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一章・アイヅ王子との婚約破棄編

14話・会食会で色々あります

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 夜になり、バクーフ王国とアイヅ王国の友好を示すパーティーが開かれます。

 昨日はアイヅ王子を中心にしたお披露目でしたが、今日はアイヅ王国をバクーフに知ってもらう為のお披露目です。

 短い劇や、お話などでアイヅ王国の農業国家としての成り立ちがわかりました。王族や貴族達も盛り上がっているわ。

 私は悪役令嬢として、パワーを蓄えてるのでとにかく肉を食べていました。肉!  肉!  肉!  と多少、周りに引かれても肉を食べてエネルギーを補給してから戦闘に挑まないとならないのです。悪役令嬢はかなりエネルギーを使うし、疲れますから。

 そんな事をしつつも、スズカの動きは見逃しません。

(スズカはバクーフ王の近くから大きく動いていないわね。今すぐにはアイヅ王子へのアタックはしないのかしら?  向こうが動かないなら、私も今は様子見でいいかな。貴族令嬢達じゃ話にならないだろうし。敵はスズカただ一人)

 エネルギー補給をしつつ、私はスズカの動きとアイヅ王子の動きを注視する。

 アイヅ王子は様々な貴族令嬢と会話をし、あくまで君達にもチャンスはあるんだよ?  と言ったような思わせぶりな態度で魅了している。

(やはり王子だけあって、人の扱いは上手いのかも。今回はコチラの罠にかかってもらうけどね)

 そろそろお淑やかな感じから、私も悪役令嬢モード全開で行こうと気持ちを高めたの。貴族令嬢達と会話をしたアイヅ王子の前に私は現れる。

「あらアイヅ王子。ニートさんの畑ではどうも。ニートさんも王子の野菜好きを喜んでいましたよ」

「やぁ、アヤカ。僕もニートさんの畑にはトレビアーンな気持ちで一杯さ。でも、スズカも別の意味で喜んでしまっているのではないか?  と心配でもあるよ」

「なら、私にしとく?」

「え?」

 と、アイヅ王子に軽いジャブをかましてみる。

(こんなジャブも今のアイヅ王子にはストレートに効いてるわね。アッパーまでくらわせてノックアウトさせたい気分だわ。そして、鼻の穴にバタードングリ詰め込んでKOよ!)

 と、思う私はアイヅ王子に胸が当たるように密着し、

「さっきから動き過ぎて襟元が乱れてるわよ王子。直してあげるわ」

「……おぉ、ありがとうアヤカ。アヤカはやはり僕の母親のようだ。まさか君のような女がいるとはバクーフ王国は広い国だな」

 と、自国にいる母親を思ってアイヅ王子は私に感謝してるわ。

(私は母親じゃなくて、スズカとの婚約破棄を狙ってるのよ。王子のオンリーマジックは欲しいけど、母親になんかなれないわ)

 にしても、敵の動きが無いのが気になるわ。スズカはヒゲの豊かなバクーフ王と話しているだけで、わざわざコチラに来ないわね。やけに余裕があるけど、何かあるのかしら? なら、攻めさせてもらうわよ――。

「ねぇ、アイヅ王子。二人でベランダで夜景を見ない?」

「夜景をか?  いいね。静かに夜景を見るのもロマンチックでジュテーム! だよ」

「じゃあ一緒に――ん?」

 何やら嫌なノイズがパーティー会場を満たしたの!  その音の元を辿ると、茶髪の白いドレスを着たSSS級美少女・スズカがいたわ。一瞬、コチラを見て微笑んだスズカはいきなりマジックマイクでスピーチを始め出した。

「本日は、幼馴染であるアイヅ王国の王子との会食パーティーにお越しいただきありがとうございます。今夜は私スズカと、アイヅ王子のお話をしようと思います。王子~!」

 大きく手を振りながらクソのような甘ったるい声を出したスズカに呼ばれるアイヅ王子は、スズカのいる方向へと慌てて向かう。

(あの汗ばんだしょーもない脇の毛穴に、五寸クギ刺してやりたいわ。100本ほどね!)

