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149. 冒険者登録

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 とうとう 十歳になった。
 これで、冒険者登録ができる。

 朝食のときライたちにそう伝えると、ソードが今日は無理だけど明日なら登録のときの試験もできるようにしておくといってくれた。

「んっ? 普通に登録じゃダメなの?」

「パールは普通ではないですからね、明日にしましょうか」

 そこへマークもやってきて話に加わり、ソードの言う通りだとうなずいている。
 
 なので明日は朝からギルドに登録試験を受けに行くことが決定した。
 マークが試験なら、わたしの苦手な『捌きの試験』があるはずだからウコッコぐらいは完璧に捌けるようにするため、トムさんのところへ習いに行くことに。

「パール、もう 一度おさらいだっ!」

「それならここの料理長に教えてもらったらどうですか?  ここのほうが食事をする人数が多いですから、捌ける数も多いですよ」

 ソードに提案されて、納得したマークがすぐお願いしていた。

 マークとガントが調理場へついてくる。
 料理長に調理場の 一角を借りて練習するようだ。
 忙しいのに、申し訳ない。

 ライとソードは執務室で、お仕事があるみたい。
 仕事は大事だからね。
 ガントもついてこなくて大丈夫だといったのに。

「イヤイヤ~」

 なんだか訳の分からない言葉でごまかされる。

 まずは試しに ウコッコを渡されて、みんなが見ている前で、緊張しながらなんとか 一羽捌く。

「う~んっ 冒険者としてなら、まあ なんだな…… ギリギリ及第点というところかぁ~?」

 ガントがちょっと苦笑い気味にそういってくれて、ホッとしたら料理長がダメだししてきた……

「これは、及第点なんかじゃありません。この捌き方を、わたしが教えたと思われるだけで鳥肌が立ちますよっ!」

 少~しだけ顔がヒクついている料理長が、別のウコッコを持ってこさせ、コツを教えてもらいながら、あと 六羽捌かされた。
 知らないあいだに、料理人たちが集まっている。
 料理長の基本の手ほどきというのは、貴重らしい。
 それを何度も聞けるのだから料理人たちは嬉しそう。
 だからなのか、気がつくと角ウサギが持ってこられていた。
 だれだよ~?!
 これも 一応、マークやトムさんから習っている。
 やっぱり 七匹捌くことになり、最後には ブータンがきて泣きそうになった……   いや、泣いた。
 

 そんな大変な予行練習のおかげで当日の試験、ウコッコと角ウサギを捌くことには、ぜんぜん迷いなく捌くことができた。
 最後、ブータンを捌くのは今回じゃなくてもよかったようだけど、この勢いで続けて試験を受けておく。

 もうこれでわたしが獲物を捌くのは最後だ!

 これからは魔道具を絶対使うと、心から思う。

 でも、この特訓で欲しい部位を願うときに、細かく指示ができるようになっていて、やっぱりやってよかったんだと後で知ることになる。
 なんでも経験なんだな……
 料理長に感謝だ!

 冒険者の等級はF級から始まってE、D、C、B、Aと進んでSまでなれる人は、ほんのひと握り。

 登録試験には戦うための実技試験もあるけど、Aランク以上の推薦者が 三人以上と。
 三十メートル向こうにある的に、武器でも魔法でも連続で 三つ当てたら合格になるという特別枠の試験だった。
 わかりやすい、火の玉ミニを 三つ飛ばしておく。

 強すぎる人や自分の戦い方を見せたくない人が利用する試験なようで、これで C級スタートになる。

 
 普通登録だけなら F級スタートだけど、これも半数以上が E級からのスタートだと、冒険者ギルドのマスター が教えてくれた。
 F級スタートから始まるのは、だいたい子どもの冒険者だそうで、ここにくる冒険者はそこそこ強い人が多いそうだ。
 教えてくれたギルドマスター はギルマスと呼ばれているムキムキの背が高めのドワーフさんだった。
 
 ライとガントとソードは A級らしく、三人の推薦で手続きがあっという間に借り登録から、C級のカードにかわる。
 
 ここからは、経験と実績で上がっていくようだけどわたしはこれで 十分。

「わたしは薬草ハンターだからこれでいいよ」
 
「ホーッ そうなのか? ここは薬草が少ないからな期待しているぞ!」

 笑いながら、バシッと背中を叩こうとしたのか、わたしのバリアに弾かれて、目を見開いて驚いていた。

「ギルマス、女性にはそう簡単に触れてはいけませんよ。 危険ですからね」

 ソードが クスクス笑いながら注意している。
 ガントもなにかを思い出したのか、大きくうなずいていた。
 マークはギルマスの様子におどろいて聞いてきた。

「パール、いまのは なんだ?  ギルマスが弾かれていたよな? もしかしてリングの魔道具か?」

「うん、そう。 これにはだいぶ助かっているよ、安全でしょ?」

 マークも苦笑いだ。
 なんとか冒険者の登録も完了!


 その日の夕食はライの家で、冒険者登録 C級スタートのお祝いと 十歳のお祝いを兼ねて 食事会を開いてくれた。

 マークやシーナ、トムさんにトーマスも全員きてくれる。
 なんだか辺境伯家を思い出してしまった……
 誕生日プレゼントも、みんなからもらう。
 
 ライからは、パールの髪飾り。
 繊細なおとなしめのデザインで、すごく気に入った。
 これはきっと、わたし付きの侍女プラムとシルエラの意見がだいぶ生かされているな…… わたし好みだ。
 ガントとソード 二人からは、鍋とフライパンを大量にもらう。
 これで当分困らない!
 トムさんとトーマスは、パンをいっぱい焼いて持ってきてくれた。
 すぐマジックバックに入れておく。
 シーナとマークからは前にも作ってもらった、夜に寝間着でもいざというときはその上から被ると 一瞬で着れて外に出れる服。
 背が伸びて前の服ではもう寝間着の上から着れなくなっていたからね。
 前の服より裾が長めになっている……
 あぁ シーナ。
 どうしても、寝間着で外には出したくないんだね。
 さすがだよ。
 シーナはやっぱりシーナだった……

 みんなにお礼を告げて、これから頑張って冒険者すると意気込みを伝えると、みんなが頑張らなくてもいいという。
 なんだかへんなの?

 その日はたくさんの笑顔に囲まれて、楽しい夕食になった。
 マークたちも今日はライの家に泊まらせてもらうので、各自遅くまで楽しんでいたみたい。

 シーナとわたしは サッサと切り上げ、今日は 二人で 一緒に寝ることにする。
 お風呂に入ってからシーナの部屋へ行く。
 久しぶりに ゆっくり二人でお話しができた。
 お腹を見せてもらったり、触らせてもらったりしてなんだかとっても不思議な感じ。

 それから、いままで会えなかった空白の 三年間のことを聞いたり話したりして、なんとなく辺境伯家に戻ったみたい……
 少しふっくらしたシーナが、キラキラ輝いてみえた。

 心が、スーッと 落ち着いていく感じがする。

 シーナはすごく幸せそうで、ニコニコしていて安心だよ。

 それに ほんのちょっと だけど……

 お母さんみたい…… だな……
 
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