悪魔神罰-共感不要の革命者-

鬼京雅

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21話・星の夜空に現れる星

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 山手線殺し2は成功した――。

 それにより、悪魔王ゼロノスが支配するエリアの東京駅は崩壊した。しかし、その真上にある純白のゼロノスタワーは健在だ。魔列車として永遠に山手線が線路を走っていた事も無くなり、ゼロノスがどんな顔をしてるのか見れないのが残念だが、それはこれから会う楽しみとしよう。

 山手線内から這い出る俺は、すでにゼロノス聖協会最強のアリスが近くにいないのを感じている。左目の魔レンズから生まれた悪魔妖精のミミに周囲を探らせているが、人の気配は大群のせいで感知出来ないようだ。その大群とは、渋谷エリアから東京駅へ侵攻する元警官組織であるルーンメイズと、悪魔王ゼロノスを信仰するゼロノス聖協会だ。それを見るミミは官能的な声を上げて悶えている。

「あれを見てよ星矢。彼等はこれから殺しあうようだよ……血と臓物がミミちゃんのエネルギーになるわぁ」

「ルーンメイズとゼロノス聖協会か。山手線殺し2が開戦の狼煙となったようだな」

 悪魔東京から現実に帰還するのを目的とする腕に白布を巻いたルーンメイズと、悪魔王ゼロノスを崇拝するゼロノス聖協会の人間達の戦争。悪魔東京内で悪魔が介在していない戦いというのが面白い。

 おそらく、先程まで大崎駅を突破して東京駅にたどり着いているルーンメイズとゼロノス聖協会は互いに睨み合う状況だったが、山手線殺し2によりそれは解除されている。鉄くずとなる山手線の上から人間の叫び声を聞く俺は思った。

「……おそらく千人はいるのかルーンメイズは? 大崎では大きな戦闘は無かったようだな……ゼロノスタワーに登る前に美空リーダーに連絡しておくか」

 腕のスマートウォッチを使用してみた。通信は圏内のようで、美空リーダーに繋がる。

「美空リーダー。夜野星矢だ。知っての通り、池袋エリアはポイズンエンドで毒ガスエリアになった。そして、山手線殺し2で東京駅も壊滅させてある。これから俺はゼロノスタワーへ侵入するから、この東京駅付近は任せたぞ」

「美空だ。了解した。けど、一気に喋り過ぎるな夜野。俺はお前の近くにいるぞ? スマートウォッチをマップモードにしてみろ」

「何? こうやって……こうか?」

 確かに、スマートウォッチのマップモードにすると通信者の反応が近くにあった。ルーンメイズとゼロノス聖協会との戦闘が始まり、混沌とする東京駅付近で美空リーダーと再会した。

「元気そうだな美空リーダー。ルーンメイズも問題無く大崎駅を突破したようだな。あの調子なら狂ったゼロノス聖協会の連中にも負けないだろう」

「そっちも元気そうで良かったよ。舞花は一緒じゃないのか?」

「舞花は山手線内ではぐれた。魔力を肉体強化に使えるから生きているはずだ。あの女が開戦してる現場で死ぬわけが無い」

「確かにな。俺の妹は戦闘のプロフェッショナルだからな。長話も出来ないからここまでの経緯を手短に伝えるぜ。大崎のボスはデビルドラッグのやり過ぎですでにイッテたから楽勝だった。問題は人間のゼロノス聖協会だ。奴等は悪魔以上に悪魔なのを知ったよ」

「悪魔以上に悪魔?」

「そうだ。ゼロノス聖協会の連中はデビルドラッグで強くなってる者もいる。大崎悪魔のようにヤク中でダメになる奴もいたが、逆に強くなってしまった奴もいるから向こうの大幅な戦力ダウンとは言い難いな」

「すまんな。当てが外れて。でもルーンメイズには協調性がある。ゼロノス聖協会は所詮は組織的な動きは出来ない烏合の集。やれるだろ?」

「当然だ。警察組織を母体とするルーンメイズは悪魔東京の秩序を正し、元の世界に戻る為に戦うだけだ」

 そう覚悟している美空リーダーに全てを任せた。お互いのやるべき事をやり遂げ、望みを叶えるのが目的だからだ。

「美空リーダー。この東京駅付近は任せた。俺は上のゼロノスタワーへ向かう」

「あぁ。ここはルーンメイズに任せろ。ゼロノス聖協会は食い止めるから、早く悪魔王ゼロノスを倒して来てくれ!」

「おう!」

 こうして、ルーンメイズとゼロノス聖協会の全面戦争が勃発した。





 そして、ゼロノスタワーへ向かう俺は、遠くに見える中央エリアのデビルスターツリーに見とれていた。

「何だ? デビルスターツリーが泣いているのか?」

 何やら、この悪魔東京の中央にあるデビルスターツリーの様子がおかしかった。デビルスターツリーとは人間と悪魔の魂を集めて魔力源とし、その膨大な魔力を悪魔王ゼロノスが使う事によって悪魔達が現世に侵攻する為に存在する魔の塔だ。

「何故デビルスターツリーが生命が鼓動するように点滅してるんだ? 山手線殺し2の影響……? よくわからないが、とにかく俺はゼロノスタワーに向かってゼロノスを倒す事に専念しよう。

