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篤実視点
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「えぇ!藤原君辞めちゃったの?」
絵画教室の生徒さんはみんなとても残念そうだった。
気の合う生徒さん同士でランチに行ったりはしていたようだけど、その仲間に藤原さんが入っていたとは思えないし、プライベートで付き合っているような友人はいなかったと思う。
藤原さんはマダムたちの目の保養枠として重要な存在だったのかもしれない。
「お仕事が忙しいみたいで、教室に通う時間が取れなくなったみたいです」
絵画教室の生徒さんたちに、藤原さんから言われた言葉をそのまま伝えた。
「残念だわ。週一回のイケメンに癒される楽しい時間だったのに」
「週一回、絵を描くことで癒されてください。創造性を刺激して、ストレス発散にもなりますし、脳の健康にも良い影響を与えますから」
笑顔で生徒さんたちの話題を絵の方へ持っていく。
それでも「残念だわと」皆が口々につぶやいていた。
藤原さんは約束を守ってくれた。
自分の前から、そしてこの教室から姿を消した。
やっと悩みの種がなくなった。
まさか 性奴隷のような事を自分がしていたなんて信じられない。恥ずかしった。
きっと他にも危機を回避する手段はあったと思う。けれどあの時はそこまで 頭が回らず、必死だった。彼の要求を受け入れるしかないと思った。
あんな失態は二度と起こさない。強く心に誓った。
僕はまた自分のペースで生活ができることに安堵していた。
彼はここにいた形跡を一切残さなかった。彼の面影は自分の記憶の中だけになってしまった。
それもすべて消し去ることができればどんなに良かったか。
スッキリと、そしてすっかりと彼のことは忘れようと思っていた。
朝起きて朝食を食べ、軽く掃除をして身支度をする。教室がない日は自分の作品の制作に取り掛かる。
学芸員資格も持っているので、たまに依頼され彫刻の講演をしに美術館へ呼ばれる事もあるけど、ほとんどは家で過ごす。
僕は変わらない日常が好きだった。
なのに一人でいると、何故か毎日藤原さんの事を思い出した。
確かにあの一週間は忘れられるはずがない、僕にとっては衝撃的な日々だった。
誰にも知られたくない変態的な銅像相手の自慰行為を彼に見られ、そのことを口外しない代わりに性的な奉仕をする事。
彼が自分のモノを銅像と同じように口で慰めろと言った事。
彼は僕に無理やり体の関係を強要した事。
全ては悪夢だったんだ……悪夢のような……
本当に?
僕は自分のいいように記憶をすり替えているのではないか?
僕が『何でもする』と言ったからあんな事を言ってしまったんじゃないか?
売り言葉に買い言葉状態で、自分では思ってもみない要求したんじゃないだろうか。
藤原さんは暴力的に力ずくで体を奪われたわけではなく、優しく丁寧に僕を抱いた。
毎晩夕ご飯のお弁当を買ってきてくれた。
体の関係を持った後は、心配もしてくれて薬や飲み物を枕もとに用意してくれた。
考えれば考えるほどわからなくなってくる。そもそも藤原さんはゲイではない。
男の僕に興味があるわけがない。気持ち悪いと思って当然なのに……
記憶の中の飄々とした彼の態度はとらえどころがなく、何度思い返してみても答えは出せなかった。
一カ月が過ぎる頃、藤原さんの今の状況を知りたくなった。
彼の仕事は順調だろうか、忙しいと言っていたから家業と言っていた造園業は、大きい会社なのかもしれない。
僕はネットで藤原さんの会社を検索していた。
植木屋さんをイメージしていたが、藤原造園は大手企業だった。一般家庭の庭を造る他に、公共施設の緑化施設整備なども請負っているようだ。
『自然と一体化した施設を作り整備したり、緑ある空間を創造し、環境保護にも関わっていく』と書いてある。
造園技能士……藤原大樹
ホームページに彼の名前を発見した。
思わず息をのんだ。
目頭が熱くなる、また訳も分からず涙が出てくる。
