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2章 リヒト
10話
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結局、二人でハンバーグを作ることになった。
真理子は難しそうだからと言ったが、志田は簡単だと主張し、ハンバーグに決定。
ハンバーグはご馳走だからおいしく作るのは大変ってイメージだったけど、志田の言うようにすごく簡単だった。
志田は手際もよかったし、教え方もうまかった。
不器用でトゲが出るところもあるけれど、悪意がないとわかっていると別に何も気にならない。自分のことを思って言ってくれてるんだから、むしろうれしい。
そして、もちろん二人で食べるハンバーグは最高だった。
「ライン交換しとくか。次、何作るか決めないといけないしな」
「あ、うん」
男子とライン交換。ちょっと恥ずかしいけど、この不思議な料理会を次もやれるのはすごくうれしかった。
「そういえば志田くん、下の名前なんて読むの? り、りっとー?」
ラインには「志田利等」と表示されている。
「リットーな……。そんな水が1リットルみたいな名前あるかよ」
「ご、ごめん!」
「冗談だって。普通、読めないよな。一応、『リヒト』が正解」
「そうだったんだー!」
「アホな親が変な名前つけたんだよ。水が1リットルぐらいしょうもない」
「えー、そんなことないんじゃない?」
「ドイツ語で『権利』の意味。英語だと『ライト』だな」
「あー……」
すごく真面目でかっこいい名前、だと思う。
でも、法律的な結婚をしないと決めた志田の両親がつけた名前と思えば、なるほどって思ってしまう。
「利が等しい。人は法の下に平等だから『権利』、というのはおかしくないけど、仰々しい名前だよな。まあ、好きに呼んでくれ」
「えー、立派な名前だと思うけどな」
「そうか?」
「うん、私はいいと思う。リヒトってかっこいいよ。志田くんっぽいし、響きもいいし」
「ははっ。名前を呼ばれると照れるな」
「あっ……」
気づかぬうちに男子を下の名前を呼んでいた。
個人的にはリヒトという名前はすごくいいと思う。そのフレーズのかっこよさ、重さに、志田くんなら耐えられる。
「アユザワは……」
「実はアユザワじゃなくてアイザワなの」
志田の言葉を遮って言う。
普段黙っているけれど、今なら本当の名前を言ってもいいと思った。
「え? マジか。みんなアユザワって呼んでんじゃん」
「よく間違えられるから、もうそれでいいかなって」
「ふーん。名前に関しては人のこと言えないけど、主張すべきところはちゃんと言ったほうがいいぞ」
「そうだね」
確かに志田の言う通りかもしれない。
クラスメイトのノートを運ぶよう頼まれたときも、ただ受け入れるだけじゃなくて、「一人手伝ってほしいんですけど」とか言ってもよかったんだ。
なんでも受け入れてしまいがちと反省。
「アユザ……アイザワはアイザワらしい名前だよな」
「それもよく言われる。真理(しんり)、だからね。真面目すぎる」
「嫌いか?」
自分の名前を好きじゃない、あきれているといった、真理子のトーンを読み取ったのか、志田が真面目な感じで言った。
「昔は好きだったけど……今はそんなにかな」
真理子。自分を体現するかの名前。
みんなもそう言ってくれる。
それをくれた母の異常性に気づくまでは好きだった。でも、今は自分を縛り付けている感じがする。だから、そんなに好きじゃない。
「なら、名前変えたら?」
「ええっ!?」
「戸籍上は名前すぐ変えられないけど、名乗るのは自由だろ?」
「そ、そうだけど……」
なんて名前ならいいか、考えてみたけれどすぐには思いつかなかった。
「うーん……。といって可愛い名前も似合わないしなあ」
「確かに」
「ちょっ!? 今の否定するところ!」
「別に否定するところじゃないだろ。俺は真理子って名前、好きだけどな」
ドキッ!!