 私がイラついていると、アイヅ王子もマジックマイクで話し出す。自分の下のマイクもスズカに使われたそうな顔しててイラつくわね。

「僕もスズカとは子供の頃に遊んだきりで久しぶりの再会だったけど、こんなに美人になっていて驚いたよ。それにバクーフもジパング大陸の中央都市として都会であるし、僕はここに来れて幸せだ。皆さんありがとう」

「そもそも私とアイヅ王子との出会いは十年近くも前になりますわ。あの頃は男女という性別すらわかってないような子供だったから、やたら王子とキスをしていた記憶があります」

「照れる話はよそうよスズカ!」

「いいじゃないですか~。婚約したらいっぱいキスするんだし~」

 かなりラブラブモードでスズカはイチャつき出してるわ!  キモい!  鼻の穴にバタードングリ詰め込んでやりたいわ!

(何あのキモキャラ!?  キモ!  キモ!  砂肝! スズキモ!)

 でも作戦としては悪くは無い。
 いきなり、会食で幼馴染の話を持ち出し、他の貴族令嬢を牽制した。こんなパーティー会場であんな話をし出したら誰もスズカには勝てる存在はいない。

 会場全体も、まるでスズカとアイヅ王子の婚約発表みたいな雰囲気になってるわ!


(ええい……ここまで大胆で堂々とした行動に出るとはやるわねスズカ。ヒロインモードと自分の立ち位置を良くわかってる行動ね。なら私は……!)

 パーティー会場は何やら、歓声が上がっていたの。ふと、私はスズカとアイヅ王子のいる方向を見ると、二人はキスをしていた――。

 やられた!
 スズカがキスまでしてたら、他の貴族令嬢が手を出すのも無理になる。そもそも、他の貴族令嬢なんか何も出来ないけど、これは事実上の婚約発表じゃない!

 バクーフ王も左右が跳ね上がったヒゲを下に向けるほどの涙を流してるし……。

 このパーティー会場で、私は孤独なんて感じている場合じゃない。だって私は悪役令嬢だからね。

(どいつもこいつも、クソのような盛り上がりしてんじゃないわよ。王子と姫が婚約?  そんなテンプレは天ぷらとして揚げればいいの。姫なんて天カスよ、天カス。天カスは美味しいから、焦げて食べれない天カスの方ね。そして、私は特上海老天! その私が出る手段はこうよ……)

 問題無くパーティーも終わり、私はアイヅ王子の横を横切ってパーティー会場を後にする。バクーフ王とスズカは自分達の自室へ引き上げて行き、アイヅ王子も自由になったわ。





 パーティー会場を後にする私の背後に、急ぎ足の足音がした。

(来たわね……)

「待ってくれアヤカ!」

 と、少し疲れているアイヅ王子が現れたの。ここまでは計画通りね。さっきのスズカとのスピーチの興奮が冷めないのか、無意味な言い訳を並べて来てるわ。

「突然スズカにキスをされたから驚いたよ。みんなの目の前でされたら、コッチも照れてしまうよね。あの子は昔から自由を求める冒険心が強いから困ったものだよ。これじゃ、婚約披露パーティーになってしまった感じだよね。……アヤカは何か気になったかい?」

(まるで終わらない回転寿司のような言い訳ね)

 私が嫉妬でもしてるような口ぶりだから、現実を思い知らせてあげよう。私は悪役令嬢だから簡単には負けないの。

「驚きはしないわ。キス程度じゃ妊娠はしないからいくらでもどうぞ? 最後に勝つのは婚約した者だけよ。それに……」

「それに……?」

 ふと、不安げな顔を見せた。
 そうよぉ……そのクソのような顔を私は見たいのよぉ!  地べたを這いずり、絶望し、嗚咽するようなクソのような顔をねぇ!  と、少し満足する私は言う。

「私は好きな男がいるの。それはとても強い私の勇者様」

「勇者様……それは魔王封印から姿をくらました勇者の事か? 勇者の事がアヤカは……」

「好きなのよ」

 と、言って頬にキスをしてあげた。
他の男が好きと言いつつ、キスをされたらどんな気分なのかしら?  かしら?  ジュテームかしらぁ?

 これでアイヅ王子は混乱し、二人の中で揺れ動くはず。状況は不利でも、最後まであがいて見せるわよ。悪役令嬢としてね!
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