あの時も言われた『その涙は何の涙?』彼の言葉が思い出され胸に突き刺さった。
絵画教室の生徒さんはみんなとても残念そうだった。
気の合う生徒さん同士でランチに行ったりはしていたようだけど、その仲間に藤原さんが入っていたとは思えないし、プライベートで付き合っているような友人はいなかったと思う。
藤原さんはマダムたちの目の保養枠として重要な存在だったのかもしれない。
「お仕事が忙しいみたいで、教室に通う時間が取れなくなったみたいです」
絵画教室の生徒さんたちに、藤原さんから言われた言葉をそのまま伝えた。
「残念だわ。週一回のイケメンに癒される楽しい時間だったのに」
「週一回、絵を描くことで癒されてください。創造性を刺激して、ストレス発散にもなりますし、脳の健康にも良い影響を与えますから」
笑顔で生徒さんたちの話題を絵の方へ持っていく。
それでも「残念だわと」皆が口々につぶやいていた。
藤原さんは約束を守ってくれた。
自分の前から、そしてこの教室から姿を消した。
やっと悩みの種がなくなった。
まさか 性奴隷のような事を自分がしていたなんて信じられない。恥ずかしった。
きっと他にも危機を回避する手段はあったと思う。けれどあの時はそこまで 頭が回らず、必死だった。彼の要求を受け入れるしかないと思った。
あんな失態は二度と起こさない。強く心に誓った。
僕はまた自分のペースで生活ができることに安堵していた。
彼はここにいた形跡を一切残さなかった。彼の面影は自分の記憶の中だけになってしまった。
それもすべて消し去ることができればどんなに良かったか。
スッキリと、そしてすっかりと彼のことは忘れようと思っていた。
朝起きて朝食を食べ、軽く掃除をして身支度をする。教室がない日は自分の作品の制作に取り掛かる。
学芸員資格も持っているので、たまに依頼され彫刻の講演をしに美術館へ呼ばれる事もあるけど、ほとんどは家で過ごす。
僕は変わらない日常が好きだった。
なのに一人でいると、何故か毎日藤原さんの事を思い出した。
確かにあの一週間は忘れられるはずがない、僕にとっては衝撃的な日々だった。
誰にも知られたくない変態的な銅像相手の自慰行為を彼に見られ、そのことを口外しない代わりに性的な奉仕をする事。
彼が自分のモノを銅像と同じように口で慰めろと言った事。
彼は僕に無理やり体の関係を強要した事。
全ては悪夢だったんだ……悪夢のような……
本当に?
僕は自分のいいように記憶をすり替えているのではないか?
僕が『何でもする』と言ったからあんな事を言ってしまったんじゃないか?
売り言葉に買い言葉状態で、自分では思ってもみない要求したんじゃないだろうか。
藤原さんは暴力的に力ずくで体を奪われたわけではなく、優しく丁寧に僕を抱いた。
毎晩夕ご飯のお弁当を買ってきてくれた。
体の関係を持った後は、心配もしてくれて薬や飲み物を枕もとに用意してくれた。
考えれば考えるほどわからなくなってくる。そもそも藤原さんはゲイではない。
男の僕に興味があるわけがない。気持ち悪いと思って当然なのに……
記憶の中の飄々とした彼の態度はとらえどころがなく、何度思い返してみても答えは出せなかった。
一カ月が過ぎる頃、藤原さんの今の状況を知りたくなった。
彼の仕事は順調だろうか、忙しいと言っていたから家業と言っていた造園業は、大きい会社なのかもしれない。
僕はネットで藤原さんの会社を検索していた。
植木屋さんをイメージしていたが、藤原造園は大手企業だった。一般家庭の庭を造る他に、公共施設の緑化施設整備なども請負っているようだ。
『自然と一体化した施設を作り整備したり、緑ある空間を創造し、環境保護にも関わっていく』と書いてある。
造園技能士……藤原大樹
ホームページに彼の名前を発見した。
思わず息をのんだ。
目頭が熱くなる、また訳も分からず涙が出てくる。
あの時も言われた『その涙は何の涙?』彼の言葉が思い出され胸に突き刺さった。
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