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一章・石崎恵子
5話・女の過去は知らない方がいい
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その日の夕方に時の館に到着すると、丁度母はトイレ中だった。その間、職員に伝えて母の部屋に入った。物が多い母の部屋は特別な変化は無い。あったのは、母の部屋の引き出しにある男物の時計だけだ。それは少し傷のある古びた銀時計。
「この銀時計……見覚えがあるぞ……」
間違い無く、安村ジイさんの腕時計だった。
どうやら、一度関係がこじれた母と安村ジイさんの仲直りの速さは「物をあげる」と言う安村ジイさんの行為がキッカケだったようだ。
物をあげる事で、安村ジイさんは母の心を掴んでいるようだった。母と接する事で認知症も改善傾向が見えて来た効果は、こんなズル賢さをも考える羽目になっていたんだ。
俺はそんな話を何気なくする為に、近くにある公園に母と共に連れ出して話をしていた。母は知り合いらしいバーさんと少し先のベンチで話している。俺は、銀時計をポケットから取り出した。
「これは安村さんの時計だよね?」
「……うむ」
「だよね。安村さんの気持ちは有り難いけど、この時計は受け取れないよ。第一に、使われない時計なんて貰っても仕方ないでしょ? だから母と仲良くするのに何かをあげる必要は無いよ」
「それは……確かに時計は良くなかったね。すまんよ。僕は恵子さんにあげる物が無くてね。価値のありそうなものが、時計ぐらいしか無かったんだ」
「そうか。母がコッチに来てるから、軽く母にも伝えておくよ」
安村ジイさんが頷くと、俺は見知らぬバーさんと適当な話をしていた母に言う。
「安村さんから何か貰っちゃダメだよ? こういう時計とかの貴重なものは特にダメ。飴とかみたいに消えるものとは違うんだから」
「飴とか消えるものならいいんだ?」
「飴とかなら問題ないよ。値段も安いし、すぐに口の中で消えるものだし。じゃ、二人共仲良くするんだよ? また散歩行くんだからね?」
『はい!』
二人は気持ち良く返事をしてくれた。そして、母は公園に飽きたようでそそくさと帰り出している。俺と安村ジイさんもその後に続いた。
「安村さん。安村さんは母を気に入っているようですが、亡くなっている奥さんに似ているからですか? 先日、そんな話を聞きました。母から」
「そうだね。確かに亡くなった妻に似ているのもある……恵子さんほど元気じゃないけどね。でも、本当はただ元気を与えてくれる存在というのが大きいんだ。足もまともに動かず、ただ生きているだけの屍だった僕に活力をくれた。そんな恵子さんを大好きだ」
「……そうですか。母も夫を亡くしているので、似たような境遇です。だから合うのかも知れないですね」
「恵子さんは夫を亡くしていたのか……それは知らなかった。恵子さんは僕の話を聞いてくれてばかりいたから、僕は恵子さんの事を以外と知らないんだ」
「女の過去は知らない方がいいです。それが平和な道ですよ」
「女の過去は知らない方がいい……か。若いけど康介君も女で苦労したクチだね?」
「バン」
と、俺は前を歩く母が近寄って来たから指で安村ジイさんを銃撃するマネをした。すると、微笑みながら男同士の秘密として黙った。
「康介、安村ジイさんを鉄砲で殺すつもりなの? なら私も殺そ!」
言うなり、母は両手の二丁拳銃で安村ジイさんに発泡していた。よくわからないが、三人で笑い合いながら指鉄砲で狙撃し合った。そうして、俺達は時の館に帰って来たんだ。
その別れ際に、安村ジイさんはこんな事を言っていた。
「恵子さんといて、僕も認知症が改善ケイコーにあるようだからね!」
『ジジイギャグ!』
と、俺と母はシンクロしてツッコんだ。
こんなギャグが言えるなら、確かに認知症改善傾向にあるようだ。
