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一章 異世界での希望
空白の距離
しおりを挟むぷよん――
体が、軽い? うんん、滑る。
目を開けるとそこは、見慣れた世界ではなく、見たことも無い世界だった。
それでも何故か、不思議と違和感はない――
(私……どうなって……)
深呼吸深呼吸……。と、冷静になりながら、先程まで優と手を繋いでいた所まで思い出し、反射的にゆーくん! と声を上げ、気付く。
(私……小さくなってるの?)
見慣れていないはずなのに、何処か見慣れている理由、それは世界自体が変わった訳ではなく、自分の視野が変わったことによる誤差のせいだと理解する。
少し下を向けば縁石があり、道に落ちている小石が大きく見える。
(ゆーくん! ゆーくん!)
声を何度あげても響かない、声が出ない。声の出し方を忘れたかのように口をパクパクして、無常にもそれで終わる。
(何これ……声が!)
それを何度か繰り返した後、智夏は巨大な靴の前で飛び跳ねた。
(これゆーくんのだ!)
見慣れた黒い靴に問いかけるように跳ねるが、次の瞬間、その黒い靴は一瞬にして遠くへと距離を取った。
「んだよこれ……なんだよこれ!」
そんな優の焦った声と共に、智夏は自分との心の距離を感じてしまう。
(……私、もうゆーくんとお喋りも、手を繋ぐことも、抱き締めることも……出来なくなっちゃったのかな……)
自分の異変を全て理解したわけじゃない。それでも彼は、私を見て飛び退いた。
理屈は知らない、なんでこんな事になったのかも知らない……。ただ分かるのは、
(私……また1人になっちゃった)
苦い現実だけだった――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あれ……!」
――魔王城
漆黒のローブに身を包んだ魔王は、派手な宝石で彩られた椅子から勢いよく立ち上がる。
「どうかされましたか?」
隣でそれを見守るのは魔王のお世話係兼四天王の一人、サディスだ。
「いや、何でもない……」
「…………」
漆黒のローブのせいで表情こそ分からないが、声色から焦りがビシビシと伝わる。
それをすぐさま察知したサディスは、はぁと小さくため息をつき、毎日手入れを欠かしていないタキシードの襟に両手をあて、ピチッとさせた後、魔王の目の前まで歩みを進める。
「魔王様……しっかりと仰ってください。失敗を」
「ぐっ……! し、失敗なんてしてないぞ! この魔王である私が……!」
「魔王様?」
ローブをバサバサと羽ばたかせる魔王は、観念したように動きを止め、サディスから体を逸らしながら鼻を鳴らす。
「……ふっふ! 試したのだサディスをな! よくぞ見破った! そう! 間違えて! 知らない子をモンスターに変えてしまった……! しかもスライムに……!」
「……」
「いや、もう四天王を辞めようかなみたいな顔をするでないっ! 大丈夫大丈夫! 無かったことにするから!」
「あの、魔王様……焦りすぎて音声補正安定してないですよ?」
「はふ!?」
黒いローブの中でキャイキャイ騒ぐロリボの魔王は、その後サディスにきっちりしごかれた――
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