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どうするんだ
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メアリジェーンさんのSNSから藤原さんのイギリスでの暮らしぶりが分かる情報を探した。
三人で検索すると、あらゆる情報を入手できた。
「分かったことはあれだな。メアリジェーンは結婚してすぐに離婚した。子供は前の旦那との子だ。んで藤原君は彼女のイギリスの実家、ジェラルド製菓の会長の家の庭師だった」
「藤原さんのいるガーデニング会社にジェラルド会長が依頼した。日本庭園が造れる人を探してたみたいだね。専属の庭師ってわけではない」
「ですね。イギリスでの仕事ぶりを買われた藤原さんに、今回日本の別荘の庭の設計を依頼した。SNSの写真を辿ったら、だいたいの二人の出会いの時期が分かります。彼女は恋人がいるとは書いてない。けれど藤原さんの造った庭の写真はたくさん載せてるし、彼の仕事の宣伝もメアリさん個人のSNSでめっちゃしてる」
「そうだな、庭を褒め過ぎってくらいに褒めてるな。子供を抱いてる男の写真もあるけど、皆外国人だ。日本人の写真はない。藤原君らしいのはある?」
龍は僕に確認した。
「藤原さんの写真はないかな」
「ざっと見ただけですけど、神吉さん。藤原さんを恋人だと紹介した文章は見つかりません。単純に仕事を介しただけの間柄ではないでしょうか。これだけ息子のビリー君を自慢している写真がたくさんあるんだから、もし恋人がいれば、恋人を自慢しないわけないと思います」
「いや、権田くん。そうやって篤実に期待を持たせるな。恋人がいても秘密にしてるかもしれない。それに海外では籍を入れない婚姻関係なんてざらにあるだろう」
「うん、大丈夫わかってる。彼女はセレブだから、もし次に誰かと結婚するとしても、離婚した時の莫大な慰謝料のことを考えると入籍してない可能性はある。その辺はちゃんと理解してるから」
「友達か、恋人か、内縁の妻か……その辺はっきりわかりませんね」
「昨日の感じからすると、お子さんも藤原さんにとても懐いていたから、ただの友人ではないと思う。愛し合っている恋人同士、それならそれで自分の気持ちの整理もつく気がする。心の準備もないまま昨日彼と会ってしまって焦ってしまった」
「次に会った時、恋人です!ってしょっぱな紹介されるより、ショックも少ないだろう」
ジェラルド製菓の仕事は終わったけれど、今後関わらないとは言い切れない。トラブルがあればメンテナンスも必要になるし、庭園と銅像はセットで依頼されることもある。藤原さんと顔を合わせる可能性は大いにある。
庭を案内すると言ってくれた時も『またの機会に』とはぐらかしたけど、この先実現してしまうかもしれない。
そう考えると事前に覚悟する事ができて良かった。
「でも……どうするんですか?」
「どうするってなんだよ?権田くん」
「いや、そのメアリジェーンさんが、藤原さんの恋人じゃなかったら神吉さんはどうするんですか?まだ彼の事が好きで未練がある。だから恋人になりたいって事ですよね?」
「恋人がいなければ藤原君にアプローチするんだよな?三年もの間ずっと忘れられなかった奴なんだろ。そりゃ当たって砕けろだ」
「……いや……違う」
目を閉じて深く息を吸い込んだ。
恋人になろうなんて思っていない。彼の事を好きな気持ちは変わらずあるけど……
「僕はまず、彼に謝りたいんだ。藤原さんの事をもてあそんだから」
ハッとした。龍たちと話しているうちに、自分の本当の思いに気づいた。
そうだ、僕は藤原さんに『あの時は申し訳なかった』と謝りたいんだ。
やっと心の中のモヤモヤした不快な感覚が晴れた気がした。
「え、神吉さんがもてあそんだんですか?」
驚いたように権田くんが目をぱちくりさせた。
