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2章 リヒト
9話
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「それで手伝ってほしいことって?」
真理子が言う。
一応それが名目。人の家に上がり込んだ以上、自分の仕事をしないといけない。
「ああ……。何にしようかな」
「なかったの!?」
「そうだな。じゃあ、買い物に付き合ってくれ」
「買い物?」
「スーパーでオリーブオイルがお一人様一点限りの特価なんだ」
「なにそれ、完全に主夫じゃん」
一人暮らしでオリーブオイルが二つも必要なのか。真理子は気づかなかった。
こうして二人は近所のスーパーにいくことになった。
制服姿の二人で買い物。ちょっと恥ずかしい気もするけれど、これはあくまでのヘルプ。頼まれたからやってるだけと、真理子は自分に言い聞かせる。
「自分で何でもやるの、すごいね」
「別に普通だろ。やらないと生活できないし」
「どうだろ。一人暮らししても、何もできない気がする……」
「意外だな。なんでもできそうな感じするのに」
なんでもできそう。
それは真理子が学校において作り上げた幻影。
けれど、実際の真理子はそうじゃない。できないことを陰の努力でできるようにしている。
やはり得手不得手は感じていて、頑張れば何でもできる、というのは難しかった。理屈っぽさが邪魔して、感性が必要なものはちょっと苦手。できるように見せかけているものも多かった。
「なんもできないよ……。料理もからっきしだし」
「家じゃ作らせてもらえないんだっけ。それじゃ作ってくか?」
「え、いいの?」
「好きにしていいぞ。代わりに作ってくれるなら大歓迎だしな」
家では母の許しの得たものしかできない。料理は学校で練習する機会はあまりないので、どうしても苦手になってしまう。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……」
何か新しいことができるようになって、さらに頼られる存在になる。それが真理子の生きがい。
料理を覚えられたらうれしいけれど、それだけじゃないかもしれない。
志田と料理できると思うと、不思議とワクワクした。
「じゃあ、決まりだ。二人分の食材を買って帰ろう」
「でも、ほんとにいいの? 迷惑なんじゃ?」
「料理って一人分作るのって効率悪いんだよ。一人も二人も手間は同じ。それに人と食べる飯はうまいしな」
それは何気ない、志田の率直な感想なのかもしれない。
でもその言葉は真理子に効く。
「そっか、ありがと……」
二人でご飯を食べてうれしかったのは自分だけじゃなかった。それがうれしい。
おうちで楽しく食べる、そんな小さいことが真理子にはとっても貴重だった。
「何作りたい? 料理道具はそろってるから、調べりゃ何でも作れるぜ」
「んー。カツシチュー以外かな」
「なんだと! こいつめー!」
真理子の冗談に、志田は真理子の頭を掴み、髪をくしゃくしゃにした。
真理子が言う。
一応それが名目。人の家に上がり込んだ以上、自分の仕事をしないといけない。
「ああ……。何にしようかな」
「なかったの!?」
「そうだな。じゃあ、買い物に付き合ってくれ」
「買い物?」
「スーパーでオリーブオイルがお一人様一点限りの特価なんだ」
「なにそれ、完全に主夫じゃん」
一人暮らしでオリーブオイルが二つも必要なのか。真理子は気づかなかった。
こうして二人は近所のスーパーにいくことになった。
制服姿の二人で買い物。ちょっと恥ずかしい気もするけれど、これはあくまでのヘルプ。頼まれたからやってるだけと、真理子は自分に言い聞かせる。
「自分で何でもやるの、すごいね」
「別に普通だろ。やらないと生活できないし」
「どうだろ。一人暮らししても、何もできない気がする……」
「意外だな。なんでもできそうな感じするのに」
なんでもできそう。
それは真理子が学校において作り上げた幻影。
けれど、実際の真理子はそうじゃない。できないことを陰の努力でできるようにしている。
やはり得手不得手は感じていて、頑張れば何でもできる、というのは難しかった。理屈っぽさが邪魔して、感性が必要なものはちょっと苦手。できるように見せかけているものも多かった。
「なんもできないよ……。料理もからっきしだし」
「家じゃ作らせてもらえないんだっけ。それじゃ作ってくか?」
「え、いいの?」
「好きにしていいぞ。代わりに作ってくれるなら大歓迎だしな」
家では母の許しの得たものしかできない。料理は学校で練習する機会はあまりないので、どうしても苦手になってしまう。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……」
何か新しいことができるようになって、さらに頼られる存在になる。それが真理子の生きがい。
料理を覚えられたらうれしいけれど、それだけじゃないかもしれない。
志田と料理できると思うと、不思議とワクワクした。
「じゃあ、決まりだ。二人分の食材を買って帰ろう」
「でも、ほんとにいいの? 迷惑なんじゃ?」
「料理って一人分作るのって効率悪いんだよ。一人も二人も手間は同じ。それに人と食べる飯はうまいしな」
それは何気ない、志田の率直な感想なのかもしれない。
でもその言葉は真理子に効く。
「そっか、ありがと……」
二人でご飯を食べてうれしかったのは自分だけじゃなかった。それがうれしい。
おうちで楽しく食べる、そんな小さいことが真理子にはとっても貴重だった。
「何作りたい? 料理道具はそろってるから、調べりゃ何でも作れるぜ」
「んー。カツシチュー以外かな」
「なんだと! こいつめー!」
真理子の冗談に、志田は真理子の頭を掴み、髪をくしゃくしゃにした。
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