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147. 初めてのメルの洞窟

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 シーナが答えをくれる。

「わたしたちは、これからいろいろ忙しくなるから、パールはいままで通りあそこでやっかいになっていなさい。 毎日マークをパールのところに通わせるからね」

 なんで?
 マークは、忙しくないの?
 
「マークはしばらくパールから離れないわよ」

 えっ?
 笑いながら告げる。

「ここにいても、パールのことが気になってまったく役に立たないわ。 しばらくマークの気が済むまで、あなたの側にいさせてちょうだい」

 それからこそっとソードに聞こえないように。

「あのライさんの家では、肩が凝ってわたしには無理ね」

 シーナが笑っていうと、聞いていたトムさんとトーマスもうなずいていた。

 マークが、わたしもここでいいじゃないかといいだした。

 たしかに……

 ソードにそう伝えようかと、顔を向けるとソードが話しだす。

「ここに大工を派遣するなら、泊まり込みにしますか? そのほうが早く済みますよ? 子どもが生まれる前にすべて整えて、営業はまず食堂だけにして、落ち着いてから宿屋を始めてもいいですね」

「そうだよ! シーナ! 子どもが生まれる前に整えないと! それに営業はまず食堂だけで、宿屋はゆっくりはじめたらいいよ!」

「おれもそれがいいと思うな。 無理はダメだぞ」

 マークが、シーナに言い聞かせている。
 トムさんとトーマスもうなずいていた。

「大工の男衆を数人泊まらせるなら、パールはこちらで寝泊まりしていたほうが安全ですね。 まさかまだ家が整ってないここで ひとりっきりというのもね、こちらにはパール付きの侍女が 二人いますし。 あっ 今もいますね。 この 二人、プラムとシルエラです。 それにマークがこちらにくるのなら男手を 二人ほどと、妊婦のシーナに侍女をひとり。 宿屋が整うまでこちらから出しましょう」

「えっ、ソード いいの? 助かるけど……」

「ええ、もともとはこちらでみなさんをみるつもりでしたから、大丈夫ですよ。 それよりパールは、これからの目標をマークたちに知らせているのですか?」

「あっ! まだだった……」

「パール。 目標とはなんだ? 聞いてないぞ!」

 マークが怒る前に、最近 決まったわたしの目標。

「冒険者で錬金薬師」

 すべて自分で、完結できるように、モナルダたちの弟子になったと伝える。

 シーナはモナルダなら安心だし、すごくいいことだとほめてくれた。
 マークも、うなずいている。

 やっぱり、モナルダにも会いにいってたんだ……

 だから当分は、この家とモナルダの家を行ったり来たりすることになるというとマークが聞いてくる。

「どうやって?」

「向こうの国の魔道具だよ」

 迷い人になってもらったのだと告げると、一瞬 目を大きくして、変わってしまったわたしの様子をしばらく観察するため、マークと行動を共にすることが決定した。

 シーナにはマークの代わりに、侍女がひとり付いてくれるので 一安心だ。

 どんな宿屋になるのか?
 また宿屋に戻って、みんなは話し合うみたい。

 わたしはここで侍女 二人に、この家について細かく質問されるから、みんなとは帰るまで別行動。
 着いた日の今日だけみんな、ライのところに泊まらせてもらうことになった。

 
  ♢♢♢


 あれからマークは毎日ライの家、わたしのところへ朝からやってくる。

 モナルダのところに、はじめて 二人乗りで向かうときは、大騒ぎになって大変だったけど、いまはみんな慣れたもんだ。
 
 ライはボードが 二人乗りだと分かった途端、自分も乗りたいと言い出す。

 まずは安全のためガントからとソードが告げ、そんなことをしなくてもおれがすぐに乗るとマークがいったり……
 もうだれでもいいから早くしてほしいのに、なんだかライとマークが張り合って、結局は中和役のソードが 一番に乗るというとライが……

「一番は、絶対おれだっ!!」

 権力でゴテ勝ちして 一番を奪い取り、後ろに乗っていた。
 でもマークに、家のまわりを 一周だけだと約束させられている。
 このボードにはガントとソードも乗りたそうだったので、マークに説明して順番で マークの次に 二人も家のまわりを 一周だけ乗せてあげることにした。
 なんだか、あの日はすごく疲れた……

 それからはマークとライが張り合うことはなくなったけど、モナルダのところに行くときには、まず始めになぜかライを少し後ろに乗せて、家のまわりを走らなければならない謎のルールができていた……

 だれもそこを触れないし、わたしもなんだか怖くて聞けない…… 

 相手は、お貴族様だからね。
 マークも黙っているから…… よけい不気味だ?

 店の改装も家の内装も、一ヶ月ほどで大かた完成した。
 相変わらずトムさんたちは、メニュー を決めたり食器を選んだり忙しそうだけど。
 まずは食堂の営業だけにして、宿屋の営業は落ち着いてからになるみたい。

 わたしの家もいい感じで、いつでも住めそうなのに、まだライのところにいる。

 マークも落ち着いてきて、わたしのことをだいぶ理解してくれた。
 シーナはまだ、赤ちゃんが生まれるまで 数ヶ月余裕がある。

 だから試しにメルの洞窟へ、日帰りで 一度潜ることになった。

 これにライが自分も行きたいといってたけど、ソードが止めてくれる。

 久しぶりにマークと 二人。
 朝早くから冒険する。

 万全の体制を整えるため、マークにもなにか魔道具…… 必要だよね?

「余分なモノに頼ってしまうのは、かえって危険だ。いままでどおりが 一番いい」

 断られてしまう。
 まぁ なにかあったら、わたしのヒールで治すけど……


  ♢♢♢


 初めてのメルの洞窟だ!

 マークは昔、何度も潜っているようで、安心してついていける。

 身体強化で、二人走りだす。
 これだけでも普通よりだいぶ速い。

「パール、この速さで大丈夫か?」

「うん、ぜんぜん平気! 向こうにいって、魔力も上がったんだっ」

「そうか……」
 
 ドンドン 進んで、草原にでてきた。
 ここには 空 もある。

「ここから先は、なにが出てくるかわからないからな。 気をつけるんだぞ!」

「うん。 でも、わたしは 薬草ハンター なんだけど……」

「ああ、わかっている。 おまえがどれだけ強くなったのか、確認するだけだ……」

 ふーっ もうこれはチャンスだと思おう!
 向こうの国で武器をいろいろもらってまだ試していない。
 よしっ 付き合ってもらうぞっ!

 まずは、マークに手のひらサイズの棒を見せ、これは 百メートル伸びて雷のような モノ が出せる魔道具だと説明する。

「まだ 一度も使ってないけどね」

「見ててやるから、おれの前で使ってみろ」

 チェリー が、百メートル先に シルバーウルフが 四匹いると教えてくれる。

 マークに伝えて風下から近づき、雷を 四回。
 シルバウルフの頭に向けて打つ。
 
「えいっ!」

 ピカンッ! ピカンッ! ピカンッ! ドッカーンッ!

 一瞬で、四匹 倒してしまった……

 すごい、威力!?
 
 マークが頭を抱えている……  アレっ?
 

 
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