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エピローグ

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優は林さんと家の近所を散歩していた。
ベビーカーには朝陽が乗っている。

道のガタゴト揺れが気持ちよかったのか、朝陽はいつのまにか寝てしまっていた。
温かくて柔らかい天使。この子には何の落ち度もなく、純粋で無垢な存在。そして無敵だ。

そら豆のようなぷくぷくした腕が、ブランケットをぐしゃぐしゃとかき抱いている。



「自然豊かで、美味しい空気と澄んだ水に囲まれてとても良い環境だね」

林さんは畑や山、流れる小川の水を見ながら優しく話しかけてくれた。

優はそうですねと相槌をうつ。


誰にも転居先を言っていなかったので、まさか彼が自分を見つけるとは思っていなかった。


「お兄さんの所にいるとは思っていなかった。まさに盲点を突かれた感じだ」

かなり優を捜してくれたのかもしれない。

きっと林さんは怒っているだろうと思っていたが、彼はとても穏やかに話をした。

「何も言わずに、逃げるようにここへ来てしまってごめんなさい」

優はうつむいた。



農道の先に白い軽トラックが1台停まっている。

田んぼでは幼稲が次々に分げつを出し、茎数を増やしている。

そんな場所で聞こえる音は、虫の声、風の音。

何もない場所で林さんの声は優の耳に低く 心地よくとどく。



「君が何を思っているのか、あの時、君が何を考えていたのか、あらゆる可能性を自分なりに考えた」

「……はい」

林さんは立ち止まって横を向くと、少しかがんで優をそっと抱きしめた。

「気づいてあげられなくてごめんね……」

優の目から涙が落ちる。




「僕と、結婚しよう」

止めようと思っても次から次へと涙が溢れ出してしまい、最後には子供のように泣きじゃくってしまった。

林さんはずっと優の頭を撫でながら。


「僕の子供を産んでくれてありがとう」

そう呟いた。



春の暖かな日射しを受けて、河面にうつる真っ白い雲がゆらゆらとほほ笑んでいた。







ーーーーーーーーーーー完ーーーーーーーーーーー
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みんなの感想(2件)

yuri
2022.10.27 yuri

二人が心から結ばれる展開だと嬉しいですね。
出産後切ないの体も心もボロボロになってしまうので…
早くしっかり結ばれてほしいです。

解除
HALU
2022.10.26 HALU

2人とも幸せになると嬉しいなぁ(*´ω`*)
優には悲しい決断よりも幸せになる未来の為の
決断をしてほしいなと願うばかりです✳

解除
1 / 5

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