悪魔神罰-共感不要の革命者-

鬼京雅

文字の大きさ
1 / 21

1話・山手線殺しから生まれる悪魔

しおりを挟む
「山手線殺しか……」

 高校一年の俺は、幕徳学園ばくとくがくえんからの帰りの電車の中で、山手線殺しに巻き込まれていた。     

 止まらない山手線はすでに10分以上駅に止まらず回っている。電車はブレーキが起動する事も無く少しずつ加速し出していて、何故止まらないのか? と怒り出す客達は先頭車両と後方車両の運転手に問い詰めようと動いていた。中央車両にいた俺は学園がある渋谷から自宅のある新宿区間なら、歩けば良かったと後悔している。

 いや、この後悔は後に……というよりすぐに希望へと変わった。

「山手線殺し……自分でも変なネーミングをしたな」

 自分自身でも何を言ってるかわからない。
 そもそも山手線は生き物じゃなくて機械。
 ただの電車だ。

 とりあえずスマホを見ると、何故かネットには通じていなかった。通話も圏外であり、どうやらこの俺が命名した山手線殺しが影響してるらしい。周囲に人もほとんどいないので、読みかけの幕末小説でも読もうとスクールバックを開けると、その小説「悪魔神罰あくましんばつ」は床に転がり表紙に傷が付いてしまう。

 それだけで、現実と虚構の狭間に行きたい俺の心は揺らぐ。

「たった一人で世界を壊す力が欲しい……この山手線殺しをした犯人のような力が。何者も現実には勝てない。あの時出会った悪魔以外は……」

 すると、悪魔神罰を拾う少女が現れた。俺と同じ灰色の制服を着ている一人の少女が声をかけて来たんだ。

「偶然ね夜野星矢よるのせいや君。夜野君の言う山手線殺しはオカルトじみた出来事のようだよ」

星野翔子ほしのしょうこ……お前はこういう時は静観するタイプだとはな」

 星野は赤いカチューシャをしている黒髪セミロングのスマートな女だ。クラスメイトであり、学園でも見た目の良さでトップクラスであると思う。けど、俺は特に手を出す事は無い。星野とは親同士が知り合いだから、何かしたら問題になるからだ。

 星野はクラスの委員長で、こういう時は色々と動くタイプにしか見えなかった。というイメージを今は否定された。

「フフッ、私が夜野君とは違うと思ってた? 私は無駄な事はしたくないの。だって、ネットも電話も不可能のこの魔列車に乗っている私達に出来る事は無いわ。このスピードを上げた山手線が脱線するのを待つしかないでしょ?」

「言い切ったな。となると、やはり前後の運転手は消えたか、意識不明なんだな」

「客達の話からするとそのようね。それに――!?」

「何だ? 悲鳴がしたぞ?」

 突如、後方車両方面から人々の悲鳴が上がる。何か起こった事を察知する俺と星野はその方向へ歩き出すと、今度は先頭車両方面からも人々の悲鳴が上がる。いつの間にか、山手線から見える外の景色は暁よりも真っ赤に染め上げられていた。何かが起こり、何かが変わった事に俺達は焦った。

「夜野君。あの悲鳴と外の景色の変化……明らかに異常事態だよね?」

「いや、異常事態は初めからだ。山手線がこれだけのスピードで走っていても止まらず、脱線もしない事からおそらく外からのシステムでは何も出来ない。もしかすると……」

 中学生時代に山に家出をした時に見かけた、「悪魔」が現世に現れたのかも知れない。

 そして、後方の車両から逃げて来た少女が、必死に連結通路の扉を開けて俺達に助けを求めた。

「み、みんな殺された! 悪魔が……この山手線には悪魔が……」

『……!?』

 少女の背後に黒い歪みのようなモノが見え、少女の声は途切れた。首から下の制服は血で染まっている。
 目の前の少女の頭が無い。
 つまり、見えない何かがかき消したのが、潰したんだろう。あの血の量からすると、潰した可能性が高いか。そして、前方の車両からも人間達がわらわらとコッチの車両に押し寄せて来ていた。しかし、見えない何かがその人間達を殺して行く。同時に、コッチの車両に行きたい人間達同士の殺し合いも始まっていた。星野は冷徹な目で言う。

「醜いわね」

「あぁ、醜い。人間の行いとは、こうも醜いものなのか」

 俺と星野はその人間達に手を差し伸べなかった。背後から異様な寒気を感じたからだ。目の前の阿鼻叫喚とは違う、比べ物にならない悪寒が現れたのを感じた。

「星野、後ろの車両から何かが現れている。見えない何かが……」

「悪魔って言ってたよね。正義は私にあるのよ。邪魔はさせない」

 星野はカチューシャを外すと、そのカチューシャを真ん中から左右に割った。その左の先端には、鋭利なトゲが仕込まれていた。

「……星野。お前カチューシャにそんなもん仕込んでたのか。だが、威嚇にもならないぞ。あれは悪魔だ」

「やるしかないなら、無駄でもやるわよ。私はやる事があるから。私は政治家になって世界を動かさなきゃいけないの。正義は私が微笑んでこそよ」

「そうか……! 星野、後ろだ!」

「!? ああっ!」

 星野はカチューシャで見えない何かを刺したが、その相手に首を絞められて簡単に殺されてしまう。
 そのクラスメイトの死に、俺はあまり動揺しなかった。死んだ者は死んだ者と割り切れる心があった。かつて悪魔を見た経験が、俺を現実離れした心にしているからだ。

(悪魔と戦う力も無い以上、見えない悪魔と戦うよりも今は外に逃げるしかない。無様に生きるなら逃げるしか……)

 黒い歪みからボンヤリと赤い瞳が見えた。確実に俺に標的を定めたようだ。だが、俺は自分の死を間近に感じながらも、異様な高揚感を感じていた。もしかしたら、俺の目の前にいるハッキリと見えない存在こそが――。

「本当にお前が悪魔……なのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...