「うん。どういう事情があるのか詳しくは言えないけど、多分そうだ。ただ男と体の関係を持った、経験の一つだと彼が感じてくれたんならいい。でもどちらかというと、僕の方が彼に無理強いして体の関係に持ち込んだ可能性の方が大きい。その時は自分でも気が付いてなかったんだ……だから謝罪したい」
わずかに肩をすくめてそう説明した。
「言えない事情はいろいろあるんでしょうけど、相手が謝罪を受けたいと思っていないかもしれない」
権田くんが言いづらそうに視線を下げた。
「ああ。篤実は自分から行動を起こさない方がいいかもしれないな。お前が悪いのなら謝りたい気持ちはわかるけど、それは自己満足の世界だ。相手は別に何とも思っていないし、過去の事を掘り返したくないかもしれない」
心を見透かしてるみたいに龍はきっぱりと言う。
二人から言われた言葉が突き刺さる。藤原さんは別に気にしていないかもしれない。
それに過去の過ちは今更どうする事もできない。
「そうだね。うん。僕からは何も言わない。彼が望むなら謝罪でも何でもする。相手が話をしたいならちゃんと話もする……この間、藤原さんが僕と話をしたそうに感じたけど、逃げるように帰ってきてしまったから」
「突然だったんだ、てんぱるのは仕方がないだろう」
「そうですね」
二人は慰めてくれている。勿論藤原さんから連絡がこない可能性の方が大きい。
「心の準備はできたし、この先、彼に会う事があったら、僕も大人だしちゃんと向き合うよ」
僕の言葉に安堵したような空気が漂う。
イギリスで彼がどう過ごしていたのか知ることができた。
今度彼に会う機会があって、藤原さんが僕に自分たちの幸せな姿を見せたいのなら、幸せそうで良かったと普通に祝福できるだろう。
龍たちと話し合って、隠されていた自分の思いに気づかされた。今は何とも言えない充足感がある。これで前に進めると思った。
「あれだ、権田君は検索エンジンだな」
検索スキルの高い権田くんを龍が褒めた。
「万能の人だね」
僕も同意する。自分には関係のない相談に乗ってくれた権田くんに感謝した。
誰にでもできますと権田君は苦笑いした。
三人で検索すると、あらゆる情報を入手できた。
「分かったことはあれだな。メアリジェーンは結婚してすぐに離婚した。子供は前の旦那との子だ。んで藤原君は彼女のイギリスの実家、ジェラルド製菓の会長の家の庭師だった」
「藤原さんのいるガーデニング会社にジェラルド会長が依頼した。日本庭園が造れる人を探してたみたいだね。専属の庭師ってわけではない」
「ですね。イギリスでの仕事ぶりを買われた藤原さんに、今回日本の別荘の庭の設計を依頼した。SNSの写真を辿ったら、だいたいの二人の出会いの時期が分かります。彼女は恋人がいるとは書いてない。けれど藤原さんの造った庭の写真はたくさん載せてるし、彼の仕事の宣伝もメアリさん個人のSNSでめっちゃしてる」
「そうだな、庭を褒め過ぎってくらいに褒めてるな。子供を抱いてる男の写真もあるけど、皆外国人だ。日本人の写真はない。藤原君らしいのはある?」
龍は僕に確認した。
「藤原さんの写真はないかな」
「ざっと見ただけですけど、神吉さん。藤原さんを恋人だと紹介した文章は見つかりません。単純に仕事を介しただけの間柄ではないでしょうか。これだけ息子のビリー君を自慢している写真がたくさんあるんだから、もし恋人がいれば、恋人を自慢しないわけないと思います」
「いや、権田くん。そうやって篤実に期待を持たせるな。恋人がいても秘密にしてるかもしれない。それに海外では籍を入れない婚姻関係なんてざらにあるだろう」
「うん、大丈夫わかってる。彼女はセレブだから、もし次に誰かと結婚するとしても、離婚した時の莫大な慰謝料のことを考えると入籍してない可能性はある。その辺はちゃんと理解してるから」
「友達か、恋人か、内縁の妻か……その辺はっきりわかりませんね」
