人生最後の恋愛-認知症とグループホーム-

鬼京雅

文字の大きさ
4 / 16
一章・石崎恵子

4話・一つの事件の始まり

しおりを挟む
 金曜日の夕方、俺のスマホに時の館の職員から一件のショートメールがあった。その内容を確認して土曜日の10時ぐらいに行くと伝えた。

 グループホーム・時の館に到着すると、母は泣いていた。無論、嘘泣きというのは息子の俺にはわかる。俺は安村ジイさんが一階にいない事を確認して、職員に話しかけた。

「昨日の話だと、最近母が安村さんにキスをねだられて困っているという事ですね」

 そう、時の館に来た発端はこうだった。
 昨日の夕方に時の館からあったショートメールをウザいな……と思いつつ内容を見ると、母が安村ジイさんに求愛行動をされて困っているという話が書いてあった。

 だからこそ、わざわざ自分のデートの約束時間をズラしてまで時の館に来たんだ。

「……成る程。そうですね」

 俺は泣き真似をして同情を誘おうとしてる母の近くで、職員から色々と話を聞いていた。同時に、思っている事もある。

 そもそも母は自分からほっぺにキスをしていたんだ。
 それを最近になって口してくれと言われるようになって、母は困惑し出したようだ。これは、安村ジイさんが色々と元気になってしまったのも原因だろう。

 初めは言う事を聞くだけのジイさんだったけど、ジイさんの中で恋愛感情が芽生えたせいでエネルギーが湧き上がり、男らしくいようという気概が出てきた。それが、二人の関係を壊してしまったようだ。

「時の館側からも、安村さんには伝えてあります。安村さんも、もうしないと約束してくれました。あとは恵子さんの気持ちもありますが……」

「母は大丈夫です。そんなキスぐらい求められるぐらいでへこたれません。だろ?」

「勿論だよ! ちゃんとしてない、あんなジイさんなんて殴ってやるんだから! ふざけんじゃないよ!」

「ちゃんとしてなくても、殴るのはダメだ。こんな感じで母は元気なので、職員の方々も安心して下さい。では、失礼します」

 すぐに帰ろうとする俺を引き止めようと母は何か言っていたが、職員がデートですよと余計な事を言ってしまったから激高する母は俺の彼女に対して、「殴ってやるんだから!」と騒いでいたが無視して時の館を出た。

 漫画のキャラクターのように、やれやれだ……とテンプレなセリフを呟いている自分自身を同情した。





 時の館では相変わらず母は他の入居者とのイザコザが色々あるようだけど、数日後には何故か母と安村ジイさん二人の関係は修復されていたようだ。また時の館の職員からショートメールがあり、不仲が解消されたから安心して下さいという内容だった。

「……何かあるな。こんなすぐに仲良くなるわけがない。何かギブアンドテイクがあるんだろ。安村ジイさんからのギブアンドギブみたいなもんかも知れんが。一応、時の館に確認しに行くか。面倒だが……」

 そう、かなり面倒だが嫌な予感がしたから、また時の館へ向かった。母は一度嫌い出すと、蛇蝎のように嫌うのがテンプレだ。だから、母の言動や部屋の変化などを調べないとならない。過去にデイサービスを利用した時にも似たような事があったから、今回は早めに潰しとかないとならない。

 また、やれやれ……と呟いてから時の館へ向かう事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...