ケーキ

真夜中

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ケーキ

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「ホールケーキを切ってください」
そう言われて刃渡り15cmの少し短めの包丁と6号のチーズケーキを机の上に用意された。
「…こうかな。」
男はそう呟くと縦に切った。
「ありがとう。牢に戻れ。」
誰かの誕生日では無い。ただ切らせたのだ。
「これでいいですか?」
看守は言葉を放った。
皆さんはケーキと包丁を渡されたらどう切りますか、と言うか、ケーキを切れますか。これはケーキを切れない少年達の話です。

囚人名 上須恵 涼太

「おらっ!酒も買えねぇゴミはそこで寝とけ!死ねや!」
寝床はいつもベランダの換気扇の隣。俺にはどうやらこの世の神とやらに嫌われてるらしい。そう感じたのは小学5年の時だった。いつも親父からは酒買ってこいだ飯がねぇやらで殴られたり蹴られたりしていた。典型的なくそ家族だ。母親は幼稚園の時に首を吊って死んで、そっから感情ってやつが分からなくなった。
「おい涼太、俺が飯食わせてやってんだ、何か一つくれぇ出来るようになれや。」
親父の言う事は絶対だ。逆らえない。
「はい…」
誕生日なんて知らねぇ、覚えてすらいねぇよ。
中学3年に上がる頃には人殺し以外は殆どやり尽くした。教師共からはろくでなしのクソ生徒、同い年からは犯罪者なんて言われた。
ある日の下校時間俺らの担任松井 俊明から呼び出しがあった。
「涼太、お前このままだと卒業が出来ても高校に入学が出来ないぞ、もし行かないで仕事するとしてもお前だとどこも取らないぞ。どうするんだ。」
午後16:36先生はそう言った。特に俺は何も思わなかった、どうせ何しても親父は変わらないと知っていたからだ。
「俺が何かやったら全てが変わるのかよ。」
ボソボソと低い声で先生に聞こえるかどうかの声で俺は呟いた。
「あのな涼太、別に普通に生きろとは先生も言わない。ただ犯罪だけはするな、それだけはやってはいけないんだよ。」
そう先生が言うと俺は何も言わずに立ち上がりその場を去った。
「知ったこっちゃねぇよ、死ぬこと以外かすり傷だ。」
小石を蹴りながら河川敷を見ると歳が同じくらいの人達がサッカーをしてる。
「普通ってなんだよ。家族ってなんだ、友達って誰だよ。」
2012年11月4日上須恵 涼太19歳
「てめぇみたいな奴が生きてるから俺は普通に生きて来れなかったんだ!死ねよクソじじぃ!」
そう言い放つと血飛沫が飛んだ。
人を殺した
初めて持つ包丁は牛刀。刃渡り21cmのやつだった。調理実習とかしたことなくて、その時握り締めた牛刀が初めての包丁の感覚だった。
殺した理由は親父と揉め事を起こしてかっとなって今までの鬱憤もあったからだ。
その時初めて人の温もりに触れた気がした。
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