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1話・山手線殺しから生まれる悪魔
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「山手線殺しか……」
高校一年の俺は、幕徳学園からの帰りの電車の中で、山手線殺しに巻き込まれていた。
止まらない山手線はすでに10分以上駅に止まらず回っている。電車はブレーキが起動する事も無く少しずつ加速し出していて、何故止まらないのか? と怒り出す客達は先頭車両と後方車両の運転手に問い詰めようと動いていた。中央車両にいた俺は学園がある渋谷から自宅のある新宿区間なら、歩けば良かったと後悔している。
いや、この後悔は後に……というよりすぐに希望へと変わった。
「山手線殺し……自分でも変なネーミングをしたな」
自分自身でも何を言ってるかわからない。
そもそも山手線は生き物じゃなくて機械。
ただの電車だ。
とりあえずスマホを見ると、何故かネットには通じていなかった。通話も圏外であり、どうやらこの俺が命名した山手線殺しが影響してるらしい。周囲に人もほとんどいないので、読みかけの幕末小説でも読もうとスクールバックを開けると、その小説「悪魔神罰」は床に転がり表紙に傷が付いてしまう。
それだけで、現実と虚構の狭間に行きたい俺の心は揺らぐ。
「たった一人で世界を壊す力が欲しい……この山手線殺しをした犯人のような力が。何者も現実には勝てない。あの時出会った悪魔以外は……」
すると、悪魔神罰を拾う少女が現れた。俺と同じ灰色の制服を着ている一人の少女が声をかけて来たんだ。
「偶然ね夜野星矢君。夜野君の言う山手線殺しはオカルトじみた出来事のようだよ」
「星野翔子……お前はこういう時は静観するタイプだとはな」
星野は赤いカチューシャをしている黒髪セミロングのスマートな女だ。クラスメイトであり、学園でも見た目の良さでトップクラスであると思う。けど、俺は特に手を出す事は無い。星野とは親同士が知り合いだから、何かしたら問題になるからだ。
星野はクラスの委員長で、こういう時は色々と動くタイプにしか見えなかった。というイメージを今は否定された。
「フフッ、私が夜野君とは違うと思ってた? 私は無駄な事はしたくないの。だって、ネットも電話も不可能のこの魔列車に乗っている私達に出来る事は無いわ。このスピードを上げた山手線が脱線するのを待つしかないでしょ?」
「言い切ったな。となると、やはり前後の運転手は消えたか、意識不明なんだな」
「客達の話からするとそのようね。それに――!?」
「何だ? 悲鳴がしたぞ?」
突如、後方車両方面から人々の悲鳴が上がる。何か起こった事を察知する俺と星野はその方向へ歩き出すと、今度は先頭車両方面からも人々の悲鳴が上がる。いつの間にか、山手線から見える外の景色は暁よりも真っ赤に染め上げられていた。何かが起こり、何かが変わった事に俺達は焦った。
「夜野君。あの悲鳴と外の景色の変化……明らかに異常事態だよね?」
「いや、異常事態は初めからだ。山手線がこれだけのスピードで走っていても止まらず、脱線もしない事からおそらく外からのシステムでは何も出来ない。もしかすると……」
中学生時代に山に家出をした時に見かけた、「悪魔」が現世に現れたのかも知れない。
そして、後方の車両から逃げて来た少女が、必死に連結通路の扉を開けて俺達に助けを求めた。
「み、みんな殺された! 悪魔が……この山手線には悪魔が……」
『……!?』
少女の背後に黒い歪みのようなモノが見え、少女の声は途切れた。首から下の制服は血で染まっている。
目の前の少女の頭が無い。
つまり、見えない何かがかき消したのが、潰したんだろう。あの血の量からすると、潰した可能性が高いか。そして、前方の車両からも人間達がわらわらとコッチの車両に押し寄せて来ていた。しかし、見えない何かがその人間達を殺して行く。同時に、コッチの車両に行きたい人間達同士の殺し合いも始まっていた。星野は冷徹な目で言う。
「醜いわね」
「あぁ、醜い。人間の行いとは、こうも醜いものなのか」
俺と星野はその人間達に手を差し伸べなかった。背後から異様な寒気を感じたからだ。目の前の阿鼻叫喚とは違う、比べ物にならない悪寒が現れたのを感じた。
「星野、後ろの車両から何かが現れている。見えない何かが……」
「悪魔って言ってたよね。正義は私にあるのよ。邪魔はさせない」
星野はカチューシャを外すと、そのカチューシャを真ん中から左右に割った。その左の先端には、鋭利なトゲが仕込まれていた。
「……星野。お前カチューシャにそんなもん仕込んでたのか。だが、威嚇にもならないぞ。あれは悪魔だ」
「やるしかないなら、無駄でもやるわよ。私はやる事があるから。私は政治家になって世界を動かさなきゃいけないの。正義は私が微笑んでこそよ」
「そうか……! 星野、後ろだ!」
「!? ああっ!」
星野はカチューシャで見えない何かを刺したが、その相手に首を絞められて簡単に殺されてしまう。
そのクラスメイトの死に、俺はあまり動揺しなかった。死んだ者は死んだ者と割り切れる心があった。かつて悪魔を見た経験が、俺を現実離れした心にしているからだ。
(悪魔と戦う力も無い以上、見えない悪魔と戦うよりも今は外に逃げるしかない。無様に生きるなら逃げるしか……)
黒い歪みからボンヤリと赤い瞳が見えた。確実に俺に標的を定めたようだ。だが、俺は自分の死を間近に感じながらも、異様な高揚感を感じていた。もしかしたら、俺の目の前にいるハッキリと見えない存在こそが――。