帰り際に、腕時計は安村ジイさんに返した。とりあえず、二人の関係はこれで修復されたようだ。
その後は本当に安村ジイさんも、キスなどの行為は求めないようになっていた。
そうして、そんな緩やかな日々が続いて行った。
「この銀時計……見覚えがあるぞ……」
間違い無く、安村ジイさんの腕時計だった。
どうやら、一度関係がこじれた母と安村ジイさんの仲直りの速さは「物をあげる」と言う安村ジイさんの行為がキッカケだったようだ。
物をあげる事で、安村ジイさんは母の心を掴んでいるようだった。母と接する事で認知症も改善傾向が見えて来た効果は、こんなズル賢さをも考える羽目になっていたんだ。
俺はそんな話を何気なくする為に、近くにある公園に母と共に連れ出して話をしていた。母は知り合いらしいバーさんと少し先のベンチで話している。俺は、銀時計をポケットから取り出した。
「これは安村さんの時計だよね?」
「……うむ」
「だよね。安村さんの気持ちは有り難いけど、この時計は受け取れないよ。第一に、使われない時計なんて貰っても仕方ないでしょ? だから母と仲良くするのに何かをあげる必要は無いよ」
「それは……確かに時計は良くなかったね。すまんよ。僕は恵子さんにあげる物が無くてね。価値のありそうなものが、時計ぐらいしか無かったんだ」
「そうか。母がコッチに来てるから、軽く母にも伝えておくよ」
安村ジイさんが頷くと、俺は見知らぬバーさんと適当な話をしていた母に言う。
「安村さんから何か貰っちゃダメだよ? こういう時計とかの貴重なものは特にダメ。飴とかみたいに消えるものとは違うんだから」
「飴とか消えるものならいいんだ?」
「飴とかなら問題ないよ。値段も安いし、すぐに口の中で消えるものだし。じゃ、二人共仲良くするんだよ? また散歩行くんだからね?」
『はい!』
二人は気持ち良く返事をしてくれた。そして、母は公園に飽きたようでそそくさと帰り出している。俺と安村ジイさんもその後に続いた。
「安村さん。安村さんは母を気に入っているようですが、亡くなっている奥さんに似ているからですか? 先日、そんな話を聞きました。母から」
「そうだね。確かに亡くなった妻に似ているのもある……恵子さんほど元気じゃないけどね。でも、本当はただ元気を与えてくれる存在というのが大きいんだ。足もまともに動かず、ただ生きているだけの屍だった僕に活力をくれた。そんな恵子さんを大好きだ」
「……そうですか。母も夫を亡くしているので、似たような境遇です。だから合うのかも知れないですね」
「恵子さんは夫を亡くしていたのか……それは知らなかった。恵子さんは僕の話を聞いてくれてばかりいたから、僕は恵子さんの事を以外と知らないんだ」
「女の過去は知らない方がいいです。それが平和な道ですよ」
「女の過去は知らない方がいい……か。若いけど康介君も女で苦労したクチだね?」
「バン」
と、俺は前を歩く母が近寄って来たから指で安村ジイさんを銃撃するマネをした。すると、微笑みながら男同士の秘密として黙った。
「康介、安村ジイさんを鉄砲で殺すつもりなの? なら私も殺そ!」
言うなり、母は両手の二丁拳銃で安村ジイさんに発泡していた。よくわからないが、三人で笑い合いながら指鉄砲で狙撃し合った。そうして、俺達は時の館に帰って来たんだ。
その別れ際に、安村ジイさんはこんな事を言っていた。
「恵子さんといて、僕も認知症が改善ケイコーにあるようだからね!」
『ジジイギャグ!』
と、俺と母はシンクロしてツッコんだ。
こんなギャグが言えるなら、確かに認知症改善傾向にあるようだ。
帰り際に、腕時計は安村ジイさんに返した。とりあえず、二人の関係はこれで修復されたようだ。
その後は本当に安村ジイさんも、キスなどの行為は求めないようになっていた。
そうして、そんな緩やかな日々が続いて行った。
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