茜色に染まりつつある中、蒼薔薇騎士団とアプローズ号は王都アスパード・ダナの西門へ辿り着いた。
早速入門待機の列に並んだのだが、すぐに門衛の騎士が飛んできた。レギーナは例によって特別扱いを嫌がり順番通りに待つと断ったが、門衛たちに「西方の勇者様を先にお通しするよう命ぜられておりますので」と言われてしまうとそうもいかない。
どうやら王城の方で、すでに歓待の準備が整えられているようである。王都滞在中の起居の世話になることを考え合わせても、今日のうちに王城へ伺候しておくべきだろう。
「なーんか、アンキューラのアレを思い出しちゃうわ」
「あれとは違うと思うけどね。“虹の風”の時も似たような感じだったし」
「……まあ、あなたがそう言うなら信じることにするわ」
というわけで、門衛の連絡を受けて出迎えに来た兵士たちの一団に護衛・先導される形で、蒼薔薇騎士団とアプローズ号は王都の西門を潜った。ちなみに道中の護衛についてくれた街道巡視隊の小隊は、西門に辿り着いたのを見届けた時点で無事にお役御免である。
今の時間からダラームへは戻れないので、彼らは入門待機の列に並んで、今夜は王都で一泊してからダラームへ戻るそうである。彼らの顔が心なしか緩んでいたのは、今夜は王都の繁華街で羽を伸ばすつもりだからだろうか。
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