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事件が起こったのかと思い、飛び降りて悲鳴の主を助けようと公爵はバルコニーから身を乗り出した。
が。
「すごいすごい! シャルム草が生えてるわ! こんな貴重な薬草が生えてるなんて、さすがは王宮ね!」
公爵は愕然とした。
先程のは悲鳴ではなく、歓喜の雄たけびだったと?
バルコニーから乗り出したままだったが、こちらはニ階ということもあり、庭園にいる女性たちには全く気づかれていない。
相変わらずガサゴソという音がするが、よくよく耳を澄ますとブチっという音も時折聞こえてくる。
「それにしてもここって自然の庭って風情だけれど、ちゃんと人の手が入ってるのね。土が柔らかくて引っこ抜きやすいわ」
一見無造作に、雑草が生えているようにも見える庭園だが、分かる者にはきちんと造園されていることが分かるのだな。公爵はそう思った。
(引っこ抜いてそれが分かるのもどうかと思うが……)
今度こそ夜会用のドレスを着た令嬢と、カンテラを持っているしかつめらしい服を着た侍女らしき女性が目に入る。
「そうは言いますがお嬢様。パーティなのにかがり火もなくて、暗くて寒くてついでに言うとひもじいです。この庭は自慢の庭園ってわけじゃないんですかねえ? もう戻りましょう。お身体が冷えてしまいます」
控え室に軽食が置かれているので早く戻りたいです。食べ損ねました。
侍女は一切の遠慮がなく、そう呟いた。
「暗くて寒くてひもじい……? どっかできいたような……眠くて寒くてひもじい、じゃなかった? いえ、それは雪山遭難だったわ。かがり火がたかれていないのは戦後でお金がないとか? 待って待って。もうちょっと摘ませて? このシャルム草はねえ、上級回復薬を作るのにとても良いのよ。でも難点があってね、ある特定成分に触れると一気に茶色く変質してしまうのだけれど……」
(摘む……というよりは、豪快に根ごと引き抜いていないか?)
飛び降りる機会を失った公爵は、令嬢のこの先の行動が読めず興味が湧いたため、乗り出していた身体を戻してそのまま彼女たちを観察することにした。
「あっという間の変質はとても面白い現象なのだけれど、そうならないようにシャルム草を扱うときはカンサオキゾ系の植物を直近で取り扱ってはならないのよ。大気中に漂う成分だけでも変質してしまうのだから厄介よねえ」
声が弾んでいて微笑ましい。夢中になると止まらなくなるのか。
侍女は慣れているのか聞き流すのが上手い。表情を全く変えずにウンウンと頷きながら、時折「そうなんですか」「なるほど」など、適切な箇所で相槌を打ってはいるが、明らかに棒読みだ。
二人の温度差が酷くて思わず苦笑してしまいそうになる。
しゃべりながらもチョロチョロと動き回る様は、まるで小動物のようで目が離せない。
かと思えば右に左にと意外な俊敏さで、ごそごそと茂みをかき分け引っこ抜いた草がたちまち両手いっぱいになっている。根のついたまま腕の長さほどもある草を鷲掴みにしている姿は、とても貴族の令嬢とは思えない。
草の始末をどうつけるのかと観察していると、なんとそれを無造作に、ドレスのポケットにわしゃわしゃと詰め込んでいくではないか。
(どれだけの数を引っこ抜いたんだ!)
見ると、ポケットは一つしかないのか、片側だけ不自然な形にドレスのスカート部分は膨らんでしまっており、ぎゅうぎゅうに詰め込んだのはいいものの、長さがあるため到底全部は入りきらず、緑色の先端がひょっこり顔を覗かせている。
はみ出た草が令嬢の動きに合わせゆらゆらと動くのを見て、公爵は吹き出しそうになった。
が。
「すごいすごい! シャルム草が生えてるわ! こんな貴重な薬草が生えてるなんて、さすがは王宮ね!」
公爵は愕然とした。
先程のは悲鳴ではなく、歓喜の雄たけびだったと?
バルコニーから乗り出したままだったが、こちらはニ階ということもあり、庭園にいる女性たちには全く気づかれていない。
相変わらずガサゴソという音がするが、よくよく耳を澄ますとブチっという音も時折聞こえてくる。
「それにしてもここって自然の庭って風情だけれど、ちゃんと人の手が入ってるのね。土が柔らかくて引っこ抜きやすいわ」
一見無造作に、雑草が生えているようにも見える庭園だが、分かる者にはきちんと造園されていることが分かるのだな。公爵はそう思った。
(引っこ抜いてそれが分かるのもどうかと思うが……)
今度こそ夜会用のドレスを着た令嬢と、カンテラを持っているしかつめらしい服を着た侍女らしき女性が目に入る。
「そうは言いますがお嬢様。パーティなのにかがり火もなくて、暗くて寒くてついでに言うとひもじいです。この庭は自慢の庭園ってわけじゃないんですかねえ? もう戻りましょう。お身体が冷えてしまいます」
控え室に軽食が置かれているので早く戻りたいです。食べ損ねました。
侍女は一切の遠慮がなく、そう呟いた。
「暗くて寒くてひもじい……? どっかできいたような……眠くて寒くてひもじい、じゃなかった? いえ、それは雪山遭難だったわ。かがり火がたかれていないのは戦後でお金がないとか? 待って待って。もうちょっと摘ませて? このシャルム草はねえ、上級回復薬を作るのにとても良いのよ。でも難点があってね、ある特定成分に触れると一気に茶色く変質してしまうのだけれど……」
(摘む……というよりは、豪快に根ごと引き抜いていないか?)
飛び降りる機会を失った公爵は、令嬢のこの先の行動が読めず興味が湧いたため、乗り出していた身体を戻してそのまま彼女たちを観察することにした。
「あっという間の変質はとても面白い現象なのだけれど、そうならないようにシャルム草を扱うときはカンサオキゾ系の植物を直近で取り扱ってはならないのよ。大気中に漂う成分だけでも変質してしまうのだから厄介よねえ」
声が弾んでいて微笑ましい。夢中になると止まらなくなるのか。
侍女は慣れているのか聞き流すのが上手い。表情を全く変えずにウンウンと頷きながら、時折「そうなんですか」「なるほど」など、適切な箇所で相槌を打ってはいるが、明らかに棒読みだ。
二人の温度差が酷くて思わず苦笑してしまいそうになる。
しゃべりながらもチョロチョロと動き回る様は、まるで小動物のようで目が離せない。
かと思えば右に左にと意外な俊敏さで、ごそごそと茂みをかき分け引っこ抜いた草がたちまち両手いっぱいになっている。根のついたまま腕の長さほどもある草を鷲掴みにしている姿は、とても貴族の令嬢とは思えない。
草の始末をどうつけるのかと観察していると、なんとそれを無造作に、ドレスのポケットにわしゃわしゃと詰め込んでいくではないか。
(どれだけの数を引っこ抜いたんだ!)
見ると、ポケットは一つしかないのか、片側だけ不自然な形にドレスのスカート部分は膨らんでしまっており、ぎゅうぎゅうに詰め込んだのはいいものの、長さがあるため到底全部は入りきらず、緑色の先端がひょっこり顔を覗かせている。
はみ出た草が令嬢の動きに合わせゆらゆらと動くのを見て、公爵は吹き出しそうになった。
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