急に下の名前を呼ばれ、しかも好きと言われてしまっては、口から心臓が出てもしょうがない。
「変なこと言わないでよ! 全然よくないし! あっ、もうこんな時間だ早く帰らないと!」
志田の顔を見ていられなくなり、真理子はカバンを掴んで、志田の家を飛び出してしまった。
真理子は難しそうだからと言ったが、志田は簡単だと主張し、ハンバーグに決定。
ハンバーグはご馳走だからおいしく作るのは大変ってイメージだったけど、志田の言うようにすごく簡単だった。
志田は手際もよかったし、教え方もうまかった。
不器用でトゲが出るところもあるけれど、悪意がないとわかっていると別に何も気にならない。自分のことを思って言ってくれてるんだから、むしろうれしい。
そして、もちろん二人で食べるハンバーグは最高だった。
「ライン交換しとくか。次、何作るか決めないといけないしな」
「あ、うん」
男子とライン交換。ちょっと恥ずかしいけど、この不思議な料理会を次もやれるのはすごくうれしかった。
「そういえば志田くん、下の名前なんて読むの? り、りっとー?」
ラインには「志田利等」と表示されている。
「リットーな……。そんな水が1リットルみたいな名前あるかよ」
「ご、ごめん!」
「冗談だって。普通、読めないよな。一応、『リヒト』が正解」
「そうだったんだー!」
「アホな親が変な名前つけたんだよ。水が1リットルぐらいしょうもない」
「えー、そんなことないんじゃない?」
「ドイツ語で『権利』の意味。英語だと『ライト』だな」
「あー……」
すごく真面目でかっこいい名前、だと思う。
でも、法律的な結婚をしないと決めた志田の両親がつけた名前と思えば、なるほどって思ってしまう。
「利が等しい。人は法の下に平等だから『権利』、というのはおかしくないけど、仰々しい名前だよな。まあ、好きに呼んでくれ」
「えー、立派な名前だと思うけどな」
「そうか?」
「うん、私はいいと思う。リヒトってかっこいいよ。志田くんっぽいし、響きもいいし」
「ははっ。名前を呼ばれると照れるな」
「あっ……」
気づかぬうちに男子を下の名前を呼んでいた。
個人的にはリヒトという名前はすごくいいと思う。そのフレーズのかっこよさ、重さに、志田くんなら耐えられる。
「アユザワは……」
「実はアユザワじゃなくてアイザワなの」
志田の言葉を遮って言う。
普段黙っているけれど、今なら本当の名前を言ってもいいと思った。
「え? マジか。みんなアユザワって呼んでんじゃん」
「よく間違えられるから、もうそれでいいかなって」
「ふーん。名前に関しては人のこと言えないけど、主張すべきところはちゃんと言ったほうがいいぞ」
「そうだね」
確かに志田の言う通りかもしれない。
クラスメイトのノートを運ぶよう頼まれたときも、ただ受け入れるだけじゃなくて、「一人手伝ってほしいんですけど」とか言ってもよかったんだ。
なんでも受け入れてしまいがちと反省。
「アユザ……アイザワはアイザワらしい名前だよな」
「それもよく言われる。真理(しんり)、だからね。真面目すぎる」
「嫌いか?」
自分の名前を好きじゃない、あきれているといった、真理子のトーンを読み取ったのか、志田が真面目な感じで言った。
「昔は好きだったけど……今はそんなにかな」
真理子。自分を体現するかの名前。
みんなもそう言ってくれる。
それをくれた母の異常性に気づくまでは好きだった。でも、今は自分を縛り付けている感じがする。だから、そんなに好きじゃない。
「なら、名前変えたら?」
「ええっ!?」
「戸籍上は名前すぐ変えられないけど、名乗るのは自由だろ?」
「そ、そうだけど……」
なんて名前ならいいか、考えてみたけれどすぐには思いつかなかった。
「うーん……。といって可愛い名前も似合わないしなあ」
「確かに」
「ちょっ!? 今の否定するところ!」
「別に否定するところじゃないだろ。俺は真理子って名前、好きだけどな」
ドキッ!!
急に下の名前を呼ばれ、しかも好きと言われてしまっては、口から心臓が出てもしょうがない。
「変なこと言わないでよ! 全然よくないし! あっ、もうこんな時間だ早く帰らないと!」
志田の顔を見ていられなくなり、真理子はカバンを掴んで、志田の家を飛び出してしまった。
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