上 下
206 / 221

206. わたし好みのおもちゃ?

しおりを挟む
 夫婦で来た ガーべ商会。

 夫のフレーさんと、妻のベルさんはわたしの様子に戸惑っているようだった。

 特に、男性のフレーさんはわたしの反応が思っていたものと違うので、おどろいているのが伝わってくる。

 これまでは 赤ちゃんのモノをと言われても、その家のきょうだいを事前に調べ、その子のよろこびそうなモノを 一緒に用意して、先に子どもをよろこばせていたのかな?
 そのあと家の人と和やかに交渉をまとめる。

 でも、わたしには通用しなかったから焦っている感じが ヒシヒシ と伝わってくる。

 ガントに何も言わず、ブレンダと部屋に置いてあるおもちゃを見て回る。

 あーーっ 思っていたのと違う、困った。

 なのに……
 みんながわたしの後をついてきた。

「どうしよう……」

 つい、つぶやいてしまった声を、ブレンダとライが拾ったみたいで……

「ソード! 喉が渇いた休憩するぞ」

 ライの言葉に、ソードがうなずく。

「パール? そうだ。 リンゴのパイでも食べるかい?」

 ブレンダの誘いにも、うなずいてしまう……

 サッと、テーブルのおもちゃが下げられリンゴのパイと香りのよいお茶が用意される。

 商会の人には、一旦下がってもらった。

 ああ……

 男性の方は、肩を落として部屋からでていく。
 女性が最後に何かを サッと カバンから出しておもちゃの端の方に置いて去っていった。

 わたしのおやつ休憩のために?……  フゥ。

「さあ、パール。 気にせずゆっくり食べてください」

 ソードの言葉に思わず……

「ごめんね……」

「なんだ? パールは、腹が減っていたのか?」

 ガントめ……

「ハァー ガント、あんたはホントに変わってないね……  パール? 気に入ったのがないなら、そう商会に言ってもいいんだよ」

「えっ?! そうなの? こんなに持ってきてくれたのに……」

「やっぱり、そうか……」

 ライがあの商会には帰ってもらうよう、ソードに告げる。

「待ってソード! もう少しパイを食べたらおもちゃを全部見てみたい。 それからでもいいでしょう? ねっ ライ」

「ああ、パールの好きにしたらいいぞ」

「よかった」

「でも パール。 なにがダメなんだ? すべて豪華で、いいモノだと思うぞ?」

「うん、そうなんだけどねガント……  全部、おとな目線のモノばかりなんだよ」

「「「おとな目線?」」」

「うん。 おとながこんなのを、子どもにあげたって人に言うときに自慢できるモノ? かな……    わたしはね、テオがいまよろこんでくれるモノをあげたいんだよ。 ここのモノは豪華すぎだし、子どもが使いづらいモノが多いと思うよ」

「なるほどな……」

「パール。 そうしたらどんな商会を呼んでもパールが気にいるモノはないかもしれないね?」

「お金を払うのはおとなで、赤ちゃんは喋れません。パールが言うおとな目線のモノに、どうしてもなってしまうんですよ」

「そうか……」

「もういっそのこと、パール好みのおもちゃを作ってもらうかい?」

 ブレンダが突然、提案してきた。

「パール? もし作ってもらうなら、どんなモノにするのですか? この前の水着の件がありますからね、先に教えておいてくださいよ」

 ソードに聞かれて、考えた……

 赤ちゃんが使うもの……

(チェリー? 赤ちゃんが使うもので、何かいいモノはない?)

(はい、多数あります。 赤ちゃんを乗せて移動するモノからラトルまでいろいろです)

 頭に浮かぶ映像に、なんとなく懐かしさも感じる…… ちょっと、思いだしたかも?

 まずは、ラトルかな? 
 積み木もいいな?
 赤ちゃんを乗せて移動するこれはまだ、ちょっと……

 あーーっ 

 どうしよう?

「どうですか、なにかありますか?」

「ソード先にこの中のモノを、もう 一度みてもいい?」

 ソードがうなずいてくれた。

 商会の人がいないから、気兼ねせず確認することができる。

 宝石のついた、一応切れない剣と盾。
 小馬の剥製は、問題外!
 人形も数個あるけど……
 宝石箱に、アクセサリー まで?

 だれのおもちゃなんだか……

 あっ!

 女性が最後置いて帰ったあたりに、一つまわりとは違ったモノがある?!

 あれって……

 小さな ゆりかご?
 お人形用かな?

 ハッ!? これだっ!!

 見つけた!
 木の木目を生かした温かみのあるゆりかごだよ!
 
「ブレンダ、あのゆりかごをこっちに持ってきて!」

「ゆりかご? これは 初めて見るね? ソードは、どうだい?」

「ええ、わたしも初めてですよ。 他のに比べて少し地味ですが、木目はキレイですね。 パール、これが気に入ったんですか?」

「うん、これがいい! このゆりかごが気に入った!」

 近くに持ってきてもらったら、よくわかる。
 キレイに磨いてあるし、丹念な仕事だよ。

 赤ちゃんが寝るところも、丁寧にできている。

 やっと見つかった!
 
「このゆりかごを赤ちゃん用に大きく作ってもらって、ラトルをつけて渡そうかな?」

「ラトルとは何ですか、パール?」

「ああ、赤ちゃんが持つおもちゃで ガラガラ 音が鳴るモノもあるから、ガラガラって呼ばれたりするんだけと知らない?」

「知りませんね? それをついでに作ってもらって、一緒に渡すのですね」

 紙とペンにインク瓶がでてきて、すぐに絵を描かされた。

「なんだ、よく赤ん坊が木のカケラを持ってたりする、アレか?」

「そうだよ! ガント! もうそういうのがあるんだね」

「いやいや、ないぞ! ただ、木のカケラは見るけどそんなおもちゃは、見たことないな!」

「そうですね。 これは、盲点です」

「こう、いろいろ書かれてしまうと、すべて商品になってしまいそうですね……  パール? どれを、テオに渡すか 二つ決めてください。 それだけを商会には、見せますからね」

 えーっ! どうしよう?

「できるか、聞きたい形があるんだけど…… いい?」

「どんな形ですか、さあ、書いてくださいね」

 まずはソードたちと相談して、輪っかにくり抜く形がひとつ。
 もうひとつは、棒状で赤ちゃんが握れる幅で、その両端が赤ちゃんの口に入りきらない大きさの丸い形になっているモノ。
 
 軽く、できるだけ軽く。
 そして丈夫で ツルッと 安全に作ってもらう。

「これなら、そう高いものでもありませんし誰でも真似できます。 商会の独占にはならないし大丈夫でしょう」

「ソード、それは甘いよ。 これは流行る……それも両方にね! 貴族は初めて作ったところのモノを欲しがるから、それを見て平民もだよ。 これでここの商会は 一躍きっと、赤ちゃん商品の商会で有名になるだろうね!」

 ソードが顔を手で覆っている。

「でも、ホントにこのゆりかごは丁寧に出来ていると思うよ! わたし好みに作ってもらうときには、職人さんと直に話したいかな?」

「パール好みとは?」

「うん、 安全第一で、使いやすいモノかな?」

 ソードにわたし好みの絵も描かされた。

 よほど水着で懲りたのか?

 みんなが 笑っている。

 なぜかな??

 なんだかちょっと 楽しそうなんだけど……

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,329pt お気に入り:1,651

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,831pt お気に入り:16

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,501pt お気に入り:1,299

雑「話」帳

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

クリスマスの日、夫とお別れしました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,035

飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,805pt お気に入り:408

処理中です...