「昨日の感じからすると、お子さんも藤原さんにとても懐いていたから、ただの友人ではないと思う。愛し合っている恋人同士、それならそれで自分の気持ちの整理もつく気がする。心の準備もないまま昨日彼と会ってしまって焦ってしまった」
「次に会った時、恋人です!ってしょっぱな紹介されるより、ショックも少ないだろう」
ジェラルド製菓の仕事は終わったけれど、今後関わらないとは言い切れない。トラブルがあればメンテナンスも必要になるし、庭園と銅像はセットで依頼されることもある。藤原さんと顔を合わせる可能性は大いにある。
庭を案内すると言ってくれた時も『またの機会に』とはぐらかしたけど、この先実現してしまうかもしれない。
そう考えると事前に覚悟する事ができて良かった。
「でも……どうするんですか?」
「どうするってなんだよ?権田くん」
「いや、そのメアリジェーンさんが、藤原さんの恋人じゃなかったら神吉さんはどうするんですか?まだ彼の事が好きで未練がある。だから恋人になりたいって事ですよね?」
「恋人がいなければ藤原君にアプローチするんだよな?三年もの間ずっと忘れられなかった奴なんだろ。そりゃ当たって砕けろだ」
「……いや……違う」
目を閉じて深く息を吸い込んだ。
恋人になろうなんて思っていない。彼の事を好きな気持ちは変わらずあるけど……
「僕はまず、彼に謝りたいんだ。藤原さんの事をもてあそんだから」
ハッとした。龍たちと話しているうちに、自分の本当の思いに気づいた。
そうだ、僕は藤原さんに『あの時は申し訳なかった』と謝りたいんだ。
やっと心の中のモヤモヤした不快な感覚が晴れた気がした。
「え、神吉さんがもてあそんだんですか?」
驚いたように権田くんが目をぱちくりさせた。
「うん。どういう事情があるのか詳しくは言えないけど、多分そうだ。ただ男と体の関係を持った、経験の一つだと彼が感じてくれたんならいい。でもどちらかというと、僕の方が彼に無理強いして体の関係に持ち込んだ可能性の方が大きい。その時は自分でも気が付いてなかったんだ……だから謝罪したい」
わずかに肩をすくめてそう説明した。
「言えない事情はいろいろあるんでしょうけど、相手が謝罪を受けたいと思っていないかもしれない」
権田くんが言いづらそうに視線を下げた。
「ああ。篤実は自分から行動を起こさない方がいいかもしれないな。お前が悪いのなら謝りたい気持ちはわかるけど、それは自己満足の世界だ。相手は別に何とも思っていないし、過去の事を掘り返したくないかもしれない」
心を見透かしてるみたいに龍はきっぱりと言う。
二人から言われた言葉が突き刺さる。藤原さんは別に気にしていないかもしれない。
それに過去の過ちは今更どうする事もできない。
「そうだね。うん。僕からは何も言わない。彼が望むなら謝罪でも何でもする。相手が話をしたいならちゃんと話もする……この間、藤原さんが僕と話をしたそうに感じたけど、逃げるように帰ってきてしまったから」
「突然だったんだ、てんぱるのは仕方がないだろう」
「そうですね」
二人は慰めてくれている。勿論藤原さんから連絡がこない可能性の方が大きい。
「心の準備はできたし、この先、彼に会う事があったら、僕も大人だしちゃんと向き合うよ」
僕の言葉に安堵したような空気が漂う。
イギリスで彼がどう過ごしていたのか知ることができた。
今度彼に会う機会があって、藤原さんが僕に自分たちの幸せな姿を見せたいのなら、幸せそうで良かったと普通に祝福できるだろう。
龍たちと話し合って、隠されていた自分の思いに気づかされた。今は何とも言えない充足感がある。これで前に進めると思った。
「あれだ、権田君は検索エンジンだな」
検索スキルの高い権田くんを龍が褒めた。
「万能の人だね」
僕も同意する。自分には関係のない相談に乗ってくれた権田くんに感謝した。
誰にでもできますと権田君は苦笑いした。
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