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9章 家族
38話
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結果からいうと、椎木は実家に戻った。
といっても、川上の家を緊急避難のシェルターとして往復している模様。
アイラ、大輔、瑠璃、それぞれがそれぞれの思いを知って、心のつながりはできたんだろうけど、すぐに元通りというわけにはいかないみたいだった。
すれ違いはあったけど、根が悪い人たちじゃないから、いずれはちゃんとした家族になれるはずと真理子は思った。
「え? 付き合うことになったの!?」
お昼休み、真理子が志田とお弁当を食べていると、椎木と川上がやってきて、突然お付き合い報告をしたのだった。
「変かな?」
川上が言う。
「ううん、そんなことない! すごくお似合いだと思うよ!」
意外な組み合わせだけど、真理子的には非常に納得がいっている。
世話焼きたがりの父性いっぱいの川上。そして、飛び出してもちゃんと帰って来る甘え上手の椎木。
「ありがとう。これもアイザワさんのおかげだよ」
「そ、そうなのかな……?」
真理子としては、自分の偽りの姿でだまして申し訳なかったという思いが強い。
「思っているだけじゃダメで、欲しいなら自分で掴みにいかないとって気づいたんだ」
「うん、わかる気がする」
これは嫌だから逃げたい。ホントに逃げたいなら逃げればいい。これは好きだから欲しい。ホントに欲しいなら掴めばいい。
思ったことは自分で動かないと変えられないのだ。
「なに、つまんないこと言ってんの?」
椎木が話に混じってくる。
「そんなの当たり前じゃん。自分の好きような生きるだけでしょ?」
「あなたは自由すぎ! 周りの迷惑も考えて!」
そこで笑いが起こる。
別に椎木の生き方が嫌いなわけじゃない。流れに身を任せてみたいと思うけれど、なかなか実行できない。
何も考えず、自分の欲望のままに生きているようで、椎木は椎木なりに考えて生きている。気を遣ってしまうから、迷惑をかけまいと思ってるから、一人でどこかに消えてしまうのだ。
それが逆に迷惑だったからあんな事件になったわけだけど。
「アイザワ、日曜日空いてるか?」
「うん、空いてるけどどうしたの?」
「いろいろあったから、父さんに報告しておこうと思って」
「うん、それがいいと思うよ。って私も?」
「ああ、一緒に来て欲しいんだ」
一難去ってまた一難、というのだろうか。
真理子に新たな試練が襲いかかる。志田が父親に会うのでついてきてほしい、というのだ。
「う、うん……。私でよければ……」
それは彼女を親に紹介する、という人生のステージの一つ。
自分が家族として認められているから誘ってくれているので、なんとしても応えなきゃいけなかった。
「ああ、お前でなきゃダメなんだよ」
志田としては自然なつもりで言ったのかもしれないけど、真理子にはクリティカルヒット。頭を撃ち抜かれてしまう。
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします!」
「はあ? まあ、あんまり気を張らないでいいから。たいした人じゃない」
「たいしたことないって……志田くんのお父さんだよ! すごく大切だよ!」
「そ、そうか……?」
志田はまったく理解できないといった感じ。
確かに自分の親をすごいっていう人はあまりいないと思う。真理子も自分の親には敬意を払わなくていい、って絶対に言う。
お店は志田の父、洋平が予約してくれていた。
ホテルにあるレストランのようで、高校生には高級すぎてちょっと気が重い。
志田の話によると、洋平は会社のおえらいさんらしい。子供に家と生活費を与えて別居しているのだから、当然お金持ちというわけだった。
そんな場所にみすぼらしい格好でいけない。ホントはドレスでも着てきたいところだけど、家出少女にはとうてい不可能だった。
「はあーー」
「なにため息ついてんだ?」
「み、見てたの!?」
「呼んでも返事がないから」
手持ちの服を全部床に広げて悩んでいるところを、志田に目撃されてしまっていた。
服はある程度、真理子の父が気を利かせて送ってくれていた。しかし、どれも女子高生らしいカジュアルなものばかり。
真理子は父とは少しやりとりするようになったけど、母とは完全に遮断していた。これまでのことがねじれすぎて、話せばわかるような簡単なものじゃない。
「買いに行くか」
「お金ないよ……」
「それぐらい買ってやるって。俺も買うものあるし」
「悪いよ」
「気にするなよ、好きなことに使えるようにバイトしてるんだからな。それに、悪いと思ってんならバイトしろ」
「はい……」
何も言い返せない。
