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52. ナギくん

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 夜中、小屋を ドンドン 叩く音で目覚めた。

「パール、パールはいるか! 起きてくれ! マーク! マーク!起きてくれマーク! 」

 マークが慌てて戸を開ける。
 わたしも寝間着から簡単なワンピースに 素早く着替えて リビングにいくと、顔中 汗だくのカイルさんがマークから水をもらい飲んでいた。

「カイルさん、どうしたの? 」

 わたしを見るなり近寄ってきて 両腕をつかみ 跪く。

「たのむ!! どうかナギを オレの息子を助けてくれ! 」

 涙を溜めて…… つかんでいる腕も 痛い!

「カイルさん、落ち着いて。そんなに腕をつかんだらパールが腕を痛めるぞ! 」

 カイルさんが、ハッとして わたしの両腕を離してくれた。
 良かった。
 馬鹿力なんだから……

 マークがカイルさんを無理やり椅子に座らせて 話を聞く。
 だいたい わたしもマークも 想像がついていた。
 カイルさんの息子ナギくんの容態が よくないのだろう。

 マークの足が治ったことを知っているカイルさんにすれば 自分の息子も治るかも? っと思うよね。
 カイルさんは苦しそうに顔をしかめて話し出した。

「思っていたよりもナギの容態が よくなっていなかったんだ。 治療師もこれ以上はよくならないから 家でゆっくり養生するように……  いま あいつは 咳が止まらなくて苦しんでいるんだ! 嫁さんも泣いて…… 」

「パール助けてくれ! ナギを治してくれたら なんでもする!  待ってくれたら いくらだって 金も渡す!  だからたのむ!! どうか助けてくれ! 」

 はーっ、そうなるよね。
 わたしがカイルさんでも そうするよ。

「カイルさん落ち着いて、マーク いってくるよ」

「きてくれるのか!? 」

「カイルさん落ち着いて、ここは馬小屋でお屋敷とは離れているけど、騒ぎになって わたしの魔法のことを人に知られたくないの」

  ハッと 目を見開いて。

「わかった、すまん」

「カイルさんがこれじゃ 心配だ。おれもいくよ」

 マークも 一緒に 三人で、庭師の小屋に いくことにした。

 途中話しを聞くと いつも食事は奥さんが庭師の小屋に運んで二人で食べていたようで、どうりで会ったことがないはずだ。

 今日の夕飯のときまでは なんともなかったのに、夜中 急に 咳が止まらなくなって 苦しみ出したらしい。
 カイルさんには、マークのときもそうだか 完治はしていないから ナギくんも完全に治るとは 思わないでほしい。
 それでもいいか 聞いておいた。

「今よりも 良くなるなら それでいい!  よろしくたのむ!!」

「「しーーっ! 」」


 庭師の小屋の前から 咳が聞こえてきた。
 カイルさんとマークは 心配そうだが、わたしはホッとした。
 生きてる! これで 一先ず 安心だ!

 部屋の中に入ると 奥さんが、ナギくんの背中を さすっていた。

「ナギ。パールを、治療師を連れてきたぞ! もう大丈夫だ。 すぐに よくなる! 」

 奥さんにも下がってもらい、苦しそうだがナギくんには 仰向けに 寝てもらう。
 自分の後ろに椅子を用意してもらって マークのときのように 両手をナギくんの頭と胸らへんに かざす。
 みんなにもわかりやすいように声にだして唱える。

「どうか ナギくんの咳が止まり、からだが 正常に機能して  元気になりますように……   なおれっ!!  ヒール! 」

 両手を ナギくんのからだ全体にかざしていき 願いを込める。
 どこが どう悪いのか わからないから、全体を包むように ヒールをかけた。

 ナギくんのからだがマークのときのように キラキラ輝いて、光が ナギくんを優しく包み しばらくすると 最後に キラッと 光って、スッと 消えていった。

 様子を見ていた人たちは、口を ぽかーんと 開けて 目を丸くしていたが、わたしは やっぱり 立っていられなくて 後ろの椅子に ドカッと 倒れ込むように座り ボーッと していた。

 カイルさんが最初に ハッと 正気に戻って ナギくんのところに駆け寄って 声をかけていた。

「ナギ、大丈夫か? 咳は? 苦しくないか? 」

 ナギくんのお母さんも 慌ててナギくんのところにいくと 頬を両手で挟み 顔色を確認しながら からだは?咳は? っと 聞いていた。

 二人の勢いに押されていたが、ナギくんが 目を パチパチして手で 喉元を軽くおさえ それから……

「なんともない…… 苦しくないよ!? 」

 上半身を起こし 首を左右に倒して 不思議そうにしながら たずねてくる。

「ぼくの病気は 治ったの? 」

 うっ! お母さんがその言葉を聞いて、声をあげて 泣きだした。
 今度は、カイルさんが そんな奥さんを見て 大泣きだ!

 マークが復活して、わたしの椅子の横にきて 小声で聞いてくる。

「ナギは 治ったのか? 」

 わたしも気になって、チェリー に 聞いてみる。

( はい、ギリギリ レベルが 49 になりました。  一日 違っていたら 完治は難しかったでしょう。それに 今まで受けていた治療師は レベルが 24 あるか ないかという方ですね? だからパールのレベル49 でも完治できたと思います )

 じゃあ、カイルさんたちには ナギくんの病気は完治したと 伝えていいよね。

「はい、大丈夫です」

 よかった!
 さっそく、この吉報を みんなに伝えよう!

 簡単に考えてました……
 カイル家の 大泣き大会が 開催されました。

 隣のマークも あきらめ顔で 苦笑いしている。
 だるさもあって しばらくは椅子に座ったまま、仲のよい親子を ボーッと 見ていたのだけど……
 マークが 親指を ドアの外に クイックイッと 向けたので、頷いて 二人 そっと 小屋をでていく。

 外に出たところで マークが急にしゃがみ込んで……

「疲れただろう?さぁ、乗って!おんぶで帰ろう」

「いいよ、大丈夫だよ」

「そういわずに、お父さんに 甘えてくれよ ?   なっ? 」

「 …… 今日は  特別だよ…… 」

「おっ、それは ありがたいな!」


 マークの背中は あったかくて……

 なんだか 小さな笑い声も聞こえる気がする。
 心地よい揺れと 優しい声に誘われて……
 

 わたしはそのまま 夢の世界に旅立った……




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