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一章 異世界での希望
3年目のサプライズ
しおりを挟む「ゆーくーん!」
「はいはいなんですか智夏さん」
「今日は! なんの日でしょうか!」
「付き合って3年目」
「だいせーかいっ!」
高校より帰宅中――
紺色の可愛らしい制服に身を包んだ智夏は、ばっと両手を上げ、頭上で丸を作る。
くっ、可愛いぜ!
これ以上見てられない! と目を逸らす俺を他所に、じゃあ今日は外食にしようよー! と、ぴょんぴょん跳ねる智夏。
「ふっふ、最初からそのつもりだったぜ!」
「よっ! 大統領!」
自信満々に智夏の頭をポンと叩いた俺は、当然だろ! と、空いた手で親指を立てる。
「何屋さんにしよっかなー、お寿司も良いけどー高いからお好み焼きー?」
何処がいいかなぁ? と茶髪と黒髪が混ざったツインテールを揺らす智夏は、何食べたいー? と上目遣いで俺を見つめる。
「値段は気にすんな、智夏が好きな物食べようぜ」
そう言って笑う俺に対し、智夏は、それじゃダメ! と頬を膨らませる。
「今日は2人の記念日だから2人が食べたいの食べるのー! それにお金だってちゃんと割り勘なんだからね! 私ばかり得をしようってたって、そうは行かないんだから!」
「男泣かせな女の子だぜぇ!」
最早男の俺よりちゃんとしてね? と智夏を見つめた俺は、改めて思ってしまった。
好きだなぁ……。
と。
中学三年生の夏に告白してから今の今まで超絶好き。大好き過ぎて鼻からコーラ飲めそう。
特に可もなく不可もない俺をこんなに愛してくれる人なんて、この先現れないかもしれない、いや、現れないね!
自分で言ってて泣きたくなるが、もうどうでもいい。だって智夏がいるんだもん。
そう。この時までは、平和にずっと一緒にいれると思ってたんだ――
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふいぃぃ、もう食べられないー」
「流石にこの量は食いすぎたな……」
結局、回転寿司という無難なチョイスをした俺達は、大量の白い皿を前にダウンしていた。
「それにしてももう3年かぁ、ゆーくんよく私の事なんか好きになったよねー」
椅子によしかかりながら、智夏は物好きだなぁーと目を瞑る。
「何だよ好きになったらダメか? ちなみに、なんかじゃないぞ、だからだ、智夏だから好きになったんだ」
「ふぅぅん」
数秒――
智夏はニヤニヤしながら俺の顔を見続けた。
あれ、俺めっちゃ恥ずかしい事言ってね?
「はっ!」
ばっと辺りを見ると、近くの大人がこちらを見て微笑んでいる!
地獄か! 何だこれ! 恥ずかし!
公開処刑となった俺は、顔を茹でダコの様に赤くしながら、は、早く帰るぞ! と伝票片手に立ち上がる。
「はいはい、私だから好きなんだもんね!」
「やかましいわっ!」
後ろをトテトテ着いてくる智夏につつかれながら、俺は今日も幸せを感じた――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「んじゃまたな」
「やだやだ」
「いや、やだって言ってもここ君の家ですよ?」
「やだやだ」
「いや、そんな子供みたいに頭振られても……」
いつもならスっと帰る智夏が、今日は珍しくしぶとい。
俺の袖を両手で掴み、顔を見せないように俯きながら無言でツインテールを揺らすその姿は、駄々をこねる子供そのものだ。
実に愛くるしい。
「まだ帰りたくないのかぁ? って言っても、智夏のおばあちゃん心配するぞ? もうこんな時間だし」
そう言ってスマホをチラと見た俺は時計を確認する。
「今日は……まだ一緒にいたい」
「うーん。じゃ、少し散歩するか?」
「……! うんうん、うんうん!」
一気に顔を上げた智夏は、目を子供のように輝かせながら、まだ一緒~! と俺の手を暖かい手で握ってくる。
何この子。天使?
少しだけだからなぁ? と自分に釘を指すように言った俺は、手を握り返し、いつも行く公園へと足を進め――
――刹那
ツルン。
と、俺の右手から何かが零れ、すり抜けた。
「何だ?」
右手の方を見て、何があったか理解する事は最早不可能だった。
「あれ……智夏……? おい! 智夏! どこ行った!」
右手。それはついさっきまで智夏の手を握っていた手。智夏の体温を感じていた手――
それが今では。
「……んだよこれ……すら……いむ?」
足元でぴょんと跳ねた白いスライムは、涙のようなものを浮かべながら俺に近づいてくる。
「んだよこれ……なんだよこれ!」
突然の出来事に反射的にバックステップで距離を取った俺は、智夏! と声を荒らげながら走り出す。
なんなんだよ、なんなんだよ! 何だあの生き物! 智夏はどこ行った、無事なのか? 俺が智夏の手を握ってたのに……それなのに、俺が、俺が握っていたのに!
色々な感情の中でも恐怖と不安が体を押さえつけるかのように襲い続ける。
「智夏! いるなら返事してくれぇぇぇ!!!!」
体が重い。今にでも足を止めたい。こんな現実から逃げ出したい。
弱音が息をする度に俺の脳裏に流れ込む、そんな弱者に追い打ちをかけるように、激しい雨が俺の体を打ち付ける。
「止まるな、止まるな! 動け、動け動け動けッ!!」
止まれない。止まりたくない。絶対諦めない、智夏だけは絶対に俺が守らなきゃならない。
「もう二度と……二度とあんな目には合わせねぇからなぁぁ! 智夏~~~っ!!!」
こうして俺は、時計の長身が何度一周しようが、雨の中をがむしゃらに走り続けた――
追いかける建前で、現実から逃げる為に――
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