バイトしようとは何度も思っていたけれど、いろいろありすぎて後回しになっていた。これが終わったら絶対やると心に決める。
といっても、川上の家を緊急避難のシェルターとして往復している模様。
アイラ、大輔、瑠璃、それぞれがそれぞれの思いを知って、心のつながりはできたんだろうけど、すぐに元通りというわけにはいかないみたいだった。
すれ違いはあったけど、根が悪い人たちじゃないから、いずれはちゃんとした家族になれるはずと真理子は思った。
「え? 付き合うことになったの!?」
お昼休み、真理子が志田とお弁当を食べていると、椎木と川上がやってきて、突然お付き合い報告をしたのだった。
「変かな?」
川上が言う。
「ううん、そんなことない! すごくお似合いだと思うよ!」
意外な組み合わせだけど、真理子的には非常に納得がいっている。
世話焼きたがりの父性いっぱいの川上。そして、飛び出してもちゃんと帰って来る甘え上手の椎木。
「ありがとう。これもアイザワさんのおかげだよ」
「そ、そうなのかな……?」
真理子としては、自分の偽りの姿でだまして申し訳なかったという思いが強い。
「思っているだけじゃダメで、欲しいなら自分で掴みにいかないとって気づいたんだ」
「うん、わかる気がする」
これは嫌だから逃げたい。ホントに逃げたいなら逃げればいい。これは好きだから欲しい。ホントに欲しいなら掴めばいい。
思ったことは自分で動かないと変えられないのだ。
「なに、つまんないこと言ってんの?」
椎木が話に混じってくる。
「そんなの当たり前じゃん。自分の好きような生きるだけでしょ?」
「あなたは自由すぎ! 周りの迷惑も考えて!」
そこで笑いが起こる。
別に椎木の生き方が嫌いなわけじゃない。流れに身を任せてみたいと思うけれど、なかなか実行できない。
何も考えず、自分の欲望のままに生きているようで、椎木は椎木なりに考えて生きている。気を遣ってしまうから、迷惑をかけまいと思ってるから、一人でどこかに消えてしまうのだ。
それが逆に迷惑だったからあんな事件になったわけだけど。
「アイザワ、日曜日空いてるか?」
「うん、空いてるけどどうしたの?」
「いろいろあったから、父さんに報告しておこうと思って」
「うん、それがいいと思うよ。って私も?」
「ああ、一緒に来て欲しいんだ」
一難去ってまた一難、というのだろうか。
真理子に新たな試練が襲いかかる。志田が父親に会うのでついてきてほしい、というのだ。
「う、うん……。私でよければ……」
それは彼女を親に紹介する、という人生のステージの一つ。
自分が家族として認められているから誘ってくれているので、なんとしても応えなきゃいけなかった。
「ああ、お前でなきゃダメなんだよ」
志田としては自然なつもりで言ったのかもしれないけど、真理子にはクリティカルヒット。頭を撃ち抜かれてしまう。
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします!」
「はあ? まあ、あんまり気を張らないでいいから。たいした人じゃない」
「たいしたことないって……志田くんのお父さんだよ! すごく大切だよ!」
「そ、そうか……?」
志田はまったく理解できないといった感じ。
確かに自分の親をすごいっていう人はあまりいないと思う。真理子も自分の親には敬意を払わなくていい、って絶対に言う。
お店は志田の父、洋平が予約してくれていた。
ホテルにあるレストランのようで、高校生には高級すぎてちょっと気が重い。
志田の話によると、洋平は会社のおえらいさんらしい。子供に家と生活費を与えて別居しているのだから、当然お金持ちというわけだった。
そんな場所にみすぼらしい格好でいけない。ホントはドレスでも着てきたいところだけど、家出少女にはとうてい不可能だった。
「はあーー」
「なにため息ついてんだ?」
「み、見てたの!?」
「呼んでも返事がないから」
手持ちの服を全部床に広げて悩んでいるところを、志田に目撃されてしまっていた。
服はある程度、真理子の父が気を利かせて送ってくれていた。しかし、どれも女子高生らしいカジュアルなものばかり。
真理子は父とは少しやりとりするようになったけど、母とは完全に遮断していた。これまでのことがねじれすぎて、話せばわかるような簡単なものじゃない。
「買いに行くか」
「お金ないよ……」
「それぐらい買ってやるって。俺も買うものあるし」
「悪いよ」
「気にするなよ、好きなことに使えるようにバイトしてるんだからな。それに、悪いと思ってんならバイトしろ」
「はい……」
何も言い返せない。
バイトしようとは何度も思っていたけれど、いろいろありすぎて後回しになっていた。これが終わったら絶対やると心に決める。
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