 崩壊した東京駅の真上にある、白く汚れの無い聖域とも感じられるゼロノスタワー内に侵入した。同時に、そこのエントランスには東京エリアのロボ悪魔達が現れた。
 そのロボ悪魔達から特殊な音波が放たれているのを左目の魔レンズにて感じる。おそらく通信などを妨害するジャミングがかけられ出している感覚だった。

「今更、通信にジャミングをかけても無駄だぜ! 俺は一人でゼロノスを倒す予定だからな!」

 そうして、目の前のロボ悪魔達を火炎で燃やし尽くした。すると、腕のスマートウォッチに反応がある。

「通信……舞花か?」

 腕のスマートウォッチの着信に気付き、スイッチを押す。

「もしもし、星矢? 私は山手線内から投げ出されてから、アリスって男を追跡してたらゼロノスタワーに逃げたからそこにいるわ。アンタはどこにいるの?」

「……」

「通信聞こえてる? 私よ。美空舞花よ!」

「わかってる。俺もゼロノスタワーに侵入している。近くにいるなら俺の元へ来い」

「わかったわよ。そっちにアリスでもいて驚いているのかと思ったわよ」

「いや、ここでスマートウォッチが使えるとは思わないから驚いただけだ。何故ゼロノスタワーでもネット通話が出来るのかは不明だが、ジャミングを使える敵がいる以上いつまで使えるかわからん。急いで合流するぞ」

 すると、紫色の髪を振り乱しているセーラー服のミミが興奮しながら空を舞っていた。

「あの女をエサにしてゼロノスに会いに行こう! あの女もここで死ぬの! 嬲られ、犯されて死ねぇ! アハハッ!」

「ミミ。舞花が死んだらお前もつまらなくなるんじゃないか?」

 と言うと、ミミは核心的な事を言われたかのような顔をして黙った。そして、俺は茶髪のセミロングの婦人警官姿の少女と再会した。その後、ゼロノスへの道のりの正門らしき白い扉を見つける。

「この扉からがメインのゼロノスタワーのようだな。ゼロノスの特殊な魔力を感じる。だろうミミ?」

「そうだよ。でもこのゼロノスドアはゼロノスの魔力を持つ星矢でも開けられる扉じゃないね。そもそも、魔法や力だけでは開かない扉みたい。だから死ね!」

 と、ミミは舞花に突撃して顔面に蹴りを入れていた。舞花はミミを捕まえて鍵穴のような穴に突き刺していたが、無論開く事は無い。どうやら、本当にこの開かずの門は魔法や力だけじゃ開かないようだ。
 最上階にいるゼロノスへのルートがこれしか無いのはその為なのだろう。

 そうこうしている間に、鋼鉄のロボ悪魔達が背後に百体以上集まっている。こんな入口で無駄な体力を消費している場合じゃない。俺と舞花に焦りの色が見え出し、その緊張感でミミは興奮している。

(この扉はどうすれば開く? 考えろ! 力でも魔力でも開かない。押しても引いても、左右にも開かない扉が簡単に開く方向を――)

「星の流れと逆よ」

 衝撃のような声が俺の脳内にこだました。懐かしさすら感じるその声を求めるように呟いていた。

「? 何の事だ舞花?」

「は? 私は何も言ってないけど?」

「そうか。ならいい。俺は一つの策を思いついた」

 どうやら舞花の言葉ではない声に惑わされそうだったが、その言葉には何か大きな説得力を感じてもいた。その声の主の言う通り、星の流れとは逆に行こうとしたんだ。

「このゼロノスドアは左右に開けるんじゃなく、こうする」

 ぐいっと下から引き上げた事により、何をしても開かないゼロノスドアが開いた。

『――!?』

 すると、白い煙が爆発したように俺達を包んだ。毒ガスか? とも思ったがそうではないのをミミが教えてくれる。そして、また謎の声が聞こえて来た。

「人間は絶対勝てないモノにも勝とうとする意思がある。その強い意志……情動を手にすれば我は真の悪魔王となれるのだ」

(この声はゼロノス……? いや――この声は――この声の主は――)

 初めは女の声に聞こえた。けど、それは男のような声になり、また女の声になってからハッキリとした事がある。その声の主はすでに死んだ人間の声という事だ。その声の主はゼロノスドアが開いた白い煙の先で、話している。

「山手線にはデビルスターツリーを解放するトリガーの役目があったの。それを貴方は壊してしまった。でも、今起きている人間達の抗争がゼロノスデイを早めるでしょう。悪魔よりも人間の魂の方が純度が高いからね」

 まだ煙で姿は見えないが、明らかに俺に語りかけて来ている。それも、ゼロノスデイが早まるとか言う、ふざけた話をしながらだ。

(何故お前が生きている? 山手線殺しが起きて、悪魔東京が生まれた日に悪魔王ゼロノスに殺されたお前が――)

 舞花もミミもわけが分からず少し先にいる人間の声に困惑しているが、俺にはその人間の主の答えが出ていた。

 その女は星野だった。

 山手線殺しで悪魔王に挑み、殺された女子高生である星野翔子。俺のクラスメイトであり、昔からの幼馴染でもある。そして俺の唯一の――。

「星野……星野翔子。まさか、生きていたのか?」

「初めまして。夜野星矢。そしてゼロノスデイの始まりと共にサヨウナラ」

 白いゼロノス聖協会の法衣を来た黒髪ロングの美少女が白い煙の中から現れた。美しく、残酷で、とても澄んだ顔の少女が俺の前に立ち塞がった。
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