スライムになった彼女と、彼女を騙されて食べてしまった俺の成り上がり冒険譚〜最初追放もされたしレベルも曖昧だったけど愛の力で無双したい〜

りり

文字の大きさ
6 / 9
一章 異世界での希望

私は間違えたスライム

しおりを挟む

 雨が降りしきる――

(私はこれからどうしたらいいのだろう……)

 最愛の彼は私を見た後、私を探しにどこかへ行ってしまった。
 私は一体どこにいるのだろう。私は一体何者なのだろう。
 そんな疑問だけが浮かぶ世界で私は小さな体を動かした。

(寒さも感じない、地べたを歩いても痛くない……けど)

 隣に誰もいない寒さ、彼に自分を失わせてしまった心の傷の痛みは、どんな物より辛かった。

(私はどこへ行けばいいの?)

 本当の孤独を味わいながらヌルりヌルりと移動して、ふと気づく。
 水溜まりに映る自分の姿が人間のそれを本当に超えてしまっていることに。

(何……これ……)

 昔、彼が貸してくれた漫画の中に自分の今の姿に似た生物がいた。

 スライム――

 ゲームやアニメに疎い私が初めて覚えたモンスターだった。

(私が……モンスターに……?)

 雨により何度も何度も波紋を広げる水溜まりは、私の心と同じように揺らぎ続ける。
 私はスライム。あっという間に倒されるいるのにいない存在、スライム。それはまるで今の私と彼のよう。いるのに、目の前にいるのにいないものと扱われる。

(それだけは……やだな……)

 別に全ての人に私を認知なんかしてもらわなくていい。ただ、ただ一番この世で愛している彼だけには……。

(知ってて欲しいな……)

 たとえその後私が死んでもいい、気付いてくれればそれでいい。彼の心のほんの僅かな隙間に入れれば私は満足してこの世から居なくなれる。
 それに……彼は優しいから、
 
(きっと私が死んだことも知らずに探し続けるよね……)

 他者が聞いたら自惚れるなと言われるかもしれない、それでも私は彼を信じてしまう。何処までも何処までも……。

(探さなきゃ)

 止まってられない。彼は今も私を探しているかもしれない。大丈夫、きっと分かってくれる。だって彼と私は心で繋がっているのだから――

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それからしばらくして、私はまた重要なことに気づいてしまった。

(私はスライム。倒される存在のスライム……)

 言葉が話せないという問題だけだと思っていたが、そもそも話し合う土俵にすら立てていない。

(どうしよう……)

 今彼がスライムの私を見たら即座に逃げるだろう。
 見た目はよくガリガリだとバカにされる彼だが、私だけは知っている。彼の異常なまでの反射神経とその足の速さを。

(うん。追いかけても絶対逃げられる……)

 かつて武道を習っていた彼が手にした力は敏捷性。体重も軽く、パワーには欠けるが、その素早さだけはそこらの人には絶対負けない。

(普通じゃダメ……何か……何か考えないと)

 今の私なら何が出来るの……。とひたすら水溜まりに映る自分と睨めっこをする。

(見れば見るほどまん丸スライム……。こんなんじゃやっぱり、って…………あれ?)

 ツルんとした姿をぼーっと見ているうちに、水溜まりが少し小さくなったことに気づいた。
 雨が降る中、水溜まりが小さくなるなんてありえない、むしろ成長していいはずだ。
 そんな疑問と共に空を見上げた私は言葉を失った――


(私が……私自身が大きくなってる?)


 水溜まりが小さくなった訳じゃなく、自分の体積が大きくなったことに気づいた頃には、最初の体のふた周り程大きくなり、五十センチ位の高さになっていた。

(時間の経過で大きく……いや)

 雨を吸収した?

 そう結論づけた私は空を見つめ、これなら……。と止まることなく再び歩みを進めた――

 

 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...