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9章 家族
39話
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そして、日曜日となった。
真理子はこの日のために買ったシックな黒ドレスで決戦に望む。
「おいおい、別にボスと戦うわけじゃないぞ」
「わかってるよ! 緊張してるだけ!」
レストランに先に入り、洋平を待っていたが、真理子がそわそわしていたので、志田なりのジョークで和ましてくれる。
しばらくして、メガネをかけたスーツ姿の男性が近づいてくる。
「すまない、待たせたな」
休みの日なのに今日も仕事だったらしい。
当たり前だけど洋平はすごく志田に似ていた。背が高くてきりっとしている。そして知的で気難しそうに見える。
「こちら、アイザワさん」
「あ、鮎沢真理子です! よろしくお願いします!」
「志田洋平です、よろしく」
簡単な挨拶をかわす。
二人が付き合っていて、一緒に暮らしていることはすでに志田から伝えてあった。だから、特段この状況に洋平は驚いたりしない。
けれどやっぱり、みんなで楽しくお食事、というふうにはいかなかった。
志田も洋平もあまりしゃべるほうではなく、仲もいいわけじゃない。真理子も緊張しっぱなしで、失礼なく食事を食べられるかに集中していた。
「……そういえば、母さんと会ったんだな」
ようやく洋平が口を開いたと思ったら、いきなりヘビーな内容。いや、家族ならもちろん母を話題にしてもおかしくないのだけど。
「元気そうだったよ」
「そうか」
会話はそれで終わってしまう。
ここは気を利かせて何か言葉を足したほうがいいのかと真理子は考えるが、うまい内容が思いつかない。
「父さんは、仕事はどう?」
「順調だ」
また会話が終了してしまう。
(もしかして、一を聞いただけで十をわかる人たち……?)
伝達能力が高すぎて真理子にはハードルが高すぎる。
志田はいったい何を報告するために、この場をセッティングしたんだろう。一言ひとことしゃべるだけで、本題がまったく出て来なかった。
(もしかして、単純に私を紹介したかっただけ……?)
それだとあまりにも恐縮。そして、何も面白いこと言えない、ダメ彼女になってしまっている。
「リヒトは一緒に暮らしたいのか?」
洋平が言った。
「誰と」がないので真理子は困ってしまう。
(私と? 志田くんが私と暮らしたいって質問してるの?)
すでに一緒に暮らしていて、さらに聞いてくるということは、「結婚する気なのか?」という問い?
真理子は一人舞い上がってしまう。
「いや」
志田が拒否する。
空に飛び上がっていた心が一気に転落。この話題が自分のことだったらホントに嫌すぎる。
「だろうな」
「別に父さんが嫌いなわけじゃないよ。こうして高校通わせてもらってるし、好きなようにさせてもらってる。むしろ感謝してるよ」
「わかってる。今さら、ということだよな」
話が高度すぎて真理子はついていけない。
おそらく志田が洋平と一緒に暮らしたいかについて話している。
「今さら父親づらするなと言われても仕方がない。私はそれだけのことをしてきた」
洋平が自嘲気味に言う。
「昔はともかく、今はそんなこと思ってない。父さんにも父さんに生き方があるんだ。それを否定したりしない」
「そうか」
真理子の困惑は止まらない。わざわざこうして面と向かって話しているのだから、前向きな話が行われると思っていた。
でもどうやら、二人とも一緒に暮らさない、という方向で考えているようだった。
真理子はこの日のために買ったシックな黒ドレスで決戦に望む。
「おいおい、別にボスと戦うわけじゃないぞ」
「わかってるよ! 緊張してるだけ!」
レストランに先に入り、洋平を待っていたが、真理子がそわそわしていたので、志田なりのジョークで和ましてくれる。
しばらくして、メガネをかけたスーツ姿の男性が近づいてくる。
「すまない、待たせたな」
休みの日なのに今日も仕事だったらしい。
当たり前だけど洋平はすごく志田に似ていた。背が高くてきりっとしている。そして知的で気難しそうに見える。
「こちら、アイザワさん」
「あ、鮎沢真理子です! よろしくお願いします!」
「志田洋平です、よろしく」
簡単な挨拶をかわす。
二人が付き合っていて、一緒に暮らしていることはすでに志田から伝えてあった。だから、特段この状況に洋平は驚いたりしない。
けれどやっぱり、みんなで楽しくお食事、というふうにはいかなかった。
志田も洋平もあまりしゃべるほうではなく、仲もいいわけじゃない。真理子も緊張しっぱなしで、失礼なく食事を食べられるかに集中していた。
「……そういえば、母さんと会ったんだな」
ようやく洋平が口を開いたと思ったら、いきなりヘビーな内容。いや、家族ならもちろん母を話題にしてもおかしくないのだけど。
「元気そうだったよ」
「そうか」
会話はそれで終わってしまう。
ここは気を利かせて何か言葉を足したほうがいいのかと真理子は考えるが、うまい内容が思いつかない。
「父さんは、仕事はどう?」
「順調だ」
また会話が終了してしまう。
(もしかして、一を聞いただけで十をわかる人たち……?)
伝達能力が高すぎて真理子にはハードルが高すぎる。
志田はいったい何を報告するために、この場をセッティングしたんだろう。一言ひとことしゃべるだけで、本題がまったく出て来なかった。
(もしかして、単純に私を紹介したかっただけ……?)
それだとあまりにも恐縮。そして、何も面白いこと言えない、ダメ彼女になってしまっている。
「リヒトは一緒に暮らしたいのか?」
洋平が言った。
「誰と」がないので真理子は困ってしまう。
(私と? 志田くんが私と暮らしたいって質問してるの?)
すでに一緒に暮らしていて、さらに聞いてくるということは、「結婚する気なのか?」という問い?
真理子は一人舞い上がってしまう。
「いや」
志田が拒否する。
空に飛び上がっていた心が一気に転落。この話題が自分のことだったらホントに嫌すぎる。
「だろうな」
「別に父さんが嫌いなわけじゃないよ。こうして高校通わせてもらってるし、好きなようにさせてもらってる。むしろ感謝してるよ」
「わかってる。今さら、ということだよな」
話が高度すぎて真理子はついていけない。
おそらく志田が洋平と一緒に暮らしたいかについて話している。
「今さら父親づらするなと言われても仕方がない。私はそれだけのことをしてきた」
洋平が自嘲気味に言う。
「昔はともかく、今はそんなこと思ってない。父さんにも父さんに生き方があるんだ。それを否定したりしない」
「そうか」
真理子の困惑は止まらない。わざわざこうして面と向かって話しているのだから、前向きな話が行われると思っていた。
でもどうやら、二人とも一緒に暮らさない、という方向で考えているようだった。
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