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とある公爵家侍女の生涯
18.公爵家侍女と意外な縁(えにし)
しおりを挟む季節はどんどん深まって、寒さは厳しくなる一方なのに、なんでか私はめっちゃ温かい。
いや原因なんて分かってる。この分厚い胸板のせいだ。
嬉しいし幸せだからいいんだけどさ。
もうちょっと人目ってものも気にして欲しいと思わなくもない。公私混同、よくない!
まあそんな私たちは今、婚約式の手続きを進めるためにお邸の談話室を借りてるんだけどさ。でも、膝に乗っけて後ろ抱きにする必要、なくない?
まあ幸せに包まれる感覚嫌いじゃないけど。
思えば私がこの人のことを苦手だと思ってたのって、自分の芯を折られそうで怖かったからなんだなあって、今なら分かる。折られた先にこんな幸せが待ってるなんて、気付きもしなかったよね。
「それでだな。招待客はこの一覧を全員呼ぼうと思っている」
「いや人数多くないですか?」
親類縁者や公爵家の方々はともかくとして、なんでベルナール様のお家とかオーギュスト様のお家まで入ってるの?しかも殿下とか王太子ご夫妻にレティシア様まで!?
「式には必ず呼べと仰せられてな」
「いや婚姻式でもないのに!?」
言いそう。殿下も王太子妃殿下もすごく言いそう。そして言われたからには拒否なんてできるわけがない。
「貴女が嫌ならご遠慮申し上げようか?」
「嫌だなんてとんでもない!」
言えるわけないよ!恥ずかしいだけだよ!
ていうか年明けまでまだ1ヶ月以上あるのに、その間ずっとこの恥ずかしさに悶えなきゃなんないって、一体なんの罰なんですか~!?
「継ぐ爵位は男爵位だが、この爵位は我が国の創建時から続く由緒ある家名でな。それで王家の覚えもめでたいし、婚約式と同時に爵位の継承式も併せて執り行う事になっているから、多少派手になるのも仕方ない。
だが、貴女は大丈夫か?」
「大丈夫じゃない!聞いてないわそんな話!」
「今初めて言ったからな」
だからなんでそんな楽しそうなの!?
「会場はリュクサンブール宮殿の小ホールをお借りすることになっていて──」
「待って!?嘘でしょ!?」
「費用の大半もレティシア様のご厚意でご用意頂けると──」
「ぎゃあーーー!!」
「レティシア様たってのご希望だと伺っている。『お友達のために、このくらいしかできないけれど』と有難くも仰られて──」
そりゃ『お友達になりたい』と仰られてたけど!
お友達らしいことなんにもできてないのに!
「この婚約式と継承式が終われば、私は正式にウェルジー男爵家を継ぐことになり、名もラルフ・ド・ウェルジーと改まる。婚約者であり男爵夫人となる貴女も婚姻後は正式に貴族に復帰して、コリンヌ・ド・ウェルジーと名乗ることになる」
「ウェルジー!?待って!?」
国史教育で出てきたしその家名!ガリオン創建前からある貴族家じゃん!てか歴史上は伯爵家だよその家名!
「ウェルジー家は4代前がイヴェリアスと内通して内乱を起こしてな。降格の上取り潰しになったんだ。家名だけは残されて、それ以来男爵位として我がアルトマイヤー家が賜って保持している」
「アルトマイヤー伯爵家ってそんなに偉いの!?」
「元はブロイス貴族だ。6代前のご先祖がブロイスとガリオンの戦争でガリオン側に与してな、それを嘉され領地と爵位を頂いている」
「だよね!?なんか響きがブロイスっぽいと思ってたんだ!」
家名だけじゃなくてラルフ様のお名前もブロイス系だし!
ていうか国史教育の教科書に出てくる話ばっかじゃん!私もしかして歴史の1ページになっちゃうの!?
「うわあ………ラルフ様のお家がそんな凄い家だとか知らなかったわー……」
「何を言っている?貴女の生家のリュシオ家だってなかなかのものだぞ?」
「えっ?」
「イヴェリアスに内通した当時のウェルジー伯を討ち取った武門の家系がリュシオ男爵家じゃないか」
「マジで!?」
まさかの繋がり!?
うわあ、うちの家の歴史なんて興味なかったから全っ然知らなかった!でも確かにお父様は南方騎士団の財務部にお勤めだったわ!
………あ!もしかしてそういう歴史があるから忠義に篤い家系だって陛下もご存知でいらしたとか!?
「そうだ、そう言えば、リュシオ男爵位は貴女が保持しているはずだぞ?」
「ウッソぉ!?」
「念のために調べたから間違いないはずだ。お父上の爵位返上と貴女の離籍が同時だったからな、処理上貴女は『リュシオ男爵家からの離籍』になっていて、お上のご沙汰次第で籍を戻すことが可能だ」
そんな、まさか。
私次第で我が家の家名が復活できる…?
そうすればお父様の名誉も回復できて、今の苦しい生活からも解放される………?
「今のところはウェルジーの名を継ぐ予定になっているが、貴女が望むなら『リュシオ家の継承』ということにしても構わないが?」
手続きがひとつ増えるだけだから問題ない………って問題ない!?なんか許可される前提で話してないラルフ様!?
「いや、いいです………お父様にもご相談しないといけなくなるし」
「なら、リュシオ男爵家は私たちが結婚して息子が生まれたら、次男以降が継ぐことになるだろうな」
「男の子ふたり以上産むこと前提なの私!?」
「頑張らないとな」
ううう…!いーい笑顔で気安く言いやがってコノヤロウ!子供産むどころか、私たちまだ手も繋いでないのにぃ~!
って、そ、想像したら…………っか、顔が………!
あっ、あっつぅ~~~!?
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