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一章・アイヅ王子との婚約破棄編
17話・アイヅ王子に切り札を使います
しおりを挟む「僕は婚約に関しては母親に一任している。ほぼバクーフ王の娘であるスズカで決定ではあるけど、婚約は国の母親に聞いてからじゃないとならないのさ。父より母親が強いのも困ったものだよ」
そう、アイヅ王子の意思だけではスズカとの婚約はならないようね。幼馴染、姫などの強力なカードを持っていてもアイヅ王子の母親がオッケーしないと無理。
だけど、アイヅ王国もジパング大陸の中央国家であるバクーフ王国との外交は強く結びたいはず。戦争回避にもなるし、協力国家として安定した物資の供給が互いに出来るメリットがあるから、この婚約が破棄されるとも思えない。
だから私は悪役令嬢として、チェックメイトされた状況を打破しないとならない。
(どうやら、アイヅ王子の完全攻略はアイヅ王子の母親にあるようね。今からアイヅ王国へ行って母親を攻略するなんて無理だし、これはかなり不利な状況かも……)
盛り上がっていたパーティーは少し静かになっているけど、今は私だけが暗い気持ちでいる。目の前の二人の関係を壊す手段がアイヅ王子の母親となると、その母親を利用する事は絶対条件。
(ここはスラトを使って、アイヅ王子をけしかける必要があるわね。……?)
隣からイビキが聞こえた。
何とスラトが寝てたの!
アイヅ王子とスズカは目を丸くしていて、ニートさんはすぐに立ち上がってスラトの後ろに行く。私は何でいきなり寝てるの? とわけがわからず揺さぶる。
「スラト? どうしたの? 寝てちゃダメでしょ? アイヅ王子は大事な話をしていたのよ?」
「弟のスラトはオレンジンジャエールで酔ったんだろう。弟はジュース関係は酔うんだ。水以外の飲み物は酔っ払うのが難点なのさ」
「そうなんですかニートさん……」
知らなかった……。
おそらく、スラトすら気付いてないようだわ。気付いてたら飲まないだろうしね。暴れたりしないなら、寝かせておくが吉かな。
寝てる間に人間モードからスライムに戻っても困るので、私とニートさんでスラトを二階へ運んだ。ベッドの上にスラトを寝かせると、ニートさんはスラトの胸に手を当てて魔力を注入したの。
「はっ!」
と、光の魔力がスラトの中で溢れ、どうやらスラトは酔いが収まりスヤスヤと寝ているわ。
「流石は元の飼い主ですね。酔いまで覚ますとは」
「これくらいは大した事無いよ。言い忘れていたが、スラトはジュースで酔うから注意だ。そして、酔う事を覚えていなのも厄介」
「これからは注意しますわ。でも、ニートさんがジュースを飲むのを注意出来たのでは?」
「それを言われるとキツイが、アヤカはアイヅ王子とスズカの婚約破棄を狙ってるんだろ? 状況的に一度頭を切り替える必要もあると思ってスラトをそのまま飲ませておいたんだ。下に戻った時が事実上ラストチャンスだろう?」
私はゆっくり頷いた。
まさか、ニートさんがここまで考えていてくれるなんてね。確かに明日の夜のパーティーでアイヅ王子は婚約相手を仮に決める。仮でも決めた以上は覆すのは難しい。
そう、考える私にニートさんは言う。
「で、アヤカはアイヅ王子をゲット出来そうなのかい?」
「母親を攻略するのは時間的にも不可能だから厳しいかも。でも、最後まで諦めず戦うわよ。私はこの国のクエストクラスだもの」
「それだよ。その気持ちなら大丈夫そうだね。その源は何なんだい?」
「私は勇者様を信じているし、見守っていてくれるはず。勇者様への信仰が私の強さよ」
「……そうか。否定はしないよ」
やけに冷静な顔をしたニートさんは、一階へ戻る。スラトに毛布をかけてから私も部屋を出た。
「あっ!」
私は階段を踏み外してしまい、ニートさんに助けられた。抱き締められる私は瞳を閉じる事も出来ない……。
『……』
唇と唇が、一瞬重なってしまったの。
ニートさんの唇が……。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい!」
ダメだ!心が乱れてる! 私、死にそう!
こんな時にパニックになってるわけにはいかない。でも体内の魔力回路もメチャクチャで心が落ち着かない!
(これはマズイ……偶然とはいえニートさんとキスしちゃった……)
混乱したまま私は一階のゲストルームへ行く。すると、スズカの豊かな胸の谷間でアイヅ王子はよしよしされてる。
(あの肉体には勝てないわ……)
自信を無くして来たかも。
色々と無理難題を無理矢理こなして来た疲労も出てるわ。こんな時は、やっぱりあの人に頼るしかない。
(勇者様……力を貸して下さい……)
どうしても最後は勇者様に頼ってしまう。
私の命の恩人の勇者様。
いつか私も勇者様の役に立ちたい。
魔王が復活したら、私は悪役令嬢として魔王討伐のメンバーになるのが夢。
だからこそ、ガールズラブ展開になる呪いを解いて自由になり、私は私のしたい事をするの――。
抱き締められた時の背中に触れたニートさんの手を思い出した。微かに背中が発光して、私は乱れていた魔力回路を修正する。
私の中の膨大な魔力が安定して、心の中もクリアになった。
切り札を使おうかしら――。
そうして、パーティーはそのまま進んで行きお開きの時間になったわ。二時間ほどのパーティーで途中、スラトが寄ってダウンしたけど楽しいパーティーだったわ。
アイヅ王子はスズカとニートさんの関係をあまり疑っていないようで、二人が話していても問題無く見守っている余裕が生まれていた。先に外に出た二人を確認してから、私はアイヅ王子に言う。
「ねぇ、アイヅ王子。王子が私と婚約してくれたら、私がアイヅ王国を守ってあげるわよ」
「え? 一体どういう事だ?」
「クエストクラスと婚約したら、全て丸く収まると思わない? お母様もそう思うわよ」
と、アイヅ王子にキスをした。
ここで、悪役令嬢というクエストクラスが私だとバラしたの。キスをされたアイヅ王子は君がクエストクラスなのか? と驚愕してるわね。
これで、明日の婚約勝負は互角以上のはず!
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