「本当にお前が悪魔……なのか?」
高校一年の俺は、幕徳学園からの帰りの電車の中で、山手線殺しに巻き込まれていた。
止まらない山手線はすでに10分以上駅に止まらず回っている。電車はブレーキが起動する事も無く少しずつ加速し出していて、何故止まらないのか? と怒り出す客達は先頭車両と後方車両の運転手に問い詰めようと動いていた。中央車両にいた俺は学園がある渋谷から自宅のある新宿区間なら、歩けば良かったと後悔している。
いや、この後悔は後に……というよりすぐに希望へと変わった。
「山手線殺し……自分でも変なネーミングをしたな」
自分自身でも何を言ってるかわからない。
そもそも山手線は生き物じゃなくて機械。
ただの電車だ。
とりあえずスマホを見ると、何故かネットには通じていなかった。通話も圏外であり、どうやらこの俺が命名した山手線殺しが影響してるらしい。周囲に人もほとんどいないので、読みかけの幕末小説でも読もうとスクールバックを開けると、その小説「悪魔神罰」は床に転がり表紙に傷が付いてしまう。
それだけで、現実と虚構の狭間に行きたい俺の心は揺らぐ。
「たった一人で世界を壊す力が欲しい……この山手線殺しをした犯人のような力が。何者も現実には勝てない。あの時出会った悪魔以外は……」
すると、悪魔神罰を拾う少女が現れた。俺と同じ灰色の制服を着ている一人の少女が声をかけて来たんだ。
「偶然ね夜野星矢君。夜野君の言う山手線殺しはオカルトじみた出来事のようだよ」
「星野翔子……お前はこういう時は静観するタイプだとはな」
星野は赤いカチューシャをしている黒髪セミロングのスマートな女だ。クラスメイトであり、学園でも見た目の良さでトップクラスであると思う。けど、俺は特に手を出す事は無い。星野とは親同士が知り合いだから、何かしたら問題になるからだ。
星野はクラスの委員長で、こういう時は色々と動くタイプにしか見えなかった。というイメージを今は否定された。
「フフッ、私が夜野君とは違うと思ってた? 私は無駄な事はしたくないの。だって、ネットも電話も不可能のこの魔列車に乗っている私達に出来る事は無いわ。このスピードを上げた山手線が脱線するのを待つしかないでしょ?」
「言い切ったな。となると、やはり前後の運転手は消えたか、意識不明なんだな」
「客達の話からするとそのようね。それに――!?」
「何だ? 悲鳴がしたぞ?」
突如、後方車両方面から人々の悲鳴が上がる。何か起こった事を察知する俺と星野はその方向へ歩き出すと、今度は先頭車両方面からも人々の悲鳴が上がる。いつの間にか、山手線から見える外の景色は暁よりも真っ赤に染め上げられていた。何かが起こり、何かが変わった事に俺達は焦った。
「夜野君。あの悲鳴と外の景色の変化……明らかに異常事態だよね?」
「いや、異常事態は初めからだ。山手線がこれだけのスピードで走っていても止まらず、脱線もしない事からおそらく外からのシステムでは何も出来ない。もしかすると……」
中学生時代に山に家出をした時に見かけた、「悪魔」が現世に現れたのかも知れない。
そして、後方の車両から逃げて来た少女が、必死に連結通路の扉を開けて俺達に助けを求めた。
「み、みんな殺された! 悪魔が……この山手線には悪魔が……」
『……!?』
少女の背後に黒い歪みのようなモノが見え、少女の声は途切れた。首から下の制服は血で染まっている。
目の前の少女の頭が無い。
つまり、見えない何かがかき消したのが、潰したんだろう。あの血の量からすると、潰した可能性が高いか。そして、前方の車両からも人間達がわらわらとコッチの車両に押し寄せて来ていた。しかし、見えない何かがその人間達を殺して行く。同時に、コッチの車両に行きたい人間達同士の殺し合いも始まっていた。星野は冷徹な目で言う。
「醜いわね」
「あぁ、醜い。人間の行いとは、こうも醜いものなのか」
俺と星野はその人間達に手を差し伸べなかった。背後から異様な寒気を感じたからだ。目の前の阿鼻叫喚とは違う、比べ物にならない悪寒が現れたのを感じた。
「星野、後ろの車両から何かが現れている。見えない何かが……」
「悪魔って言ってたよね。正義は私にあるのよ。邪魔はさせない」
星野はカチューシャを外すと、そのカチューシャを真ん中から左右に割った。その左の先端には、鋭利なトゲが仕込まれていた。
「……星野。お前カチューシャにそんなもん仕込んでたのか。だが、威嚇にもならないぞ。あれは悪魔だ」
「やるしかないなら、無駄でもやるわよ。私はやる事があるから。私は政治家になって世界を動かさなきゃいけないの。正義は私が微笑んでこそよ」
「そうか……! 星野、後ろだ!」
「!? ああっ!」
星野はカチューシャで見えない何かを刺したが、その相手に首を絞められて簡単に殺されてしまう。
そのクラスメイトの死に、俺はあまり動揺しなかった。死んだ者は死んだ者と割り切れる心があった。かつて悪魔を見た経験が、俺を現実離れした心にしているからだ。
(悪魔と戦う力も無い以上、見えない悪魔と戦うよりも今は外に逃げるしかない。無様に生きるなら逃げるしか……)
黒い歪みからボンヤリと赤い瞳が見えた。確実に俺に標的を定めたようだ。だが、俺は自分の死を間近に感じながらも、異様な高揚感を感じていた。もしかしたら、俺の目の前にいるハッキリと見えない存在こそが――。
「本当にお前が悪魔……なのか?」
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